足りないゴール それでも貫く松本山雅の信念

得点力アップのために必要なことは何か――。2026年10月3日のJ3第9節。松本山雅FCはガイナーレ鳥取に0-1で敗れた。リーグ戦9試合のうち4試合が無得点。総得点8は、福島ユナイテッドFCのMF岡田優希が1人でマークしている9得点を下回る。16位に低迷するチームが浮上するためには得点力アップが必要不可欠。選手たちは打開策を見出そうと日々の練習に取り組んでいるが、10月11日には今季無敗で首位に立つ鹿児島ユナイテッドFCと対戦するホームゲームが迫っており、待ったなしの状況だ。選手たちや石﨑信弘監督の言葉から、チームが目指す方向性を探った。
文:板倉 就五
KINGDOM パートナー
明確でブレない原点
良い守備から良い攻撃へ
「背後!」「追い越していけ!」
2026年10月7日、松本市の信州グリーンフィールドかりがね。縦に長く仕切られたコートで行われた5対5の練習で、石﨑信弘監督が声を張り上げた。味方がボールを持ったチームには、背後への動き出しや前方向へのサポートを要求。厚みと推進力を持ってゴールに向かう攻撃練習だ。

石﨑監督によるチームづくりの一丁目一番地は「安定したディフェンス」。得点力に課題を抱えているからといって、攻撃に特化した練習メニューを組む頻度は低い。
「背後」や「追い越していけ」といった指示が出た数秒前に場面を戻してみる。
「切り替えろ!」「下がるな!」「そのまま前に出ろ!」
ボールを失ったチームの選手たちに対して、素早い攻守の切り替えから高い位置での奪回を指示する声が飛ぶ。

サッカーは、プレーに切れ目のない攻守一体の競技だが、石﨑監督によるチームづくりに敢えて順序を付ければ、「良いディフェンスからの良い攻撃」になる。得点力が低いから攻撃力を磨くという図式になってしまえば、チームの軸がブレる。

「立ち返るべきところは守備。松本山雅が強い時、勝てる時は、守備が徹底された上でカウンターやセットプレーで点を取っている。僕は、それが松本山雅の形だと思っている」とFW佐藤亮。石﨑監督も「一番(やりたい攻撃)は、高い位置で奪ってからのショートカウンター」と強化の根幹を堅持する。
KINGDOM パートナー
相手によって分かれる明暗
カウンターからゴール奪えず
その戦い方が奏功した試合もある。
第3節の愛媛FC戦や第4節のギラヴァンツ北九州戦、それにJ2の湘南ベルマーレとアルビレックス新潟を打ち破ったルヴァンカップもそうだ。高い位置からの連動したプレスによって奪ったボールから次々とゴールに迫った。

ただ現状では、成否は相手のスタイルに依るところが大きい。
第5節のFC大阪戦や続くSC相模原戦、メンバーを大幅に入れ替えて“対松本山雅用”にロングボールを多用してきた鳥取戦などは、高い位置からのプレスをロングボールによって無効化され、ハイボールの競り合いやセカンドボールの奪い合いで後手に回った。

低い位置でボールを奪っても、チームとして効果的に前進したり相手守備を崩したりする形を確立できていないため、背後を狙ったロングボールやサイド攻撃が不発に終わると途端に攻撃が手詰まりになる。
ここまでに挙げた8ゴールの得点者を見ると、MF金子翔太が2得点でチーム最多。FW田口裕也、FW田中想来、MF村上陽斗、DF樋口大輝、DF宮部大己が1点ずつで、残る1点は樋口のシュートが相手DFに当たって入ったオウンゴールだ。
このうち、カウンターが起点になったと呼べるゴールは、MF力安祥伍がセカンドボールを回収した流れから金子翔太が決めた愛媛戦の得点のみ。サイドを崩してからのクロスをゴール前で合わせた形は1点もない。

決定機でのシュートミスなど、選手個人の質と精度を欠いたシーンも8月を中心に多くあったが、指揮官が「一番」と位置付ける形から得点を奪えていない。課題は明白だ。
ゴールを模索する選手たち
「やるべきことをもっと」
選手たちからは、さまざまな声が出ている。
佐藤のように、石﨑監督が掲げる原点を重視して攻撃の回数を増やし、精度を高めていきたいとする声が一つ。

ボールを保持した際にロングボールによって相手の背後やサイドに起点をつくるだけでなく、「テンポを遅らせてでも攻撃に関わる厚みを増やしてからゴールに向かいたい」と話す選手もいれば、「クロスはたくさん上がっている。もっと迫力を持ってゴール前に入ったり、中で決め切る質が出てきたりすれば得点は増える」と強調する選手もいる。
現状に対して疑心暗鬼になっているというよりも、それぞれの立場やポジションで得点力アップのためにできることを必死に模索しているという捉え方の方が正確だろう。

石﨑監督は、試合前日を除き、ほぼ全ての練習を公開している。紅白戦やセットプレーの練習は、試合に向けた戦術や起用選手の情報が丸裸になる恐れがあるため非公開にするJクラブが多いが、石﨑監督は違う。
その理由は、練習を公開することで試合の来場者を増やしたいという考えや、多くの目の中で緊張感を持ってトレーニングをしたいといったポジティブなものばかり。
そして、付け加えるならば、対戦相手がどこであろうと自分たちがやるべきことは変わらない――という確固たる矜持からだろう。
対策をされたなら、その上をいって勝つ。「(シーズン中に)方向性を変えなければ、結果が出るという信念がある」と力を込める。

「(狙った攻撃が)ダメだったら、もう一度走って奪い返せばいい。そういうメンタリティが大事」と樋口。「(石﨑監督就任直後の)百年構想リーグも最初は(攻撃の形は)ロングボールばかりだった。J2のチームに勝って成功体験を積み重ねたことで、自分たちの戦い方で勝てるという自信が付いていった」と振り返る。

「戦術どうこうではない。自分たちがやるべきことをもっともっとやって、さらにやり続けるしかない」
光を失っていない目を見開き、この先の戦いを見据えた。
松本山雅FCオフィシャルサイト
https://www.yamaga-fc.com/


















