折れずに続けて、殻を破った U-18出身の松村厳が勝利呼ぶ“覚醒ゴラッソ”

「やっと、という気持ちが大きい」。松本山雅FCのMF松村厳は、実感を込めて振り返った。2026年10月31日、とうほう・みんなのスタジアム。明治安田J3リーグ第14節福島ユナイテッドFC戦でCKから2点目を押し込むと、後半開始直後には目の覚めるような右足ミドルを突き刺した。3-1で勝利の立役者に。たとえピッチが遠くても、結果が出なくても――。自らに矢印を向け続けた24歳が、ようやくピッチで日の目を見た。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
「惜しい」を脱ぎ捨てる会心2発
口を衝いて出た実感は“やっと”
待望の瞬間は、セットプレーから訪れた。
1-0で迎えた27分の右CK。FW佐藤亮が放ったインスイングのボールを、ニアサイドのFW田中想来が頭でそらす。ファーサイドで相手のマークを外した松村が、ヘディングで押し込んだ。
公式戦52試合目にしてようやくゲットした、プロ初ゴール。しかしこの歓喜を、後半でさらに上書きする。1点差にされて折り返した、後半キックオフ直後のことだった。
DF佐相壱明のアーリークロスは、ファーを狙ったが蹴り損じてニア寄りの低い球筋。しかしゴール前で田中がつぶれ、セカンドボールが松村の足元にこぼれる。

「ああいう場面で一発決めてやろう、という気持ちがあった。あまり気負わずに、枠に行くことだけを意識した」。右足を振り抜いたミドルシュートは、地を這う鋭い弾道でネットに吸い込まれた。反転攻勢を期した福島の出はなをくじく、大きな1点だった。
「やっと、という気持ちが大きいのと、本当にこれでやっとチームに貢献できたなと思う。そういう気持ちでいっぱい」
やっと――と振り返るのには、理由がある。

これまで松村は何度となく、ゴールに迫りながらも奪い切れずにいた。枠を捉えたはずのシュートが防がれる。クロスバーを叩く。右のゴールポストに当たってゴールライン上をきれいに横切り、左ポストに当たったあげく入らなかったことさえある。
アンカー(1ボランチ)が主戦場だから、ゴールを求められる比重が大きいわけではない。それでも、あと一歩で決め切れないもどかしさが募る。「惜しい」という概念が、人の形になって歩いているようでもあった。
KINGDOM パートナー
突きつけられた「足りない」
松村厳が向けた“自分への矢印”
ただでさえ、「全てにおいて足りない」ことを自覚させられていた。
主戦場はアンカー。石﨑信弘監督のシステムで極めて重要な役割を帯びるポジションだ。しかし百年構想リーグで絶大な存在感を放っていたMF深澤佑太がJ2湘南ベルマーレに移籍し、今季当初から定まらずにいた。開幕前には、本来ならセンターバックの金子光汰が抜擢されたこともあった。

例えば松村がアンカーで起用された、シーズン開幕の高知ユナイテッドSC戦。0-0に終わった試合後の記者会見で、指揮官は嘆いた。
「どうしてもアンカーの部分は百年構想リーグの選手を引き抜かれてしまったところで、なかなかそこが補強できていないことが、今の苦しい状態なのではないかと思っています」
ボールホルダーに噛みついて奪えはしても、そこから先が難しい。グラウンダーの鋭い縦パスを差し込めるわけでもなければ、大きく散らせるわけでもない。

トップチーム強化本部は補強に動き、DF野田裕喜やMF川上航立らをJ1クラブから完全移籍で引き入れた。いずれも、アンカー候補としての獲得。物足りない、と思われていることは嫌でもわかった。
それでも、24歳は自らに矢印を向け続けた。
「普段のトレーニングから、自分がまだまだ足りていないと分かっていた。自分以外のことはコントロールできないし、変えられるのは自分のことだけ。チャンスが来た時につかむ準備、出場した時にプレーできる準備をしたつもりだった」

アンカーは一時期定着したかと思われたMF力安祥伍が負傷離脱。再び松村にチャンスが巡り、それをモノにしつつある。福島戦の2ゴールだけでなく、巻き戻せば攻守に存在感を示していたシーンは数知れず。「今もまだまだ足りないけれど、出続ける中で少しずつ自信もついてきていると思う」と口にする。
指揮官の言葉にも、変化はのぞく。福島戦の翌日、石﨑監督は「アンカーの選手があれだけ積極的にシュートを打つ」と触れ、先制点の起点となった松村の縦パスにも言及した。ぶっきらぼうだった呼び名も、10月下旬には「ゲンちゃん」にめでたくランクアップしている。
トップ昇格を逃したあの日から
松村厳が選んだ“帰るべき場所”
松村には、もう1つ背負ってきたものがある。松本山雅U-18出身であることだ。
福井県出身。全国的にも4県しかない「Jリーグ空白県」の一つだ。プロを志していた中学生時代に松本山雅から声がかかり、信州の地で3年間プレー。西ヶ谷隆之監督(当時)の投げかけでポジションを中盤に下げ、トップ昇格を目指した。

同期はGK神田渉馬、MF稲福卓。2020年、地元出身の2人がクラブ史上初めて高卒トップチーム昇格を果たす――という華々しいニュースの陰で、選ばれなかった松村は専修大に進路を決めた。
「大学で力をつけて彼らを追い越してやろう、山雅に絶対に戻ってこよう、という気持ちで4年間生活してきた」
そして専修大4年時の24年、鹿児島キャンプで練習参加して特別指定と内定を勝ち取った。たとえ高校時代の3年間だけだったとはいえ、松村にとって松本山雅は「帰るべき場所」。実際に愚直な努力を続ける姿勢は、緑のスピリットを体現している。

「そういう選手がユースからたくさん出ることで街は活性化していくし、ユースももっと強くなっていく。それがトップチームを強くすることにもつながる」
決めきれない試合を重ね、先発を外れ、比べられた。意見論評の域をはみ出した声も浴びた。それでもくさらず準備をやめず、ようやく一つの結果を手にした。「惜しい」から脱却した先に、どんな変貌を遂げるのか――。タフさが求めれる中2日の次節・カマタマーレ讃岐戦でさらなる進化を示したい。

松本山雅FCオフィシャルサイト
https://www.yamaga-fc.com/



















