5カ月で「圧倒的な差」覆した市立長野 “2人の監督”の教え胸に全国の舞台へ

圧倒的な力の差を痛感した日から5カ月。公立校の雄が、屈強な私立校の壁を越えた。2026年11月8日。松本市のサンプロ アルウィンで行われた第105回全国高校サッカー選手権長野県大会決勝は、市立長野が0-0で迎えたPK戦を4-2で制して松本国際を破り、5年ぶり2度目の頂点に立った。5カ月前の6月8日。市立長野は長野県高校総体決勝で松本国際に挑み、0-3で完敗した。シュート数は松本国際の20本に対して、市立長野はわずかに2本。手も足もでなかった相手に両頬を張られた選手たちは、自分たちを見つめ直し、リベンジを胸に成長し、激闘を制した。
惨敗した6月の県高校総体
体格差を埋める鍵は「準備」
前半、風上に立った松本国際が押し込んだ。

持ち味の強度と連続性を生かしたプレスで市立長野のボールに襲い掛かり、ロングスローやCKを次々と獲得して市立長野のゴールに迫った。市立長野は、自陣に釘付けにされてしまえば県高校総体の二の舞になる。しかし、押し込まれながらも、この日は5カ月前の戦いとは明らかに違った。
空中戦では五分の競り合いを演じ、ルーズボールも一歩先に体を入れて松本国際の攻撃を遮断した。最終ラインは重心を下げるのではなく、松本国際の縦パスやロングボールに対して前に出る判断を繰り返し、“耐える”のではなく“跳ね返して押し戻す”ことでゴールを守り続けた。

ボランチのMF篠原汰一は「(県高校総体では)フィジカルで圧倒的な差を感じた」と苦い記憶を呼び覚ます。その差を埋め、互角以上の戦いに持ち込むためには「準備の部分で圧倒するしかないと思った」と振り返る。
空中戦での競り合いや球際の攻防に対して、相手より先に反応し、一歩でも半歩でも先に始動する。ゴール前の対人練習も繰り返し、主将のDF若林叶海は「プレーの準備が市立長野の生命線になった」と言い切る。

ユニフォームの上からでも分かる体格差を、走り込みや筋力トレーニングといった身体的強化で埋めるのではなく、判断と出足を早めることで凌駕しようという試み。天野達也監督は「サッカーの本質的なところを見つめ直した。あの経験(県高校総体決勝での完敗)があったからこそ、今日の結果に繋がった」と強調する。
KINGDOM パートナー
後半から切り札投入
流れ引き寄せ熱戦制す
前半の40分間を無失点でしのいだ市立長野は、後半開始と同時に動く。

この試合はベンチスタートだったMF鈴木爽太を左サイドハーフで投入。鋭いドリブルを生かした縦への推進力が持ち味の鈴木の力で、試合の流れをひっくり返す展開を狙った。
「前半はチームのみんなが頑張って相手を疲れさせて、後半から自分が出てドリブルで打開するという監督さんの狙いだった」と鈴木。天野監督の思惑と、切り札として残しておいた鈴木の個人技がかみ合った。

奪ったボールを無理に繋がず、大きく蹴り出して相手を押し下げる戦い方を選んだ前半から一転。3バックを採用する松本国際とのシステム上のギャップを突く形で縦に2列、3列の関係性をつくり、味方を前向きにサポートすることでボールを繋ぎながら松本国際の圧力を回避する回数が増えた。
その展開の中で効果的だったのが鈴木のドリブル突破。対面する相手を抜き去って深い位置までボールを運ぶことで相手陣でプレーする時間を増やし、形勢は逆転した。

前半は2-9だったシュート数は、後半は6-3に。松本国際の勝沢勝監督も「さすがだなと思う」とうなり、「市立さんの(ボールの)動かし方にやられた」と相手の力を認めざるを得なかった。
しかし、松本国際の守りは堅い。県勢最上位のプリンスリーグ北信越1部では、16試合を終えてリーグ最少タイの13失点。「ボールは動かされても、最後のところは締めた」(勝沢監督)と、80分間をスコアレスで終え、20分間の延長でも決着はつかなかった。

人智を超えた要因も絡み合って勝敗が決まるPK戦は、時の運と言うしかない。それでも、5カ月前に感じた圧倒的な差を埋め、後半から自分たちの流れに持ち込んだ市立長野が、その勢いのまま押し切った――と見ることもできるだろう。
前監督が築いた「土台」に
現監督が「積み足した」もの
全国高校選手権に初出場した2021年。市立長野を率いていたのは芦田徹氏だった。

足元の技術を磨き、自陣からショートパスを繋いで相手守備を崩し切るスタイルを貫き、新井光(FC今治)や山中麗央(AC長野パルセイロ)といった個も育てた。
芦田氏が全国屈指の強豪、昌平高(埼玉)監督に転身した25年に指揮官を受け継いだのが天野監督。「芦田さんがしっかりとした土台をつくってくれていたので、僕は積み足すだけでよかった」。その言葉が謙遜であることを、若林が証言する。

「今年のチームはキックが得意な選手が多い。天野先生は、僕たちの持ち味を生かせるようにしてくれた。芦田先生と天野先生がいなければ、今の市立はない」
天野監督は、「積み足した」中身について、「やはりゴールに向かうところ。何のためにプレーするか。それはゴールを取るため、ゴールを守るためでしょ、と。そこだけは口を酸っぱくして言ってきた」と力を込める。

初挑戦だった21年の全国高校選手権は、初戦となった2回戦で東山(京都)に0-2で敗れた。
「生意気かもしれないけれど、全国に出ることじゃなくて、全国でたくさんの人に見てもらうことを目標にしてやってきた。頑張りたい」と天野監督。若林は「全国のレベルは感じたことがないけれど、僕たちがやることは変わらない。市立のサッカー、魅力のあるサッカーを届けたい」と決意し、目を輝かせた。




















