「待ってます」 闘病中のシュナイダー潤之介GKコーチに寄せる願い
2024年11月19日、AC長野パルセイロからショッキングなニュースがもたらされた。「シュナさん」の愛称で親しまれるシュナイダー潤之介GKコーチが、前立腺がん(ステージ4)との診断。現役時代を含めて7つのJクラブを渡り歩いた「シュナさん」には各所から快復を祈る声が届き、支援の輪も広がっている。その中から今回は、県内2クラブの声に耳を傾ける。
文:田中 紘夢、大枝令
シーズン終盤に起きた不測の事態
選手・スタッフの心境と対応策は
「すごく悔しいというか、悲しいというか…聞いたときはショックだった」
そう嘆いたのは、今季加入した田尻健だ。GK陣では最年長の31歳。シュナイダーGKコーチと同じく、ガイナーレ鳥取でのプレー経験がある。在籍期間こそ重なっていないが、よく昔話に花を咲かせていたという。
そんな“先輩”が離脱したのは、終盤戦真っただ中の10月23日。体調不良によって活動を休止せざるを得なくなった。チームとしてもリーグ戦がまだ1カ月残されている中で、GKコーチが不在という不測の事態に陥った。
GK陣はベテランの田尻が中心となり、若手の3人を牽引。「結局やるのは自分たち。そこは(モチベーションを)落とさないようにしていたし、みんなで落とさずにできたと思う」と振り返る。
クラブとしてはアカデミーGKコーチを代役に据える案もあったが、チームは残されたスタッフで乗り切ることを選択。小川秀樹アシスタントコーチが主導しつつ、試合前のウォーミングアップは楠豪テクニカルコーチが担った。
楠テクニカルコーチは、順天堂大サッカー部出身の27歳。現役時代は左サイドバックとしてプレーしていた。左右両足から放たれるクロスの精度は、同期として共闘したエース・浮田健誠の折り紙付きだ。
その技術がGKのシュート練習にも生かされ、田尻は「要求通りにボールを蹴ってくれて感謝しかない」。一方で楠テクニカルコーチは「シュナさん(シュナイダーGKコーチ)がいなくてもなるべく変化がないように努めていた。大変だったと思うけど、(田尻)健さんを中心に本当によくやってくれた」と守護神たちをねぎらう。
闘病中もチームとともに共闘
スタッフ一丸で難局を乗り切る
闘病中のシュナイダーGKコーチも、離脱はしながらもともに戦い続けた。リモートでGK陣の練習メニューを共有しながら、セットプレーの守備戦術も練る。その意見を髙木理己監督が取り入れて対策を講じた。
髙木監督はJ1やJ2でコーチを務めた経験があり、セットプレーへの理解も深い。GKコーチが不在の間は自ら主導し、セットプレーによる失点は6試合で1失点のみ。布啓一郎ヘッドコーチも含め、コーチングスタッフが一丸となって乗り越えた。
ホームでの最終節は、シュナイダーGKコーチがロッカールームに顔を出した。ベンチ入りした田尻いわく、かけられた声は「いつも通り」。それによって気負いすぎず、平常心で戦えたという。
ゴール裏には「潤之介と共に!」と書かれた横断幕が掲げられ、試合前に潤之介コールも送られた。「あのコールは胸に響くものがあった。その分も背負ってやらないといけないと思った」と楠テクニカルコーチ。田尻も「シュナさんも戦っているので、ちょっとやそっとじゃヘコたれたらあかんなと思った」と話す。
不測の事態を乗り越え、チームはJ3残留となった。さらに最終節を前にして、シュナイダーGKコーチとの契約を更新。「シュナさんだったら絶対に帰ってきてくれると思う。また一緒にできたらうれしいし、焦らずにしっかり治してほしい」。田尻はそう願いを込めた。
松本山雅FCの守護神・大内
ニッパツで見た憧れの存在
快復を願う思いは、チームの垣根も超える。
2022年に所属した松本山雅FC。普段は不倶戴天の間柄だが、こと人命に関わる事柄に関しては関係ない。それは2019年の台風19号被害の際も同様だった。
「今は敵かもしれないけど、同じポジション出身で関わりもある。早く回復して、もう一度熱い姿を見せてほしい」
そう話すのは、松本山雅FCのGK大内一生だ。かつては長野のゴールマウスも守った24歳。横浜FCジュニアユースに所属していた2013年、トップチームで正GKだったのがシュナイダー。ニッパツ三ツ沢球技場でゴールマウスを守る姿に憧れた。
その中で、忘れられないエピソードがある。
「横浜FCはアカデミーとトップチームのグラウンドが隣り合っている。練習が終わってクラブハウスに戻るときに、シュナさんを初めて間近で見た。『うわー』と思った記憶がある」
すると目を輝かせる大内少年に、シュナイダーはGKグローブをプレゼント。「シュナさんは多分覚えていないだろうけど」と振り返るが、憧れの選手から“商売道具”を授かった大内にとっては一大事だ。それを飾ることなく、試合で着用する。サイズが合わないことなど、全く関係なかった。
2人は2022年、信州ダービーで再会する。
大内は長野の選手として、シュナイダー潤之介は松本のGKコーチとして。そこから互いに所属チームは入れ替わったものの、交流は続く。今回の闘病に際しても、大内は激励のメッセージを送った。
「もう敵とか味方とかは関係ない」と大内は力を込める。実際に松本山雅は支援募金を行い、総額397,256円が集まった。「熱い人だし、絶対負けずに回復してくると思う。それをあせらずに待つだけ」。その思いはサポーターも同じだろう。
支援の輪は各地に広がる。シュナイダーGKコーチの古巣であるサガン鳥栖も含め、複数クラブが募金活動を実施。長野としても多くの支援の申し出を受け、支援募金口座を開設した。
来季も継続的なサポートをしていく予定で、チャリティーマッチの開催も検討しているという。 現時点で復帰の目処は立っておらず、新たなGKコーチを招へいする予定。それでも共闘する姿勢は変わらず、闘病中の仲間に吉報を届けたい。
シュナイダー潤之介GKコーチ支援募金口座の開設について(AC長野パルセイロ)
https://parceiro.co.jp/info/detail/ffeRoe_8Wg4bZDTL2mtlcEpZWmtiTDZDS1FxZ3VyU2tRYmlFa0JOUzJMRkdBVFJGUXdOa2oySUFLRms