北爪健吾、野田裕喜、ウェリントン―― 積極補強が目立つ松本山雅の深層

あっと驚く加入リリースが相次いでいる。J3松本山雅FCはシーズンが始動して以降も積極補強を続け、J1経験者を次々と引き入れてきた。DF北爪健吾、DF野田裕喜、MF川上航立。そして2026年10月19日には、Jリーグファンにはお馴染みのブラジル人FW・ウェリントンの電撃加入が発表された。3期連続の赤字を脱却し、2期続けて黒字を出したばかりのクラブ。なぜこのタイミングで、再び赤字のリスクを取るのか――。株式会社松本山雅の横関浩一CEOが単独取材に応じ、その深層を明かした。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
3期続いた赤字と何が違うのか
就任時に語っていた“テコ入れ”
Jリーグに名を馳せるビッグネームが電撃的に加入した。
FWウェリントン。10月19日に完全移籍が発表された、186cmのブラジル人ストライカーだ。湘南ベルマーレ、アビスパ福岡、ヴィッセル神戸でプレーした38歳。J1通算231試合35得点、J2通算92試合46得点と、日本で長く実績を重ねてきた。

この補強の意味を読み解くには、クラブの決算をさかのぼる必要がある。
J3で初めて戦った2022年を含む第13期(2023年1月期)に、株式会社松本山雅は2010年の設立以来、初めて赤字に転落した。第14期は純損失2億500万円余、第15期も同1億9,200万円余。赤字は3期続いた。
2026年4月21日。就任直後の横関CEOは、この3期に対する分析を口にした。
「おそらく、『選手人件費はこれぐらいないと(J3から)脱却できない』ということありきで予算を組んだ結果、どうしても赤字になってしまった。それが現実的な見解だと思う。言い換えれば、3期連続の赤字は昇格を至上命題とした予算組みの結果として生じた。J3降格など、タイミングを考えれば決して間違った判断だったとは思わない」

横関CEOの見立てでは、財務状況として余裕がない以上、売り上げを拡大させ、チーム人件費を適切な金額に設定するという順番に変えていく必要があったのも事実――とも語っている。
一方で、こうも付け加えていた。
「どこかの時点では、赤字になってでもフットボールの強化に向かい合う必要がある。そのタイミングと、結果が投資金額に見合うかどうかだと思う」
赤字を伴う投資の可能性に、半年前の時点で触れていた。
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逆風の中で積んだ2期の黒字
「変化」のために下した決断
順番の前半にあたる「黒字化」は、決して平坦な道のりではなかった。
2025年10月。サンプロ アルウィンでバックスタンド側照明用架台の鉄骨部材が観客席に落下し、スタジアムは使用停止となった。10月12日のホームゲームは中止。残るホームゲームは長野Uスタジアムや東京の味の素フィールド西が丘などに会場を移した。当時代表取締役執行責任者だった横関氏は、スタジアムを保有する長野県との折衝にもあたっている。
その第16期(25年2月〜26年1月)にクラブは純利益925万円余を計上し、4期ぶりの黒字に転じた。続く第17期は、決算期の変更に伴う26年2月〜6月と5カ月の変則決算。売上高7億1,942万円、当期純利益3,354万円と、黒字を重ねた。6月末時点の繰越利益剰余金は1億8,428万円となっている。

「フットボールが非常に厳しい中、このような結果が残せたことは、全てのステークホルダーの皆さまのおかげです。感謝しても感謝しきれない」
一方、横関CEOはこの2期を手放しで評価してはいない。
「直近2期は黒字に舵を切ったが、決して経営がうまくいっていたわけではない。黒字だったらいいのか――というと、そういう問題でもない」
ただ、この2期を黒字で乗り切ったことを踏まえ「フットボールへの投資に舵を切らなければならないタイミング」と判断したという。まず2期の黒字で蓄えをつくり、その分を投資に回す――。公言通り、そうした手順を踏んで積極補強に動いた。
38歳ストライカーを迎えた理由
現場の要望ありきで大きな決断
夏以降、補強は段階的に進んだ。
これは編成の責任者・都丸善隆スポーツダイレクターが見通していた通りでもある。シーズン移行という未経験の状況を前提に、「始動してからも選手が出入りすることになるだろう」と予見。各チームが開幕に備えて完成度を高める中で、上位カテゴリーから期待以上のチャンスが舞い込んでくることを示唆していた。

もちろん、J2・J3百年構想リーグ限りでチームを去った選手たちが残した「置き土産」――つまり、移籍金も一定金額を獲得することができた。
8月4日に清水エスパルスからDF北爪健吾が期限付き移籍で、8月17日に柏レイソルからDF野田裕喜が完全移籍で加入。9月16日には、25年にも松本でプレーしたMF川上航立が水戸ホーリーホックから完全移籍で戻ってきた。

9月の株主総会後の取材で、横関CEOは「(次の移籍ウィンドーが開くまで)フリーと育成型については、まだ獲得できる仕組みになっている。現場からのリクエストがあれば、10月中も選手の獲得に向けて動く」と明かしていた。そして実際、10月19日にウェリントンの加入が発表された。
ウェリントンは25年までJ1福岡に在籍。以降はブラジル4部のアメリカFCでプレーしたのち、フリーとなっていた。移籍ウィンドーが閉じた後で、松本山雅としても獲得候補は多くない。その中で、チームの課題にマッチしたピースとしてウェリントンが浮上した。

クラブはブラジル現地スカウトを務める元選手パウリーニョを本人のもとに向かわせ、コンディションなどを確かめたうえで獲得を決断。ウェリントンは10月初旬から、クラブが課したメニューでトレーニングを始めていたという。
年齢やコンディションへの懸念は、横関CEO自身も率直に認めている。
「年齢的な問題もあるし、フリーという中で体調はどうなのかということもある。ただ、そこはいろいろな人が調査した中で獲得を決めたわけだし、投資すべきだと判断した」

そのうえで強調したのは、補強を決める主体についてだった。
「会社主導で、選手をいたずらにJ1から取ってくればいいという話で取ってきているわけでもない。フットボールに投資すれば結果が必ず出る訳でもない。監督を含め、現場から『必要だ』という声があってこそ始まる話」

結果としては、現場の要請を起点に、強化部門が情報網や人脈などを駆使して早期加入につなげた。横関CEOは「選手編成だけでなく、フットボールへの投資に関しては、財務的な判断だけでなく、タイミングも重要である」と話す。
2期の黒字で蓄えた分をピッチへ
経営規模拡大にはJ2昇格が必須
投資には当然、リスクが伴う。2026年9月の株主総会の時点で、今期(2027年6月期)は相当額の営業損失が発生する可能性も加味して資料に織り込まれていた。積極財政の副作用だ。
「フットボールへの投資により、赤字になるリスクも正直抱えている。成績が悪ければ観客数が減る可能性ももちろんある。ただ複数年で見た時に、『投資を強めるシーズンである』というのが、我々としての判断」
決断の根拠になったのが、2期の黒字で生まれた『余力』だ。
「貯金といえば貯金。今期に関して赤字規模にもよるが、フットボールに対する多少の投資によって会社としての財務バランスが大きく崩れることはない。それ以上に全てのステークホルダーが求めるフットボールの復活に注力するタイミングだと判断」

では、投資の先に何を見ているのか。横関CEOが挙げるのは、カテゴリーが上がることでしか生まれない変化だ。
「J3のクラブがJ2に上がれば、お客さまの規模もサッカーへの注目度も上がって、売り上げ規模も上がっていく可能性がある。早くJ2に上がらないと…という危機感はもちろん強い」
カテゴリーは、選手をつなぎ留める力にも直結する。選手の決断についてだ。

J2・J3百年構想リーグを終えた2026年6月。MF深澤佑太がJ2湘南、MF村越凱光がJ2テゲバジャーロ宮崎、DF小田逸稀がJ2大分トリニータ、FW加藤拓己がJ1京都サンガF.C.と、4人が完全移籍で上位カテゴリーに移籍した。
9月の取材で横関CEOは、「選手が移籍を決める大きな要素にクラブとしての歴史やアイデンティティから創出される文化は重要だと思う。ただ、近年は『サラリーとカテゴリー』の重要性がさらに高まり、カテゴリーを上げることが効果的な方法の一つ」と語っている。
チームは12節を終えて3勝5分4敗の12位。J2自動昇格圏内の2位まで勝ち点差12、J2昇格プレーオフ圏内の6位までは同7と、数字だけを見れば簡単ではない位置にいるのは否めない。ただ、シーズンはまだ序盤。何が決まったわけでもない。

「会社は何も考えずに赤字のリスクを負うわけではない。リスクを取ってでもフットボールに投資しなければならない時もある」と横関CEO。新戦力を引き入れ、V字回復に期待を寄せる。
ピッチで示すパフォーマンスと結果が、人々を引き寄せる。しかし松本山雅は同時に、ファン・サポーターやパートナー企業など、ピッチ外の熱量が育ててきたクラブでもある。相互作用で育まれる信州松本のフットボール文化が、今回は「積極補強」という形で立ち現れた。

チームはタフな連戦のさなか。10月21日の第12節ザスパ群馬戦は2-0と快勝し、25日には再びホームでレノファ山口FCを迎える。心強い仲間を増やして臨む次節、サンプロ アルウィンを右肩上がりの劇場としたい。
J3リーグ第13節 レノファ山口FC戦 試合情報
https://www.yamaga-fc.com/match/detail/2026-27-match13
ウェリントン選手 完全移籍加入のお知らせ(クラブ公式)
https://www.yamaga-fc.com/archives/563160
株式会社松本山雅 決算公告
https://www.yamaga-fc.com/corporate-site/accounting
















