「信州ダービー」から「NAGANO DERBY」へ AC長野の決断に渦巻く賛否

「NAGANO DERBY」——。J3リーグを戦うAC長野パルセイロは今季、松本山雅FCとの対戦に新たな呼称を冠した。北信越リーグ時代から「信州ダービー」として火花を散らしてきた両クラブ。その歴史に一石を投じるAC長野の決断には、各方面から賛否の声が渦巻いている。2026年10月18日、長野Uスタジアムで迎える決戦を前に、背景と実態を紐解いていく。
文:田中 紘夢
KINGDOM パートナー
歴史的大敗から踏み出した一歩
サポーターへの“アンサー”
2022年、松本山雅FCがJ2からJ3に降格した年。2011年の長野県サッカー選手権大会以来、11年ぶりとなる信州ダービーが実現した。AC長野パルセイロのホームである長野Uスタジアムには13,244人の観衆が集い、今も最多入場者数として記録に残っている。

当時は共通ロゴを用いてダービーを“共創”していたが、次第にAC長野は“独創”へと切り替わっていく。25年の対戦から「THE DERBY」へ呼称を変更。さらに26/27シーズンの今季は「NAGANO DERBY」とした。
「昨年からNAGANO DERBYと言いたかったけれど、そこまで踏み出せなかった」と、クラブ運営会社地域コミュニティ・パートナー営業部担当部長の小池光利さんは明かす。まずはTHE DERBYという名前で一歩――いや、半歩踏み出した。

そもそも長野県の別称である「信州」は、「俺らが信州」というダービーチャントにもあるように、松本側が好んで用いていた言葉。長野側からすれば長野県は「長野」である。そこには廃藩置県に端を発する対抗心も作用しているが、ここでは歴史的背景は割愛したい。
要するに長野側からすれば、信州ダービーという呼称は耳心地の良いものではなかった。それゆえにTHE DERBYという名前で半歩踏み出したわけだが、一歩踏み出すきっかけとなる試合があった。

26年3月14日、J2・J3百年構想リーグ第6節。AC長野はホームでのTHE DERBYで0-5と大敗した。開始2分での失点を皮切りに、前半だけで4失点。ハーフタイムにはスタンドからブーイングが飛び交い、後半45分を残してスタジアムを後にするサポーターもいた。
「何事もなかったかのようにしたくはない」
サポーターはいてもたってもいられず、翌節のホームゲームでの応援を自粛。12人目の選手たちなりのアンサーだった。
そして今回の呼称変更は、クラブからサポーターへのアンサーとも受け取れる。リリースにはこう記されている。
「あの悔しさを晴らすためにも、私たちは自らの名を、胸を張って掲げたい」
KINGDOM パートナー
「立場変われば見方も変わる」
ステークホルダーから否の声も
「この呼び名に賛否があることも、承知しています」
その言葉通り、各方面から賛否の声が渦巻いた。
地域リーグ時代を知るサポーターや応援団体からは、軒並み肯定的に受け止められた。98年に冬季オリンピック・パラリンピックを開催した国際都市として、NAGANOとアルファベットで表記したことも支持されている。
一方で松本山雅サポーターの反対を招いたのも、当然の成り行きと言えるだろう。それぞれの呼称が異なることを「地域に誇りを持つ証」と捉えるならば、期待通りの反響なのかもしれない。

ただ、クラブ間で片付けられる話でもない。スポンサーをはじめ、ステークホルダー(利害関係者)の理解を得られるかはまた別の話。むしろ「地域の誇り」を謳っているのに、地域を支える人々からそっぽを向かれれば本末転倒である。
実際にステークホルダーからは、否定的な声も少なからず聞こえる。
「信州ダービーの歴史を否定するのか」
「相手クラブに不快感を与えるのか」
「単なる炎上商法ではないか」

どちらが正しいか、という話ではない。両者の間に透けて見えるのは、信州ダービーというコンテンツへの視座の違いである。
興行としてどう盛り上げるかを考えるクラブに対し、ステークホルダーは地域や県、あるいは歴史の一部として捉えているように思える。単なる内輪揉めではなく、サッカー文化の象徴。野々村芳和・Jリーグチェアマンの言葉を借りれば、「作品」とも言えるだろうか。
クラブからすれば作品の名前を変えただけでも、それは松本への挑発行為とも読み取れる。スポンサーの中には、AC長野と松本山雅の双方に協賛したり、松本市に支店を構えたりする企業も少なくない。不快に思うのも無理はないだろう。

「松本山雅FCが大切にされてきた『信州ダービー』という呼び名に、私たちは敬意を抱いています」
そうクラブは発信し、小池さんも「決して松本にケンカを売っているわけではない」と念を押した。
ただ、「立場が変われば見方も変わる」と認めるように、受け手によって解釈が異なるのも事実。デリケートな問題であることに違いはない。
「ただの1試合にしたくない」
NAGANOの名を冠し決戦へ
ただでさえ複雑な歴史的背景を持って生まれた作品が、呼称の分断によって複雑を極めた。NAGANO DERBYとアルファベットで表記していることも、メディアからすれば扱いに困るケースもある。
そもそも信州という長野県の別称にはブランド価値がある。全国ネットのニュースにおいても、JR東日本の広告においても、至るところでその名を目に耳にする。ダービーのブランド価値を全国に広めるならば、信州ダービーと呼ぶほうが適切なのかもしれない。

それでもクラブが呼称変更に踏み切ったのは、このダービーが誰がためにあるかを問い正した結果。サポーターとの共闘を誓いたかったからだ。22年のJリーグ初対戦から盛り上がりが下火になる中で、再加熱したい思いもあった。
97年、まだダービーの名もなき時代に、両者は北信越リーグの舞台で公式戦初対戦を迎えた。前身の長野エルザSCの一員として出場した小池さんは、ダービーへの思いをこう語る。
「ダービーはやっぱり特別で、ただの1試合には成り下がらせたくない。あの0-5を体感した時にも、なんとなく試合をするのではなく、さらに価値を高めたいと思えた。少しでも話題になって、『見に行ってみようかな』と思ってもらえるとありがたい」

今は何が正解か分からないが、このダービーが特別であることに変わりはない。各方面で物議を醸していることも、その価値を物語っている。
2026年10月18日、NAGANO DERBY。歴史の転換点とも言える日に、長野Uスタジアムはどんな雰囲気に包まれるのだろうか。
クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/




















