長き冬にピリオドを “明らかな違い”示す不退転のシーズンへ

「冬」を終わりにする時が来た。J3リーグは第2節となるが、松本山雅FCはこの試合がシーズン初戦。和歌山県串本町と鹿児島市で21日間のトレーニングキャンプを行い、新たなチームを練り上げてきた。既存の戦力が多く残った中でも、「明らかな違い」をピッチで表現するだろう。2025年2月23日。アスルクラロ沼津とのアウェイ戦でその姿を披露する。
文:大枝 令
「切り替え」を徹底して習慣化
早川監督も驚く浸透ぶりを示す
「まず最初に、『そこが違うよね』という部分を出せればいい」
2月21日。早川知伸監督は取材に対してそう意気込みを語った。「そこ」という言葉が指すのは、主に攻守の切り替え。特に攻撃から守備へのネガティブトランジションに重きを置いてきた。

和歌山串本キャンプ2日目の、1月23日。フィールドのサイズと人数の設定を変えながらも、一つの共通したルールを設けた。指揮官の笛が短く2回鳴ると、その瞬間に逆方向にターンしてダッシュ。切り替えを意識付ける第1段階だった。

そして習慣へと変えていく営みが始まった。これを遂行するのはチームの明確な基準の一つであり、できる者の中からピッチに立つ選手が選ばれていく。
「笛2回が切り替えの合図」だったのはその日だけ。指揮官が提示した基準が徐々に染み付いていき、キャンプ期間だけでも目に見えてアラートな集団に変貌した。

高い位置でロストしても、即時奪回から自分たちのフェーズを続行。畳み掛けてゴール前に至る。実際にトレーニングマッチなどでもそうした成果は出ており、指揮官にとっても想定以上の手応えがあった。
「自分たちが失った瞬間に取り返す。それだけではなく、また取られてももう一回取り返せる。切り替えの意識は高まっているし、思っていた以上に反応が良くなっている」

練習はコンパクトでも強度を確保
プログレッションの手法は変化も
それを実現するために必要な土台も築いてきた。
まずはフィジカル。キャンプ中のトレーニング時間は65〜90分で、基本的にコンパクトにまとめつつインテンシティを確保する。

メニューのルール説明も必要最低限に止めるなど、身体が止まっている時間を短縮。初戦から1週間を切ったトレーニングの中でも、試合3日前には容赦なく強度を上げた。
「普段の練習がけっこうキツいから、練習試合で90分やっても『まだ行ける』という感覚。それくらい強度はついているので、90分の中で使い切っていきたい」

MF村越凱光はそう話す。もともとスプリント力もスタミナも備えたタイプの選手ではあるものの、紡ぐ言葉にいっそうの頼もしさがにじむ。
もう一つは、「守備への切り替え」が最も効果を発揮するエリアまでどうボールを持ち運ぶか。前進――プログレッションの手法だ。

今季はラインブレイクの比重を高めた。相手の最終ラインと勝負するのがファーストチョイス。DF高橋祥平やGK大内一生など、そこにキック一発で正確に届けられる面々もそろう。高橋は力を込める。

「自分のところで一気に打開できるようなパスを送りたいし、局面を変えられるようなディフェンスもしたい。全部のクオリティを上げたい」
「自分がロングボールを蹴るのもそうだし、ショートパスで繋ぐのもそう。一人一人の特徴が出るようなラインブレイクができたら」

その言葉どおり、昨季まで力を入れてきたビルドアップを捨て去ったわけでもない。そもそもMF山本康裕らボランチ陣はリーグ屈指のクオリティ。ジュビロ磐田から加入したDF小川大貴も含め、タレントはそろう。
サイドバックのリスクテイクは慎重になったものの、現象として丁寧に前進させるシチュエーションはいくらでもある。そこは積み重ねが生きる局面だ。

実際、過去2年間で進化を示したDF野々村鷹人は「ビルドアップの怖さとか、ボールを受ける怖さとかはなくなった。そういう部分は成長できた」と言う。結果は出ずとも、成果が皆無だったわけではないのだ。
「毎試合プレーオフのつもりで」
昇格はミッションでありノルマ
それを、今度こそ結果に昇華させるべきシーズンとなる。
新任の都丸善隆スポーツダイレクターが昨年12月の就任会見で「2025シーズンは昇格が『目標』ではなく、『ノルマ』になると思っている」と語った通り、到達点に向かって愚直に日々を積み重ねる。

「昇格のために自分が力になれればと思っている。期待されていると思うので、そこに応えたい」とMF安永玲央。MF山口一真も「J2に戻るために自分の力も必要になる。常にゴールを狙える存在になりたい」と、牙の鋭さを増してきた。

そこに新加入の面々がさらなる力を吹き込む。
選手33人のうち新加入は11人。2年ぶりのJリーグ復帰となるMF大橋尚志は「もう一度自分が上を目指せる最後のチャンスだと思っている」と話す。
MF石山青空、DF本間ジャスティンら育成型期限付き移籍の4人も、成長のために重要なシーズンとなる。

その初陣が、いよいよ目前に迫ってきた。リーグ戦38試合のうちの1試合にすぎないものの、弾みをつけてスタートダッシュを狙うには白星発進が必須だ。
「僕らは一戦一戦、プレーオフの気持ちで戦う。引き分けは負けみたいなもの」と村越。不退転の覚悟を胸に秘め、長く続いた冬の時代に終止符を打つ。