「努力に勝る天才なし」 大卒ルーキー金子光汰、進化示すダービーへ

奮闘する松本山雅FCの屋台骨を、大卒ルーキーが支えている。センターバック・金子光汰だ。関西大学サッカー界の強豪・阪南大出身で、開幕戦から3バック中央で先発に定着している。市立船橋高時代は出場機会をつかめず阪南大でもくすぶった「無印」。しかし今や、J2クラブが大半のリーグで上位を争う松本山雅の中心選手に台頭。AC長野パルセイロを迎える2026年4月26日の信州ダービーを前に、進境著しい22歳の歩みをたどる。

文:大枝 令

KINGDOM パートナー

そっと下を向いた背番号43
キックオフ前の「苦手な時間」

円陣が解ける。
11人が、それぞれのポジションへ散っていく。
松本山雅の「戦いの合図」だ。

2026年2月7日、NACK5スタジアム大宮。RB大宮アルディージャとの開幕戦で3バック中央に抜擢された背番号43は、サポーターに気づかれないようにそっと下を向いた。

胃がせり上がる感覚。
プロ初陣の緊張が、身体に出ていた。

金子光汰は試合前になると、吐き気に襲われる体質だった。阪南大時代は毎試合。「自分のところでボールをかっさらわれて失点」――。最悪のシナリオが頭を駆け巡る。ポジションについてからキックオフまでの時間が、最も苦手だった。

だが笛が鳴れば、別人になる。

守備では乗っていくほど楽しさを感じるタイプだ。相手を止めてガッツポーズ。スタジアムが沸き、味方の士気が上がる。「ああなると相手も『やられた』と感じる。雰囲気にのみ込めるところもある」

無印からつかんだプロへの切符
「キツい練習こそ成長の証」

千葉県出身。市立船橋高ではほとんど試合に出られなかった。高円宮杯U-18プレミアリーグでスタメンを張った後、Bチームへ落とされた経験もある。「プロはもう無理だろうな…」と半ば諦めかけていた中で、唯一声をかけられた阪南大に進学。「無名な選手をプロにする」という印象を頼みの綱とし、関西へ渡った。

しかし、すぐには芽が出ない。2年生でAチームに入ったもののメンバーには選ばれず、失点の多さに責任を感じていた。転機は3年の総理大臣杯。明治大との3回戦で、のちにJ1サンフレッチェ広島でプレーするFW中村草太とマッチアップした。

「ここで止めたらプロになれる」

その覚悟が天井を突き破り、大会は優勝。4年時の全日本大学選手権(インカレ)ではリ・トビンとセンターバックを組み、2人そろって松本山雅に加入した。ゼミまで同じだった2人は、いつか最終ライン組む日を心待ちにする。

石﨑信弘監督による練習強度は、覚悟していたよりも上だった。「練習はキツいし、こなせないし、常に頭の中で『やろう、やろう』と思っていなければ無理な練習ばかり」。だからこそ成長を感じられるといい、「このチームでよかった」と言い切れる。

開幕戦からピッチに立つ。センターバックながらも1試合の平均走行距離は11km台半ばだという。最高で12km台を記録し、11kmを下回ったことは一度もない。「走力がなかったら僕が出ている意味がない」。それは当たり前にやるべきことだ――という自負がある。

急成長を続ける22歳の現在地
信州ダービーも進化のステップに

とはいえ、歩みは順風満帆というわけではない。

第4節ヴァンフォーレ甲府戦ではボールウォッチャーになり、致命的な失点を招いた。「僕のせいで負けたと言っても過言ではない」。そう吐露した金子を、チームメイトは責めなかった。「良い声をかけてくれた。ウジウジしていても仕方がない。次に勝てるように全力で準備したい」

その準備が実を結ぶ。続く北海道コンサドーレ札幌戦では、今季初のクリーンシートを達成。さらに信州ダービーでも完封勝利に貢献した。ロングボールでFW加藤拓己の得点を演出し、CKの流れから自らもゴール。いわきFC戦もFKから同点弾を決め、すでに3得点。セットプレーでの嗅覚について、「大学で学んだ動き出しの技術が出ている」とうなずく。

石﨑監督は金子を「ビルドアップ以外は良い」と評する。率直な言葉だが、裏を返せば守備面への信頼は厚い。一方で、いわき戦のクロス対応では白井達也がスライディングで身体を投げ出していたのに対し、金子はしていなかったと指摘。百戦錬磨の指揮官が求める水準は、常に一段上にある。

金子自身も課題を口にする。第10節・RB大宮アルディージャ戦。2カ月前の開幕戦で敗れた相手を4-1と下し、短期間での急成長を示す結果とした。しかし自身は喜びもそこそこに、ラインコントロールの判断について「僕だけがキツくなるのではなく、周りもキツくなるような守備の仕方だった。走らせなければ、みんなが下がる必要もない」と省みる。

さて。
あの「えずき」はその後、どうなったのか。

「いわき戦は本当にひどかった。でも大宮戦では少しだけ。全体的には軽減されてきた」。プロとして踏んだ場数が、そして成功体験の数々が、身体の反応を少しずつ書き換えている。

無名からはい上がり、プロ1年目の松本で花を咲かせ始めた22歳。才能がないなら、それを上回る努力で勝つ――。自身の歩みそのものが座右の銘を体現している。

そして次節はAC長野パルセイロを迎える信州ダービー。同じ阪南大出身の先輩・大野佑哉との“センターバック対決”が再演される可能性も。「大学の先輩が相手でも変わらないけれど、センターバック同士なら自分の方が良い選手でありたい。そういう意味では、自分の特徴を出して頑張っていきたい」と金子。個人でもチームでも上回り、再び進化への踏み台とする決意だ。


4/26(日)松本山雅FC vs AC長野パルセイロ ホームゲーム情報
https://www.yamaga-fc.com/archives/538517

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