日々の消費がチーム強化費に 信州松本トライデンツの“応援決済”

松本市内の喫茶店のカウンターに、決済端末と臙脂色の小さなのぼりが並ぶ――。そんな光景がこの秋から、少しずつ増えていくかもしれない。客がキャッシュレスで代金を支払うと、決済手数料の一部が信州松本トライデンツの強化費に還元される仕組みだ。仕掛けたのは、2025年8月設立の株式会社TANQEL(東京)。1杯のコーヒーの支払いが、コートに突き刺さる1本のスパイクへとつながる。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
店・客・チームで描く三角形
手数料の余白がクラブを潤す
仕組みはシンプルだ。店舗がTANQELを通じてキャッシュレス決済端末を導入すると、客が支払うたびに発生する決済手数料の一部が、信州松本トライデンツへ自動的に還元される。

店側の初期費用、端末代はいずれも無料。決済基盤はEPARKグループの決済事業・EPARKペイメントが担う。同社の資料によれば全国約7万店舗への導入実績を持つという。

カギは、決済手数料の“原価”にある。店舗が決済代理店に支払う手数料には、原価と代理店の利益が含まれている。
同社によれば、加盟店の手数料は「業界最安水準」。針谷典之CRO(最高収益責任者)が業界大手に在籍していたことなどから実現したという。これにより、チームに振り分ける強化費分の余白を生みやすい構造をつくった。
加盟店には店頭に掲げるミニのぼりや試合の招待チケットが提供され、10月には集客や経営支援を担う加盟店ポータルの開設も予定されている。店は経費を抑え、客は普段の買い物で地元クラブを応援し、チームには強化費が積み上がる。
三者の間に、無理のない循環が描かれている。
KINGDOM パートナー
決済のプロが選んだ松本の地
針谷典之が“応援の回路”を通す
TANQELで営業の陣頭に立つ針谷CROは、EPARKグループで決済事業に携わってきた人物。自身も学生時代からバレーボールに打ち込んだ経験を持ち、現在も育成年代の指導にあたる。トライデンツとの縁が今回のスキームの出発点になったという。

設立から1年の新会社が、最初のパイロット地に松本を選んだ理由。それは、クラブが「信州松本」の名を冠し、この街に根を張り直そうとしているタイミングと無関係ではない。
「藤森(淳平)取締役とバレーのトークに花が咲いて、そこから『いいですね、やりましょう』という話になった」と針谷CROは振り返る。
旧VC長野トライデンツは2026年6月に改称を発表し、7月1日付で信州松本トライデンツとなった。知名度の獲得はまだこれから。だからこそ店先ののぼり1本、端末1台が、チームの名を街の日常に溶け込ませる媒体になっていく。
決済手数料の還元でクラブを支えるスキームは、全国のプロスポーツを見渡しても類例が少ない。電力会社と連携した「チーム電気」型の支援策は各地にあるが、街の消費そのものをクラブの財源に変える試みは、松本が先行事例になる可能性がある。
タクシーもアリーナグルメも視野に
消費すべてがチームへ還流する
構想はさらに先を見ている。
JR松本駅からタクシーに乗り、エア・ウォーターアリーナ松本に向かい、会場でアリーナグルメに舌鼓を打つ――。観戦に伴う消費のすべてがトライデンツに還流する未来図だ。観光施設やタクシー、温浴施設への拡張も視野に入れている。

松本には、スポーツにお金を出すカルチャーがすでにある程度浸透している。サッカーJリーグ・松本山雅FCが長い歳月をかけて耕してきた土壌だ。
スタジアムに通い、ユニフォームを買い、スポンサーとして名を連ねる。その営みの延長線上に、「支払うたびにチームが強くなる」という新しい回路が差し込まれようとしている。
クラブ公式サイト
https://sm-tridents.jp/
株式会社TANQEL
https://www.tanqel.com/

















