それは変化か?進化か? 松本山雅が直面する“普通化”のリスク

J3松本山雅FCの戦いぶりを示すデータに目を向けると、昨季から変化している項目が二つある。1試合平均の「パス数」と「ボール支配率」だ。先に指摘しておくと、昨季から指揮を取る石﨑信弘監督は、どちらも重視していない。それにも関わらず、パス数は昨季の345.7本から今季は411本に増え、ボール支配率は44.7%から49.9%に増加。明らかに、ボールを持った時の戦い方が変わっている。このデータをJ3の20クラブ全体で見ると、パス数は昨季の17位から13位へ、ボール支配率は16位から11位へ上昇。J3リーグ6戦未勝利で17位に沈む現状を踏まえてネガティブに言い換えれば、特徴的だった戦い方が平均的なスタイルに落ち着いてしまっている。そこに、不振の要因が潜んでいないか――。
文:板倉 就五
KINGDOM パートナー
不安定な守備と決定力不足
浮き彫りになった不振の原因
勝てない直接的な理由は、はっきりしている。守備の不安定さと決定力の低さだ。
2026年9月13日にホームで臨んだJ3第6節のSC相模原戦。喫した3失点は全てセットプレー絡みで、いずれも横からのボールをゴール前で食い止めることができなかった。

クロスに対して、サイドとゴール前でフリーの選手をつくってしまっていることが一つ。ラインの押し上げが不十分で、付け入る隙を与えてしまっていることが一つ。6試合の半数に当たる3試合で複数失点を喫し、ここまでの総失点は9。指揮官が及第点と位置付ける「総失点=試合数以下」を大きく上回っている。

決定力不足も深刻だ。相模原戦は、それまでの5試合と比べて決定的な場面そのものが少なかったが、それでもシュート13本で1点は寂しい。74分にMF村上陽斗が反転して右足で狙ったシュートはGKにセーブされ、87分にMF力安祥伍の右クロスをDF野田裕喜が右足で合わせた決定機もシュートは左ポストに当たってGKが掻き出した。奪ったのは、MF金子翔太が送ったシュート性のクロスが誰にも触れずにゴールインした「少しラッキーなゴール」(金子翔太)による1点のみだった。

1試合平均のシュート数15.4本はリーグ4位タイの数字だが、1試合あたり1点しか決められていない。セットプレーの1次攻撃で奪ったゴールもない。
KINGDOM パートナー
何のための前進か
根幹を維持してこその“進化”
本題に移りたい。
今季からパス数とボール支配率が増えているのは、偶然ではなく意図的だ。開幕前に静岡県御殿場市を拠点に取り組んだキャンプから、練習時間を割いて強化してきた。

そこには、昨季の反省がある。
石﨑監督による戦術が早い段階で浸透した昨季のチームは、3月以降の6試合で4勝、1PK勝ち、1PK負けという快進撃を見せた。しかし、対戦が2巡目に入った4月中旬以降は失速。松本山雅のハイプレスを回避するためにロングボールを蹴られ、自陣の深い位置でボールを持っても効果的に前進できない課題を突きつけられた。

相手にロングボールを蹴らせないことは困難だが、奪ったボールを簡単に失わず、攻撃につなげることは自分たち次第でできる。そのために、「ボールを止めて蹴る」という基礎的な練習から、サポートや3人目の動きを絡めてパスで前進する形を繰り返してきた。
その成果が、パス数とボール支配率の増加であり、サイドに起点をつくってクロスからゴールを狙う形の構築につながっている。ロングボールで前進し、セットプレーとショートカウンターからゴールを狙った昨季より攻撃のバリエーションは増えている。
この強化が、チームの屋台骨を維持した上でのマイナーチェンジなら、質と精度が高まるにつれて勝利や勝点につながってくることが期待できる。しかし、根幹からチームの戦い方を変える方向に進んでしまうと、時間とリスクを伴う。チームの方針は前者だが、今は強化の過渡期にあり、新戦力を中心に「攻め急ぐのではなく遅攻があってもいい」「(パスをつないで攻撃を)下でつくることも必要」という声もある。

現時点での成績が全てを物語るわけではないが、J3の上位4チームを見ると、ロングボール主体で縦に速いサッカーを展開する2チーム(鹿児島ユナイテッドFC、SC相模原)と、自陣から丁寧にパスをつないで攻撃を組み立てる2チーム(愛媛FCとFC岐阜)にくっきりと色分けされる。
つまり、自分たちの特徴を前面に出し、そのスタイルを貫くチームが成績を伸ばす傾向が顕著に見て取れる。
同じ体制で数年をかけて強化を図る方針なら別だが、松本山雅の今季の目標はJ2昇格だ。あれもこれもと求め、結果的に“普通”のチームになってしまうことは、目標達成を遠ざけるリスクになりかねない。
試練を乗り切るために
他人事で終わらせない姿勢を
相模原戦から一夜明けた9月14日。チームは映像を見ながら相模原戦の課題を振り返る約45分間のミーティングに臨み、その後は出場機会がなかった選手も含め、疲労を抜くリカバリートレーニングに取り組んで全体練習を終えた。
選手たちを集めた石﨑監督は、「ワシも30何年、監督をやっているけれど、勝てない時はある。ここをどう乗り切るか。(コーチングスタッフから)いろいろと話をするけれど、それを右から左ではなく、他人事ではなく、自分のこととしてどう受け止められるかだよ」と呼びかけた。

約3分間の説諭の中で、「他人事ではなく」という言葉を3回、「乗り切る」という言葉を4回使った。「せっかくの試練を神様が与えてくれている。どう乗り切るか。下を向かずに、前を向いて」と締め、9月18日にアウェイで臨むロアッソ熊本戦に向けた切り替えを促した。
相模原戦の85分。DF高野遼が左サイドを深い位置まで突破し、ニアサイドに速いクロスを送り込む場面があった。この1週間、味方のサイド突破を信じて複数の選手が勢いを持ってゴール前に飛び込んでいく練習を繰り返したが、高野のクロスに走り込む選手はいなかった。
日々の練習を他人事で終わらせない姿勢を徹底して初めて、目の前の困難な状況を乗り切ることができるのではないか。

開幕直前にJ1清水エスパルスから期限付き移籍した34歳のDF北爪健吾は、「自分自身が若い選手の足を引っ張っているようではダメ」と強調した上で、J3というカテゴリーや松本山雅の環境に「合わせようとしていた部分が正直ある」と吐露。「結果がついてくるために、行動やプレーで示していきたい」とチームへの要求や働きかけを強める決意を口にした。
まだ38試合のうちの6試合を終えたばかり。挽回できるチャンスは十分に残されている。
一方で、1巡目の対戦を終える前半戦の19試合で昇格ペース(1試合あたり勝ち点2)に乗せるためには、ここからの13試合で11勝1分け以上のV字回復が必要で、現実的ではない。

クラブは、9月16日に期限を迎える夏の移籍期間ぎりぎりまで新たな補強を模索する構え。クラブもチームも、目標達成のために全力で戦い続ける姿勢に変わりはない。
ここで底を打ち、右肩上がりに持っていくことができるか。チームは正念場を迎えている。
松本山雅FCオフィシャルサイト
https://www.yamaga-fc.com/



















