上空の羽をかすめた“コヨーテの爪” 髙橋藍に折られた無念を糧に

善戦、健闘、あと一歩――。それだけでは納得できない、貪欲な集団に変貌してきた。VC長野トライデンツは2025年3月1-2日のSVリーグ男子第17節、3位のサントリーサンバーズ大阪と対戦した。日本代表アウトサイドヒッター(OH)髙橋藍らを擁する格上。GAME2は1セットを先取し、十八番のフルセットに持ち込む寸前まで苦しめた。それでも最後は力負けし、川村慎二監督も選手たちも悔しさをにじませた。

取材:大枝 令、松元 麻希

満員のアリーナで持ち味を発揮
熱狂が加速した怒涛の第4セット

大金星への期待が、アリーナに充満していた。

2025年3月2日、サントリーとのGAME2。VC長野は第1セットを28-26で先取すると、セットカウント1-2とされながらも第4セットは中盤から大きくリードを広げていた。

セッター(S)早坂心之介のサーブで崩して3連続ブレイク。18-16とする。

アウトサイドヒッター(OH)工藤有史の強烈なジャンプサーブが走る。

サーブで崩しての3枚ブロックで218cmのドミトリー・ムセルスキーをシャットアウト。リベロ(L)備一真のディグから、OH樋口裕希がワンタッチを取る。

さらにミドルブロッカー(MB)山田航旗が、髙橋藍からキルブロック。オポジット(OP)ウルリック・ダールが左腕で長いラリーを終わらせる。S中島健斗のワンハンドトスからMBトレント・オデイがクイックで叩き込む。

ディグに成功するたび、リバウンドから切り返すたび、そして強打を叩き込むたび――。アリーナは大歓声に沸き立つ。その熱狂と呼応するように、コートの全員が輝きを放つ。

「自分の1つ前のプレーが良かったりすると、次のプレーの時に声援が大きくなったりするのは感じている。テンションが上がるというか、上げてもらっている感覚があるので大変ありがたい」

樋口はそう振り返る。

ワンプレーごとにボルテージが上がり、24-19のセットポイントに到達。安曇野ANCアリーナはコヨーテの群れが支配する領域と化し、サントリーをじわりと追い詰めていた。

「会場全体がフルセットに持ち込もうという雰囲気にしてくれていて、すごく力になっていた」。工藤も確かな手応えを感じていた。

あと1点取れば、セットカウント2-2。
VC長野が自信を持つ、フルセットに持ち込める。
跳んで伸ばしたその爪が、大空の鳥を捕まえる。

――はずだった。

セットポイントからまさかの敗戦
トップギアに上げた髙橋藍に屈す

そこに立ちはだかったのが、他ならぬ髙橋藍だった。

「自分としてはあそこから自分自身の強さと勝負。ライトから決めて、その後にサーブで24点にまず追い付く。自分が今、どれだけそこのメンタルを持ってこられるかを試したかった」

まず自身のアタックでサイドアウト。そこからストロングサーブを繰り出してくる。VC長野はレシーブが乱れてサイドアウトを取れない。

1点、また1点――。
盤石に思われた雰囲気は一掃され、アリーナは髙橋藍の独壇場となっていた。

「いつも以上にもちろん集中はしていたし、『相手を崩す』というよりも自分のベストサーブを入れていくことにフォーカスしていた」

上空からの眼光に射すくめられたように乱れ、気が付けば24-24でデュース。そして最後はムセルスキーの無慈悲な高さに屈した。

「あそこで自分自身も安定したプレーを出せたのは一つ大きな成長というか、一ついい経験になった」と髙橋藍。トッププレーヤーたるゆえんを、圧巻のプレーと高い視座で示された。

VC長野の川村慎二監督も、悔しさを押し殺しながら敗戦を受け入れた。

「4セット目の『あと1点』というところも、こちらは思い切りやっているので何が悪いといったところはない」

「少し点を取り焦ったところはあると思うが、あそこでできることは選手一人一人がやった」

全員が躍動した。
精いっぱい、抗った。
波乱の気配を漂わせた。

それでも最後は、届かなかった。
はらりと一枚だけ、空色の羽根を落として。

格上相手の「善戦」にも満足せず
残り4試合でのリベンジを期す

トータルで振り返れば、健闘した。善戦した。

0-3で敗れたGAME1から一転。サーブやブロックなどが改善され、ホームの声援も借りながら混戦に持ち込む。

MBにはサーブの強い安部翔大を起用したり、要所でセッターを早坂から中島にスイッチしたり。手持ちの策を尽くし、大いに見せ場は作った。

だが、試合後の記者会見。
指揮官と選手からは、やり切った清々しさより無念さが色濃くにじんだ。

「いいプレーはたくさん出ていて良かったと思うけれど、要所で自分たちの繋ぎにしても決定力にしても精彩を欠いていた。あと4回サントリーさんと戦う中で、そこの修正が勝ちに繋がると思う」

早坂はそう振り返りながら、再戦を見据える。工藤は超満員の1,762人が詰めかけたアリーナの声援に応えられなかった――と悔やむ。

「(声援が)すごく力になっていたけれど、結果的にああいう負け方をしてしまった。すごく申し訳ない気持ちが強い」

サントリーとのカードはホーム&アウェイ各2試合の4戦が残されており、リベンジのチャンスはまだある。

修正と遂行のサイクルを繰り返し、未踏の山野を突き進む旅路。スーパースターの成長を助けただけで終わるつもりは、毛頭ないはずだ。


GAME1 監督・選手コメント(クラブ公式サイト)
https://vcnagano.jp/match/2024-2025-sv-div17-1
GAME2 監督・選手コメント(クラブ公式サイト)
https://vcnagano.jp/match/2024-2025-sv-div17-2
SVリーグ男子 順位表
https://www.svleague.jp/ja/match/detail/32231

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