県総体の雪辱に燃える“ミツバチ軍団”上田西 人工芝プロジェクトも追い風に

名誉挽回に向けて最終章へ挑む。前年度の全国高校サッカー選手権でベスト8に輝いた上田西。新たな代でも県新人大会を制したが、夏の県総体ではまさかの2回戦敗退に終わった。今週末の2025年10月11日、高校サッカー選手権県大会に3回戦から登場。現在進行中の「人工芝プロジェクト」も追い風に変え、再び旋風を巻き起こすつもりだ。
文:田中 紘夢/編集:大枝 令
KINGDOM パートナー
先代の全国ベスト8を超えるべく
早期敗退をターニングポイントに
「あのときは自分たちの実力というか、現状を突きつけられた。このままじゃダメだと気づけた」
6月1日に行われた県総体2回戦。宮川航汰キャプテン率いる上田西は、長野吉田に1-2と敗れた。のちに高円宮杯U-18県2部リーグ所属ながら決勝まで進む新鋭に道を譲った。

先制されてもすぐにFW末武優陽のゴールで追いついたが、後半に再び勝ち越された。2失点は自陣でのクリアミスと、セットプレーの守備でのエラーから。余計に受け入れがたい敗戦だ。
「普段は起きないような失点だった」とMF宮川。DF石川柊冴も「日常の緩さが出てしまった」と振り返る。

宮川の4学年上の代には、兄の叶夢(現新潟産業大)がいた。試合後には「あそこで負けちゃいけないよね」と連絡を受け、キャプテンとして「立て直さなきゃという思いはあった」という。
「まずは失点しないこと。守備をしっかりとやった上で得点できるように、指導者に聞いたりして見直してきた。全員で気持ちを入れ直す良いきっかけにはなったと思う」

先代の全国ベスト8を受け、その“壁”に挑む1年。全国舞台を経験したのは宮川、石川、そしてFW宮下琉之の3人しかいない。石川は先輩の背中を刺激にしつつ、重圧も感じている様子だ。
「先輩たちが残してくれたものをみんなで引き継ぐ中で、周りの目線をプレッシャーに感じるときもある。その記録を超えられるように頑張りたい」

今季は新人戦県大会を制した半面、総体は2回戦敗退。リーグ戦は8チーム中6位と振るわなかった。
残されたのは選手権のみ。長野吉田戦をターニングポイントに、細部へのこだわりも高めてきた。良くも悪くもトーナメントの恐ろしさを知っているだけに、身が引き締まる思いはある。

就任10年目の白尾秀人監督は「総体のような結果は二度とないようにしたい。リーグ戦では昇格の可能性がなくなった後に人も試しながら、勝負強さをつけてきた。それがうまく選手権に繋がれば」と雪辱に燃える。
憧れた黄色のユニフォームを着て
今度は「憧れられる」存在へ
今季も堅守速攻の大枠は変わらない。縦に速いサッカーを志向しつつ、昨季と同様にポゼッションも交える“ハイブリッド”を理想とする。
「自分はキックが強み。ビルドアップに関わる中で、チームを前に行かせすぎないで落ち着かせる時間も必要だと思う」

そう話すのは、ボランチの佐藤大悟。昨季は松本翔琉(現尚美学園大)という左利きの司令塔がいた中で、それに取って代わる“魅惑のレフティー”だ。
「今年は左利きの(佐藤)大悟がいて、(松本)翔琉じゃないけどセットプレーも蹴れる。そこをうまく生かせれば」と白尾監督。上田西の十八番とも言えるセットプレーにおいて、佐藤の高精度なキックは欠かせない。

攻撃を後方から支援するのは、右サイドバックの石川だ。昨季の全国選手権では、2年生の中で最長のプレータイムを記録。持ち前の運動量でサイドを駆け上がりつつ、今季は3年生としてリーダーシップも発揮している。
松本山雅FC U-15出身。ユースチームへの昇格がかなわなかった中で、高校サッカーの舞台を選んだ。
自身が小学4年生の際、上田西はFW根本凌(水戸ホーリーホック)を擁して全国ベスト4に進出。そのチームが県制覇する姿を、石川はスタンドから見守っていたという。

「あのときは心を動かされたし、いいなと思った。そこから中学に入って、高校の進路に迷ったときに、上田西の名前がふと出てきた」
憧れのユニフォームに袖を通し、今度は憧れられる存在へ――。「最後の選手権だけは、自分たちの思うような結果に持っていきたい」と力を込める。
OBの力を借りて待望の人工芝へ
“ミツバチ軍団”が針を尖らせる
今年はOBが主体となって、グラウンドを芝生化する「人工芝プロジェクト」も立ち上がった。
2017年の全国ベスト4進出以降、他の県内私立校は続々と芝生化。今年の県1部リーグにおいても、土のグラウンドを用いるのは上田西と市立長野のみだ。

遅れを取りながらも、昨年度の全国ベスト8を機に本腰を入れ始めた。OBから寄付を募り、スポンサーロゴ入りのウェアも制作。試合の際は白尾監督を含め、ベンチメンバー全員が着用している。
「上田西の生徒だけではなく、地域のイベントも含めて、老若男女の方々に使ってもらえるようなグラウンドにできれば」
白尾監督はそんな青写真を描く。

来春までの完成をめどに、自前の環境を整備。実現すれば強豪校を練習試合に招いたり、入部希望者の幅が広がったりと、チームの強化にも繋がる。伝統の“ミツバチ軍団”が、より針を尖らせることになりそうだ。
