【Farewell-column】アルウィンを熱くした“緑の家族” 松本山雅・菊井悠介

Jリーグの2025シーズンが全て終了し、松本山雅FCも新たなシーズンの準備を着々と進めている。本企画は今季限りでチームを去る選手に敬意を表し、その働きぶりやチームに遺した財産などを改めて記録するもの。今回は大卒から4年間在籍し、背番号10を託されてきたアタッカー・菊井悠介にフォーカスする。

文:大枝 令

4年間で126試合21得点を記録
「自分を変えたい」と一念発起

「君だよ、君なんだよ 菊井悠介」
「俺らを熱くする 菊井悠介」

菊井悠介のチャント(応援歌)は、キャッチーなフレーズとメロディラインで親しまれてきた。Goose houseの「光るなら」が原曲。得点を取るたび、あるいはチャンスを作るたび、サンプロ アルウィンで高らかにそのチャントが響いた。

大卒から4年間。チャントに歌われる通り、見る者を熱くした。

ボールを持つと何かが起こる。チャンスメイクもフィニッシュワークも何でもござれ。松本だけでキャリアを重ね、126試合21得点。スタジアムに愛されながら、喜怒哀楽の瞬間を何度もともにしてきた。

「好きなんで、松本。じゃないと4年もいないです」

過去には強豪クラブからも興味を持たれていたこともある。移籍を本格的に模索すれば、行く先はあった。それでも強まる愛着とやりがいが、若きアタッカーを松本に繋ぎ止めていた。

しかし――。

風が秋の気配を帯び始めた9月。その時期から、練習での振る舞いや表情など、従来と少しまとう雰囲気が変わってきた。

具体的に何が――というと、迷いがなくなり、吹っ切れたように見えた。その表情はチームの順位にふさわしくないほど穏やかで、どこか達観しているようでもあった。

2025年9月24日。信州グリーンフィールドかりがねで練習後に呼び止め、それを率直にぶつけた。

「自分を変えたいと思っていた。今年に入ってから色々やった中で、なかなか変え切れないところもあったし、自分がやってきたことを変えるのにも勇気がいる」

その一歩を踏み出した、と明かしてくれた。具体的には、23年まで松本山雅に在籍したFW小松蓮と同じメンタルコーチについたのだという。

小松は、メンタルコーチとの出会いを契機に変貌した選手だ。23年のJ3得点王に輝き、翌年J2ブラウブリッツ秋田に移籍。さらに今年夏にはJ1ヴィッセル神戸にステップアップした。

菊井も同様に、殻を破ろうと試みた。

「明確に個人の目標設定をして、より上を目指そうと思った。日本代表になって、早く海外に行って活躍しないと」

日本代表「サムライブルー」を現実的な目標と考えた時、例えばワールドカップ(W杯)カタール大会の次のスペイン・ポルトガル・モロッコ大会が行われる30年には31歳。現在の菊井は26歳でJ3。逆算すると、猶予はあまりない。

1年ごとに強まり続けた存在感
ラストゲームでもアシスト記録

流通経済大4年の2021年。シーズンの最終盤、ようやくJリーグクラブから内定を得たのが松本だった。菊井にとって松本山雅は、「プロにしてくれたクラブ」。内定を知らせる電話を受け、ひとり涙した。

しかしその年に松本山雅はJ2から降格し、自身はJ3松本しか知らない。

22年、J3で1年目のシーズン。最初はケガで出遅れたものの、32試合2ゴール。第33節テゲバジャーロ宮崎戦では、FWルカオのクロスに合わせて先制した。そこから守備が崩壊しなければ、違った未来もあったかもしれない。

23年、34試合6ゴール。自身は10アシストを記録し、FWマルクス・ヴィニシウス(FC今治)らと並んでアシスト王に。同時にベストイレブンも受賞した。

24年、32試合6ゴール。この年から背番号10をつけてキャプテンも務め、チームを牽引した。ピッチで見せる激情は“玉にキズ”にも見えたが、本人は「計算ずく」とさらり。J2昇格プレーオフ決勝で敗れ、翌年の昇格を涙ながらに誓った。

25年、キャリアハイを塗り替える7ゴールを挙げた。左腕のキャプテンマークは前半に赤、後半に黄色。ハーフタイムに着替える際に付け替えるだけで、「深い意味はない」と笑う。

自身は後半戦のケガに泣いて出場28試合にとどまり、チームも11勝10分17敗(勝ち点43)の15位と低迷。目標のJ2昇格には遥かに及ばなかった。

「去年、富山で人生で久しぶりに悔し涙を流して、『これ以上の思いをしたくない』という思いでこのクラブに残ることを決めてから、今日まで個人的にできることは全部やった」

「皆さんに『昇格する』と約束した日から一日も手を抜いた日はなかったけれど、まだまだ自分の力が足りないとこの1年間で痛感した」

11月29日の最終節、味の素フィールド西が丘のミックスゾーン。強行出場した自身はアシストを記録して勝ちはしたが、肩を落として「ラストゲーム」を終えた。

藤枝経由、「サムライブルー」へ
キャリアパスの中心には松本山雅

そして今回、菊井悠介は大きな決断を下した。

移籍先の藤枝MYFCはうってつけのクラブ。2023年からJ2で戦う新興クラブだが、つなぎ倒すDNAは持ち味を出しやすい。新指揮官に元日本代表DFの槙野智章監督が就任したのも話題性があり、活躍が目に留まる可能性も高まるだろう。

ステップアップしやすい環境でもある。FW渡邉りょうは23年夏にJ1セレッソ大阪へ移籍(現J2ジュビロ磐田)、MF久保藤次郎も同時期にJ1名古屋グランパスへ(現J1柏レイソル)。久保は今年、E-1選手権の日本代表にも初招集された。

新たな環境で、上を目指す。

ただし菊井悠介の物語には、“続き”がある。どうなるかわからないけれど――と前置きをした上で、ビジョンを口にした。

「自分が一番ピークの時にこのクラブに戻ってきて、このクラブでタイトルを獲りたい。落ち目になった時に戻ってきても、その夢はかなえられない」

「このクラブで活躍して引退したいのであれば、よりやらなければ――という気持ちになっている」

厳密には“続き”というよりは、そこから逆算しての移籍であり、日本代表でもあった。もちろんサッカー界は一寸先が闇でもあり、何が起こるかは未知数。それでも現状、菊井はこうした確固たるビジョンを持って新天地に赴く。

だからこそ、移籍のリリースに添えられたコメントも「いってきます!」という言葉で締めくくられている。

対になるのはもちろん「いってらっしゃい」。それは家族や親しき者を、安全と健康を願いながら送り出す言葉だ。この4年間ですっかり“緑の家族”となった菊井に、これ以上ふさわしい送辞はない。


菊井悠介選手 藤枝MYFCへ完全移籍のお知らせ
https://www.yamaga-fc.com/archives/518864
菊井悠介選手 松本山雅FCより完全移籍加入のお知らせ
https://myfc.co.jp/news/20251213/1179814/

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