“最弱の代”が成長遂げて全国へ 上田西高校は2トップ軸に「蜂のひと刺し」狙う

再び黄色い旋風を巻き起こすときだ。2025年12月28日に開幕する全国高校サッカー選手権。長野県代表の上田西は2年連続4回目の出場となる。昨年度はベスト8に進出し、2017年度のベスト4に次ぐ成績を収めたが、今年度はどんな景色が見られるのか――。“最弱の代”とみられながらも飛躍を遂げた今年のチーム。彼らが歩んできた軌跡をたどりながら、水口(滋賀)との初戦を占う。
文:田中 紘夢/編集:大枝 令
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「最弱で最悪の代と思われてきた」
ルーキーリーグ未勝利からの逆襲
「『声、球際、ハードワーク』というコンセプトがある中で、声が出ないと言われていたし、最弱で最悪の代だと思われていた。それを結果で覆さないといけなかった」
キャプテンのMF宮川航汰は、苦難の時期を思い返す。
昨年度全国ベスト8の上田西は、新たな代でも新人大会と選手権の県2冠を達成。一見スムーズに代替わりしたようにも思えるが、3年生は不安に駆られながらボールを追いかけてきた。

1年時の2023年、北信越U-16ルーキーリーグ1部最下位で2部降格。1分9敗の未勝利に終わった。
「びっくりするくらい勝てなかったし、自分もケガをしてしまってほぼ出られなかった。自分の代は個性が強くて、正直苦労しかなかった」
今となっては笑い話だが、宮川は人知れぬ苦労を抱えていた様子だ。
3歳上の代で副キャプテンを務めた兄・斗夢(新潟産業大)の背中を追いつつ、その代のキャプテン白石斗夢にも相談をした。全国ベスト8に進んだ1歳上の代にも引っ張られながら、「みんなで一つの目標に向かうときには自信があった」。

県新人大会で優勝。県総体ではまさかの2回戦敗退に終わったが、「自信と焦りがうまく噛み合って選手権を迎えられた」。リーグ戦でメンバーを試しながら、1年生のGK山崎大耀やDF野澤波の突き上げもチームを加速させた。
選手権ではトーナメントを勝ち進む中で、「全員で勝つという気持ちが強まっていった」とエースの平松優樹。高円宮杯で県勢最高位のプリンスリーグ北信越1部に位置する松本国際を下すなど、破竹の勢いで連覇まで駆け上がった。
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連覇の原動力となった2トップ
元FWの指揮官からアドバイスも
初の連覇をもたらす原動力となったのは、平松と末武優陽の2トップだ。
サイドハーフを主戦場としていた2人が、県総体での敗退を機に最前線にコンバートされた。自慢の快足を生かして働きバチの群れを牽引。県大会でも彼らがカウンターの起点となり、ゴールを量産した。

大会通算7ゴールの平松は、2年生までボランチも担っていた。松川中出身で、元Jリーガーの土橋宏由樹氏がプロデュースした「松川サッカー塾」にも通学。フットサルコートで習得したテクニックに加え、走力と体力を生かしたプレスが魅力だ。
日本代表FWの上田綺世や古橋亨梧を参考に、動き出しの技術も磨いてきた。ヴァンフォーレ甲府や松本山雅FCでプレーした元FWの白尾監督も、得点感覚を伝授。ゴール前でのポジショニングや身体の入れ方など、「気になったことは細かく伝えてもらっている」という。

相棒の末武は守備を苦手としていたが、平松に引っ張られるように「頑張れるようになってきた」。上田市出身で、中学では埼玉県のクマガヤSCに入団。全国区で挫折を味わい、地元の上田西で再起して今に至る。
群馬県代表の前橋育英には、中学時代のチームメイトもいる。彼らと同じ土俵に立つ中で、「優勝に向けて1試合1試合を大事にしたい」と力を込める。
県大会で全試合失点の守備が課題
粘り強く耐えてハチのひと刺しを
チームとしては強力2トップを軸としつつ、いかに失点を減らすかがカギとなる。
県大会では全5試合で失点。白尾監督は「失点しないチームは強い」という信条のもと、「シュートとかクロスに対してもう一個寄せたり、マーカーが競って終わったり…ちょっとしたところにこだわりたい」と細部に目を向ける。

2トップがハイプレスのスイッチを入れる中で、「相手に蹴らせた後に、ボランチの自分たちがセカンドボールを回収して攻撃に繋げられるか」と眞下凛。攻撃もFWに頼るだけでなく、3列目からの飛び出しやミドルシュートを心がける。
1回戦の相手は滋賀県代表の水口。29年ぶり16回目の出場となる古豪は、「球際・切り替え・運動量」を合言葉に掲げている。強度を押し出すチーム同士の対戦だが、白尾監督は「相手以上の勢いを見せるしかない」。

7年ぶり出場の前回大会では、組み合わせ抽選会や試合前に「下に見られている」と感じたという。ウォーミングアップで手を抜かれたり、指を差して笑われたり――。久々の全国で“洗礼”を受けた。
そこから今は見られ方が変わり、「『やるじゃん』と思われるようになってきた」と指揮官は微笑む。

とはいえ、チャレンジャー精神は変わらない。前回よりも個の力が劣る中で、「うまくないからうまさを見せないでシンプルにやる」。そのぶん守備の時間が増えたとしても、耐えてハチのひと刺しを狙うのみだ。
2017年度はベスト4で、昨年度はベスト8。大舞台に強い“ミツバチ軍団”は、就任10年目の指揮官のもとで何を見せられるか。

















