スペイン遠征でレアル・マドリード撃破 佐久長聖は”怖さ”持ち4年連続の全国へ

進化を遂げた1年の集大成だ。全日本高校女子サッカー選手権は2025年12月29日に開幕。長野県代表の佐久長聖は4年連続4回目の出場となる。昨年度は創部8年目にして全国ベスト8の偉業を遂げたが、今年度はどんな景色が見られるか。11月に敢行したスペイン遠征でつかんだ手応えを振り返りつつ、大会の展望を占う。

文:田中 紘夢/編集:大枝 令

原点回帰から編み出した「怖さ」
選手の価値を高めるために

「何のために佐久に来て、ここからどう成り上がっていくのか。もう一度1期生や2期生の頃に戻って、志すものに向かっていくためのチームづくりをしたい」

今年度が始まったばかりの頃。創部当初から指揮を執る大島駿監督は、原点回帰を掲げていた。

昨年度は長野県勢の最高成績となる全国ベスト8。「世界の佐久長聖へ」という教育方針に則り、スペインやアメリカに選手を輩出してきた中で、新たに日本女子プロサッカーリーグ・WEリーグにも2人を送り出した。

右肩上がりの8年を経て、何を目指すのか――。ポジショナルプレーの概念に沿って、人とボールが動くスタイルは変わらないが、そこに大島監督が付け加えたものがある。

「怖さ」だ。

昨年度の準々決勝では、のちに3連覇を遂げた藤枝順心に0-4と大敗。シュート数は1本に終わり、ボールが回ってもゴールの匂いはしなかった。

「どうしてもゴールに行くのが遅くなってしまう中で、前線だったら一人でも打開できるとか、最低でも二人で打開できるとか…。そうしないと選手の価値も上がらないし、チームもそのしわ寄せを受けることになる」

1人称、2人称、あるいは3人称でいかに局面を打開するか。それが選手の価値となり、チームの怖さにもなる。ひいては海外で活躍できる人材の輩出にも繋がる。

1人称では全国のトップレベルに劣っても、「グループになったときのハーモニーは面白い。今までの佐久長聖にはないアイデアがある」と指揮官。2年生ながらキャプテンを託されたFW尾茂弥花帆も、「去年よりも攻撃の練習が多い中で連係は良くなっている」。

3年ぶりのスペインでレアル撃破
個で劣ってもグループでまさる

ビルドアップがスムーズに進んでも、前線でスピードが上がらなかった従来。そこから今年度は火力が増し、敵陣に入ると顔つきが変わるようになった。

4-2-3-1の2列目以降がライン間で起点となれば、サイドバックやボランチがタイミングよくサポート。テンポを一段階上げながら、最前線の尾茂弥、サイドハーフの金谷彩花と宮内優衣ら得点力あるアタッカーが牙をむく。

11月には9日間のスペイン遠征を敢行。3年ぶりの渡西で、世界的強豪のレアル・マドリードやアトレティコ・マドリードと手を合わせた。レアル・マドリードに2-0と勝利し、スコアラーの金谷は「強豪相手に得点できて自信になった」と前を向く。

1人称ではフィジカルやスピードの差があっても、「11人で戦う力ではまされた」と大島監督。チームとして上回れた一方で、「相性が良かった」と本音も明かす。

「ゴール前は攻守において戦術的で、タイトで、簡単にやらせてくれない。ただ、それより手前のインテンシティは日本よりも低くて、時間を与えてくれる。ゴール前まではスピーディーに行けるので、やりやすさはあった」

組織でゴールを守るヨーロッパに対し、日本は個人でボールを奪う傾向が強い。プレッシャーを直に受ける中で、いかにその矢印を逆手に取るか。国内大会を勝ち抜く上でのポイントも再認識した。

スペイン勢に対しても相性の良さもありながら、ゴール前で組織的な守備を打ち破れた。現地の指導者からも高評価を受け、「非常に良い遠征だった」と振り返る。

DFリーダー不在も乗り越えて
「進化した佐久長聖」を見せる

攻撃の鋭さを増す一方、守備の安定には手を焼いた。

鈴木こなつ(AC長野パルセイロ・レディース)、加藤真実(ノジマステラ神奈川相模原)と、最終ラインにWE内定コンビを擁した昨年度。加藤とともにセンターバックを組んだ平賀千春が、今年度のディフェンスリーダーを担うはずだった。

昨年度の選手権で大ケガを負うも、一度は復帰して県選手権出場を目指した。しかし、その過程で再び受傷して長期離脱。チームとして動揺を隠せなかった。

尾茂弥、平賀とともにキャプテンを務めるDF新井陽彩は、「(平賀)千春がピッチに立てない分まで自分たちがプレーで表現したい」と力を込める。本職のサイドバックからセンターバックに移り、守備の要を担ってきた。

前回大会の3回戦。負傷した平賀に代わってピッチに入ったのは、金谷だった。39分から途中出場したが、試合に馴染めず62分に交代を告げられる。予期せぬチャンスを生かせなかった。

「大島さんは『インアウト(途中出場途中交代)は一つの戦術』と言っていたけど、自分は何もできなくて交代したと思っている。そこからチームを変えられる選手になれるように頑張ってきた」

屈辱のインアウトも糧とし、今となっては不可欠な攻撃の中軸を担う。3年生として最後の大会に向け、「一試合でも多く戦って長い冬にしたい。自分が点を取って勝ちたい」と意気込む。

今大会は12月30日の2回戦から出場し、鳴門渦潮(徳島)-宮崎学園(宮崎)の勝者と対戦。順当に進めば3回戦で王者・藤枝順心が待ち構える。1年前に大敗した相手を前に、進化した佐久長聖を見せられるか。


佐久長聖高校 クラブ活動ページ
https://sakuchosei.ed.jp/hs/hs-club/
長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

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