気が付いたらバスケットに魅了されていた。楽しさを追い求めながら、信念を曲げずに貫き続けた。中学、高校、大学、そしてプロ。その時々に出会った指導者が三ツ井利也を導き、バスケットボール選手としての価値を高めた。信州のお膝元・長野市篠ノ井で育ち、今なお信州で活躍するフランチャイズ・プレーヤー。愚直なプレースタイルが練り上げられた過程をひも解く。

文：芋川 史貴／編集：大枝 令

「やるなら中途半端にはするな」
厳格な父の教えを胸に 日々成長

スタッツは平凡だ。
スコアラーでもなければ、アシストを量産するわけでもない。
それでも、チームに必要とされる選手がいる。

信州ブレイブウォリアーズで言えば、三ツ井利也がそれに当たる。東海大4年時の特別指定選手から通算すると、9シーズン目。勝久マイケル・ヘッドコーチ（HC）とともに“日々成長”を遂げてきた。

それが結果的に、地元・長野市出身の選手だった――。
おそらくはそれ以上でも、それ以下でもない。

筋を通す。愚直に続ける。
曲がったことは大嫌い。
オンコートとオフコートは密接に繋がっている。

信州のカルチャーは、三ツ井がもともと備えていたマインドとも大きく重なる。むしろ符合するがゆえに成長を続け、今季も紺と黄色のユニフォームに身を包む。

“フランチャイズ・プレーヤーができるまで”

そんなタイトルの冒険物語、ページをめくってみよう。

「一回、ミニバスに遊びに行かない？」

三ツ井のバスケ人生は、この同級生の一声から幕を開けた。スポーツの家系。5歳上と3歳上の姉がおり、幼い頃からの遊び相手は姉２人の同級生が多かったという。年齢も体格も異なる年上と、近くの公園で鬼ごっこや砂遊びなどを楽しんでいた。

長野市篠ノ井出身。バスケットを始めたのは通明小4年の時だった。後にキャプテンとなる同級生から声をかけられ、「初めてバスケの練習を見に行って、ただ単純に楽しそうだと思った」。初めて見た得体の知れないスポーツに魅力を感じた。

最初はもちろん、初心者だ。
だからこそ、成長の喜びが感じられた。

「本当にド素人から始めたので、どんどん何かができるようになっていく感覚。当時の自分からしたら、たまらなくうれしかったし励みになっていた」

毎回、毎月。練習で少しずつできることが増えるたびに、三ツ井少年はバスケットの“沼”にハマっていった。

初陣も克明に記憶に残っている。

始めて3カ月くらいの時期。第3クオーター（Q）の途中で5ファウルの退場となった。「ルールもまだ覚え切れていないくらいの時期。今では完全に笑い話だけど、本当に頭が真っ白になった」と振り返る。

こっぴどく怒られもした。
それでも、成長の楽しさがまさった。

「どんどんうまくなる楽しさがあったからこそ、もっと続けたい思いがあった。同級生との関係性も良かったので辞めたくはなかった」

さらに、父親の教えも結果的に後押しをした。

「中途半端にやるのであれば辞めてしまえ。やるなら精いっぱいやれ」

父親は厳格だった。箸の持ち方から、鉛筆の持ち方まで。食事の姿勢ひとつでも食卓に雷が落ちたという。ピシッと背筋が伸びる日常を送っていた。

バスケットでも妥協はしないし、できない。たとえ試合で疲れても、帰宅したら腹筋。少しでもサボろうとすると父親の雷が降ってくる。

そうしてコート内外でバスケットに打ち込み、6年生で全国大会に出場するまで成長を遂げた。ライバルチーム・川中島との戦い。そのシーズン3勝3敗で迎えた7試合目、勝利をもぎ取って全国切符を手にした。

「痺れる戦いだった。今でも思い出すぐらい記憶に残っているし、実家にもその時の新聞がまだ飾られている。その後にみんなでガストで祝勝会をしたのも覚えている」

コート外の態度がコート内に影響
「日常の大切さ」学んだ中学時代

その後は篠ノ井東中に進学。ミニバスの同期とともに入ったバスケットボール部で、小学生時代とは違う環境に驚きを隠せなかった。

体格が違う。
自分より小柄な先輩に吹き飛ばされる。

「全然違うんだ」

レベルの高さや上下関係も学んだという。
ここで、生来のまじめな気質に一本の筋が通り始める。

「幼稚園のころから曲がったことは嫌いだったけど、かといってモメたくはない…という、どっちつかずだった」

「でも初めて部活動に入って上下関係をしっかり学べた。目上の人に対してどう接するか、どうやって敬語を使うか。１年生の時はすごく苦労したけれど、そこが厳しかったことですごく今にも生きている」

2年生になると新しい顧問が就任した。選手個々の自主性も重んじ、目標をしっかり考えさせる指導。そこで三ツ井は、バスケ以外の生活の大切さにも気付きが生まれていく。

目標を決める。そこから逆算して何が必要か、段階を踏んでロードマップを示す。それが当てはまる範囲は、何もコート内だけではなかった。誰か提出物を出していない部員がいたら、部活動自体が中止になることもあった。「そんなこともできないのであれば、目標は達成できないよね」と。

「バスケだけじゃなくて、生活面についてもより一層厳しくなった。この後の高校、大学でもさらに学んでいくけど、そこでベースをしっかり学べたのはすごく大きかった」と振り返る。コートの外と中はとても強い結び付きがあり、日々の取り組みがコート内での結果にもつながっていくことを知った。

悩みや行き詰まりは、部活ノートを通じたコミュニケーションで顧問からアドバイスを仰ぐ。コート内外でその存在が指針となり、2年時からスタメンとしてプレー。上級生がいる中でもコートに立つ重みを受け止めながら日々を送った。

「プレッシャーはめちゃくちゃあった。変なプレーはできないし、プレーが悪いとチームに迷惑をかけてしまう」

それでも、顧問の言葉が支えになっていた。「下級生だろうと責任感を持ってやりなさい。２年生が３年生を引っ張るぐらいのプレーでやってみなさい」。もとより一本気な気質。がむしゃらに戦った。

そしてフィジカル面でも、現在に通じる変化があった。

ヘルニアを発症して練習に参加できない期間が続く。医師から「柔軟性がないと、このまま痛みと付き合い続けることになる」と言われ、習慣を変えた。風呂上がりに30分間の全身ストレッチ。それを今でも続けている。

「今となっては、それでケガしにくい身体になれたと思う」

その年は都道府県対抗大会（ジュニアオールスター、現全国U15選手権）の長野県選抜に入って全国舞台を経験。そこでまた一つ、目線が高くなった。

「ジュニアオールスターに出た後だったので、全中（全国中学大会）に出たい気持ちもよりいっそう強くなった」。チームとしては県大会制覇を目標に掲げ、短い練習時間でどれだけ濃いトレーニングができるかを突き詰めた。

自分たちと向き合いながら厳しい練習を重ね、最後の夏は県大会優勝。しかし続く北信越大会でまさかの初戦敗退となり、全国への道は絶たれた。「あっさり中学校の生活が終わってしまうような感覚」。勝負の厳しさを知ったという。

恩師・入野貴幸HCとの出会い
心技体とも大きな成長に繋がる

この1年間を通じ、三ツ井に新たな道が開けた。

県内随一の強豪校・東海大三（現東海大諏訪）から声がかかった。当時は全国ベスト16に入るなど、少しずつ頭角を現していた時期。現在は東海大アシスタントコーチを務める入野貴幸ヘッドコーチが唯一、実家に直接連絡をしてきた。

同じ長野市からは、裾花中からザック・バランスキー（アルバルク東京）も進学していた。三ツ井も練習に参加。インテンシティとクオリティの高さ、そしてエナジーに圧倒された。

「とんでもないところに来た」

あまりのつらさに、緊張などしている余裕さえなかった。練習の8割は走りであったりディフェンスだったり。時にはラグビーのタックル練習用ダミーも使う。セネガル人留学生らを擁する全国上位と互角にやり合うための、規格外のトレーニングだった。

この環境で、三ツ井は大きな飛躍を遂げる。
入野HCはトレーニングに妥協がなく、ロジカルでもあった。努力を好み、そして選手と向き合う熱量に感銘を受けたという。

「厳しいには厳しかったけれど、その中に必ず愛がある。選手の一人ひとりのことを思って、愛情を持って接する方。バスケットだけじゃなく、いち人間として、人間力を高めるという点でも入野さんの存在は大きかった」

バスケットと日常は繋がっている――。

中学生時代も、もちろんその考えはあった。落ちているゴミを拾ったり、駐輪場で倒れている自転車を直したり。そうした日常生活の気配りは、味方が抜かれた時のヘルプやリバウンドで味方を助けるなど、スタッツには残らないプレーに通底する。

「さかのぼると（東海大HCの）陸川（章）さんの教えだろうけど、高校のそういう指導が今の自分のプレースタイルにも繋がっている」

そしてその教えを行動で体現していたのが、2学年上のバランスキーだった。当時は同じセンターでもあり、コート内外で多くを学ぶ。厳しい先輩が多い中、分け隔てなく接してくれもした。

こうした環境で3年間を過ごし、将来的にBリーグの選手になった者は多い。

ともにアルティーリ千葉の鶴田美勇士と黒川虎徹。バランスキーとともにA東京でプレーする福澤晃平もそうだ。さらにB1に井上諒汰（佐賀バルーナーズ）と笹倉怜寿（越谷アルファーズ）、B2では林瑛司（バンビシャス奈良）、米山ジャバ偉生（富山グラウジーズ）を輩出した。

彼らの多くは「入野組」と自称する門下生だ。

こうした環境で県内では比類なき強さを誇り、全国の舞台でもぐんぐんと存在感を強めた。三ツ井が1年生の時はインターハイで藤枝明誠（静岡）と能代（秋田）を破って県勢初のベスト4。ウインターカップも初めて8強に名を連ねた。

ちなみに8強入りを争う3回戦は延岡学園（宮崎）と激突し、58－56のロースコアゲームをものにした。三ツ井らの東海大三を残り1分を切っても苦しめ続けたのは、当時2年生のPG・ベンドラメ礼生（サンロッカーズ渋谷）だった。

3年時には、コート内の面でも大きな変化があった。2学年下に小布施中から191cm鶴田が入学したのに伴い、SF/PFなどのポジションを経験。入野HCは当時、「（大学やそれ以降の）将来も見据えながらそうしている」とコメントしていた。

「本当に先を見据えて指導してもらったのはありがたかった。あれがあるのとないとでは多分、大学のスタートも違ったと思う」

時あたかも2012年、信州ブレイブウォリアーズが産声をあげた直後。同校出身の宇都宮正がプレーし、26歳のウェイン・マーシャルも所属していた。ただし、メインストリームに乗った選手が選ぶ環境ではまだない。ナンバープレーひとつでさえ基本的なミスが起こっていた。

その年は国体で歴史を刻んだ。

少年男子の長野は東海大三主体のチームで、SF森和哉（佐久長聖）らを加えた構成。順調に勝ち残って県勢初の決勝へ。今だから明かせるけれども…と前置きして「準決勝に進んだ時点で宿舎がなかった」と笑う。

県協会としても望外の躍進。ファイナルは洛南主体の京都に敗れはしたが、集大成のウインターカップで「日本一」をつかむのに視界は良好だった。

しかし――。

満を持して臨んだ最後のウィンターカップ、結果はまさかの初戦敗退。初めてのシードで2回戦から出場したが、川内（鹿児島）の勢いにのまれる。

残り４秒からのディフェンスで、ブザービーターを決められて逆転負け。中学同様、またもやあっさりとした幕引きとなった。

「これだけ密度の濃い３年間を過ごして、ウィンターカップ優勝を目標にやってきた自負もあった。あっさり終わってしまい、喪失感もすごくて泣くこともできなかった」

文武両道を追求した東海大時代
思わぬ形で人生の転機を迎える

その後は恩師の背中を追う。

「入野さんの直属の後輩になりたい」という思いの下、東海大に進学。「入野先生が実際にどのように育ててもらったのか、礎を学びたかった」と考え、恩師が学んだ教授のゼミにも所属した。

それと同時に、中高の保健体育の教員免許も取得。良い授業を作るためにはどうすれば良いかを考えて読書量も増やす。従来のバスケット一辺倒だったインプットから、多角的な分野の知識を取り入れるようにもなった。

「課題やレポートの量も多く、時期によっては練習と課題に日々追われていた。講義の合間にレポートを終わらせないと練習に間に合わない…という感じだったので、いろんな人が思い描くような楽しいキャンパスライフは過ごせなかった」

バスケットも関東大学1部リーグやインカレで優勝を争う強豪。学業と両立しながらの日々を送っており、その先にトップリーグ入りは全く視野に入っていなかったという。

当時は国内にトップリーグが並立していた時期。2014年にFIBAから日本代表の国際試合出場資格の停止が告げられるなど競技界全体が揺れており、将来を見通すのが難しくもあった。

「正直そのときは普通に就職して、実業団でやるぐらいの感覚だった。2年生まではあまり試合に出ていなかったし、そんなに現実味は帯びていなかった」

しかし、3年生になってから徐々にパフォーマンスが向上。イメージする動きと実際の身体の動きが噛み合うようになってきたことで、プロに挑戦したい思いが湧いてきた。

ただ、Bリーグが誕生したのは2016年9月、三ツ井が4年生になってから。それまではサラリーマンをしながらバスケを続ける選択肢を取った。だが4年時、ほぼまとまりかけていた実業団との話が先方の都合で消滅。12月になってインカレを準優勝で終えた後にも進路は決まらず、就職浪人になりかけていた。

ここで人生のターニングポイントを迎える。同じ東海大の徳川慎之介（現東京ユナイテッド）が信州の練習生から契約に至り、当時の小野寺龍太郎HCが三ツ井の話を聞いて興味を持った。

「練習参加の話が来て、そこからウォリアーズとの関係が始まった」と振り返る。そして特別指定選手となって2017シーズン、正式に加入。以降は信州ブースターもよく知るように、苦楽をともにしながらクラブとともに階段を駆け上がってきた。

ディフェンスのスペシャリスト。それは高校、大学と続くスタイルの中で自然と磨き上げられた。

そしてコート外での日々を送るマインドが、自身のパフォーマンスやチームの結果に直結することも知っている。

今までの恩師から学んだことは、信州の”日々成長”というスローガンとも、勝久マイケルが求めるバスケットともぴたりと適合している。しかも、生まれ育った地元のクラブ。これ以上ないほど、幸せなマリアージュだった。

2016-17〜23-24までの8シーズン。
通算380試合、7443分、1446得点。
これらの数字は全てこの地で、このクラブとともに積み上げてきた。そして数字には表れないさまざまな貢献を、コート内外で果たしてきた。そのために、どれだけの汗を流しただろうか。

近年は役割の変化もあり、プレータイムを安定して勝ち取れないことも増えてきた。しかし30歳の節目を迎えた今季、三ツ井は信州でのプレーを選択。まだこの故郷で、貢献できる余地が残っている。

コートにゴミが落ちていたら率先して拾う。負けても悔しさを噛み締めながら、応援してくれたブースターに手を振る。試合に出れば、泥くさいタスクを地道に遂行する。

プロバスケットボール選手・三ツ井利也を形作ってきた教え。紛れもなくそれはこの地で練り上げられ、今もそれを実直にやり続ける。たとえ派手さはなくとも、その姿がブースターの心をつかむ。

2024年11月26日のバンビシャス奈良戦と25年2月18日の山形ワイヴァンズ戦は、長野市内の小中学生5,000人を招待する「キッズドリームデイ」。生まれ育ったふるさとで、子どもたちにその背中を示す。

「僕が子どもの頃は地元のチームを見に行く習慣がなかったし、まだチーム自体もなかった。でも今は自分がここでプロ選手としてプレーしている以上は夢を持ってほしい。自分たちの地元の先輩はこういう人なんだ、と見せたい」

PROFILE
三ツ井 利也（みつい・かずや） 1994年6月2日生まれ、長野市出身。通明小4年生の時に篠ノ井ミニバスで競技を始め、6年時には全国大会に出場。篠ノ井東中では2年時から主力として起用され、都道府県対抗ジュニア大会の県選抜にも選ばれた。高校は東海大三（現東海大諏訪）に進学。1年時はインターハイ4強とウインターカップ8強。3年時には国体少年男子で準優勝。いずれも県勢過去最高の成績を収めた。関東1部の東海大を経て2016年、信州ブレイブウォリアーズの特別指定選手に。卒業後から現在まで在籍を続け、チーム最古参で唯一の県出身選手となっている。190cm、95kg。