指揮官の直言に奮起した“14人目”の選手たち 決意のピッチで存在価値示す

冷酷で非情な言葉も、受け止める側の意識次第で意味が変わる。「今は12-13人で戦っている」と石﨑信弘監督から指摘された“14人目”の選手たちは、その言葉をどう受け止めたのか――。2026年4月29日のJ2・J3百年構想リーグ第13節。J2ジュビロ磐田にホームで挑んだJ3松本山雅FCの選手たちが、その答えをピッチで示した。

編集:大枝 令

巡ってきた先発のチャンス
闘志全開で格上から主導権

15日間で5試合が組まれた過密日程の2試合目。前節から中2日で迎えた磐田戦で、松本山雅の石﨑信弘監督は先発8人を入れ替えるターンオーバーを敢行した。

DF二ノ宮慈洋とMF小川大貴、MF大橋尚志の3人は今季初先発。MF佐相壱明は第2節以来、FW田中想来は開幕戦以来のスタメンで、チームが4連勝を飾った3月は先発の機会どころか試合に絡むこともほぼなかった。

磐田は前節から先発全員を入れ替えた。同日の他会場でも同様の選手起用をしたチームが多かった。主力を休ませ、昇降格のない特別リーグで戦力の底上げを図るチーム側の意図があることは容易に想像がつく。

ただ、久々の先発機会をつかんだ選手たちにとってチーム側の思惑はどうでもいい。

「思い切って爪痕を残す気持ちで臨んだ」と二ノ宮。ギラギラした選手たちの闘志が、冷たい夜風が吹いたサンプロ アルウィンを熱していった。

ワントップの田中が猛然と相手ボールに寄せる。横パスでいなされたら右へ左へ、圧力を嫌って下げられたら前へ。その動きに9試合ぶりに先発したFW井上愛簾や2列目に入った大橋も連動。立ち上がりこそ格上のスピードに押されたが、そのレベルに慣れた15分以降は松本山雅が試合の主導権を握った。

「足りないものが多すぎる」
殻を破った生え抜きのFW

石﨑監督が冒頭のコメントを発したのは、前半戦最後となった4月5日の第9節、いわきFC戦後の記者会見だった。前半戦の受け止めを問われ、「先発の11人はある程度戦えるメドがついたと思うが、どうしてもメンバーチェンジが2人しかできない」と言ってから、冒頭の言葉を続けた。

「石さん(石﨑監督)のコメントを見た」と佐相。「石さんが『控えの中で交代できる選手がいない』と言っている」と田中。石﨑監督はコメントの中で特定の選手を名指ししていない。それでも、“14人目”の選手たちは全員が自分ごととして受け止めた。そして、練習から変わろうとした。

19分。田中が相手GKに向かって猛然とアプローチをかけると、圧力に屈したGKのミスキックが井上の元へ。この決定機で放った2本のシュートは決まらなかったが、58分にも同じような形を作った田中の足は交代で退く82分まで止まらなかった。

終盤に途中出場した4月26日のAC長野パルセイロ戦後、取材エリアで足を止めた田中の表情は危機感に満ちていた。

「今日のようにチャンスをもらった中でゴールに関わるプレーを増やさなければ間違いなく先発はない。現状は(井上)愛簾や藤君(FW藤枝康佑)にも序列が負けている。今日のようなプレーでは絶対にチャンスは来ない。自分には足りないものが多すぎる」

磐田戦までの猶予は2日間。目を付けたのは、同じポジションで主力を張るFW加藤拓己の存在感だった。

「ゴリ君(加藤拓己)は迫力がある。そこが一番大きい違いだと考えた。スプリントでアプローチして距離を詰めること、相手に蹴らせること、奪うことが一番の課題だと思っていたので、今日は特に意識した。ゴリ君は『本当に奪ってやろう』という気迫を感じる守備をしていた。僕も参考にして、(試合に)出たらやらなければいけないと思っていた」

昨季はチーム最多の9得点をマーク。生え抜きの若き21歳は、殻を破ることで目の前に出現した壁を乗り越えようと歯を食いしばっている。

戦力底上げして5月の戦線へ
再び上昇気流に乗るために

42分。右サイドからMF村越凱光が蹴ったFKを大外の二ノ宮が頭でねじ込んで先制した。34歳の小川は、2024年途中まで10年以上所属した古巣に対して球際での闘志を隠そうとせず、72分には懸命のゴールカバーで相手の決定機を阻止した。

持ち前の運動量で上下動を繰り返し、深い位置までえぐって決定機も演出した佐相は右サイドで躍動。試合後は、同じポジションで不動の主力に定着しているDF小田逸稀への対抗心をむき出しにした。

「逸稀君とは違う色を出すことを意識して(試合に)入った。(石﨑監督のコメントに対して)『そんなことないぞ』という気持ちはみんなあったし、僕も人一倍あった。スタメンを目指すことはもちろん、途中交代でも使ってもらえるように個性を伸ばしていきたいと強く思う」

石﨑監督のコメントの真意は本人にしか分からない。ただ、その言葉の先にいる選手たちが指揮官による「嘆き」や「諦め」と捉えたのなら、磐田戦で見せたパフォーマンスは説明が付かない。「愛のムチ」だと受け止めたから、選手たちは躍動したのではないだろうか。

勝ち点を積み上げた3月から4月にかけての戦いは、主力を固定した反動として選手層が薄いという課題を浮き彫りにした。ケガなどのアクシデントで表層がはがれた時、その下層が空洞ならチームは崩れてしまうだろう。しかし、磐田戦を現地で見届けた9,000人が目にした下層の実像は、ぐつぐつと燃えるマグマではなかったか。

「本当に素晴らしいパフォーマンスを出してくれた。今まで(試合に)出ていた選手がどれだけ刺激を受けてトレーニングできるか。(中3日で迎えるヴァンフォーレ甲府戦は)しっかりと勝てるメンバーを出していきたい」

そう話した石﨑監督。普段どおりひょうひょうとした表情の裏で「してやったり」と舌を出しているのかもしれない。5連戦の3試合目もホームとなり、首位・甲府を迎える一戦。3連敗の中で得たチーム力を、次は結果につなげたい。


5月3日(日) 松本山雅FC vs ヴァンフォーレ甲府 ホームゲーム情報
https://www.yamaga-fc.com/archives/539177

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