アキ・チェンバースが遂行した“1.0秒のミラクル” 信州の細やかさを象徴

試合終了のブザーとともに、ホワイトリングが大きく揺れた。2025年3月1日、東地区2位の信州ブレイブウォリアーズが同4位の福井ブローウィンズを迎えたGAME1。66-68で2点を追う試合時間残り1.0秒から、”冷静沈着な仕事人”アキ・チェンバースの3ポイントシュートで劇的な逆転勝利を収めた。いかにしてその一撃は決まったのか――。1.0秒のプレーをひも解く。
文:芋川 史貴/編集:大枝 令
ホワイトリングが揺れた逆転劇
仕事人のビッグショット
絶体絶命だった。
66-68で迎えた第4クォーター(Q)残り1.0秒。福井の木村圭吾にシュートを決められ、信州は3回目のタイムアウトを使って最後の局面に臨む。

4,417人が訪れたホワイトリング。サンボマスターの「ミラクルをキミとおこしたいんです」に合わせ、この日一番のブーストが送られる。
フロントコートのサイドスローインでゲームが再開。ボールを出す生原秀将が選択したのは、一瞬だけフリーになった仕事人アキ・チェンバースだった。
迷わずに放ったシュートが、ブザーとともに放物線を描きながらリングに吸い込まれる。映像のフレームレートから算出すると、キャッチからシュートまで0.76秒。鮮やかに勝ち越しを遂げた。
「全てが速く過ぎ去ったが、とても素晴らしい気持ちだった」
ホワイトリングに、割れんばかりの歓喜が轟く。選手たちもコートに飛び出して喜びを分かち合う。殊勲の34歳は、「おやすみ」ポーズのセレブレーション“Night,Night”をやり返す。

「みんながダッシュしてアキの方に集まって、チームメイト同士で喜びあっているのがうれしい」と目を細める勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)。普段は冷静沈着な指揮官も、さすがに感情が爆発したようだ。
「自分はだいたいどのような終わり方でもまずは相手コーチに握手しに行くけれど、一瞬だけ自分もアキに向かって叫んだ」

チェンバースは過去にも数々のビッグショットを沈めている。例えば昨季所属していたサンロッカーズ渋谷では、川崎ブレイブサンダースとの一戦で、残り数秒の土壇場から同点3ポイントシュートを沈めて延長戦の末に勝利を収めている。
34歳。
ベテランの総身に凝縮された経験値は、伊達ではなかった。
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ラスト1.0秒をプレーバック
際立つコンマ何秒の世界とは
残り1.0秒で逆転なんてできるのか――。
そう思っていたブースターも少なからずいたかもしれない。しかし、ビッグショットを沈めたチェンバースは、どこまでも冷静だった。
「残り1秒でも逆転できる時間はあると思っている。オープンになるには十分な時間だし、0.3秒でもチップすればいい。そう考えると1秒はとても時間がある」
ましてやサイドからのセットプレー。互いの攻防が鮮明に見えたシーンの1つでもあった。ラストプレーはどのような指示が飛んでいたのだろうか。

まずは勝久HC。
「我々のショートクロックプレーで、3ポイントのオプションもある2ポイントが必要な時のプレーだった。P(ペリン・ビュフォード)にはより大きい選手がつくと思って彼がデコイ(おとり)になって、アキが(渡邉)飛勇のロブのスクリーナーになってペイント内を小さくする」
「結果的にディフェンスが何を選ぶかによってどこがオープンになるか。飛勇も一瞬開いてはいたと思うけど、そこにヘルプが少しでも寄ったら、次はアキがポップするプレーだった」

一方で福井の狙いはどうだったか。
伊佐勉HCが振り返る。
「まずは2点であれば負けないので、ノースリーポイントという話はした。ノーマークになったアキ選手が、その前にバックスクリーンをかけた時に(木村)圭吾がそれに少し反応した。そこの指示は僕ができていなくて、今思えば『たられば』だけれど、スイッチをしないといけなかった」
「ただ、スイッチしなかったら裏に投げられていた。2ポイントだけど1秒で難しいシュートだし、決められても同点だった。コンマ何秒の世界だけれど、結果的には『中に反応せず外に』と圭吾に強く指示できなかったのは僕のミス」
たった1.0秒のプレー。その中でも、多くのシチュエーションを想定してオフェンスやディフェンスを遂行する。コンマ何秒のズレがシュートを生み出すこともあれば、リズムを狂わせることもある。
勝久HCは普段から、選手たちに繊細なプレーを要求する。細部へのこだわりがこの日のラスト1.0秒に凝縮され、劇的な勝利をつかみ取った。
勝利しながら課題も残るGAME1
連勝して開幕節の借りを返せるか
ただ、課題も多く見られた試合だった――と指揮官や選手は語る。
「50-50ボールは負けてしまっていた。カバレージでも誰がダブルチームして誰がしないかを単純に遂行するとか、もっと強くフィニッシュに行ったりスカウティングレポートを堅実に遂行したり、いろんな課題がある」
「選手たちもみんな分かっているけれど、我々がコントロールできることを遂行していかないといけない。フリースローを与えてしまった数もそうだし、リズムを取れないゲームだった」
勝久HCはそう振り返る。

GAME1の結果により福井とのゲーム差は5に拡大。対戦成績も2勝2敗のイーブンとなり、開幕の連敗を取り戻した。
しかし大切なのは、GAME2できっちり連勝を伸ばせるかどうかだ。エナジーや強度を高めてくるであろう相手に対し、ホームで底力を見せたい。
「勝つことができてみんなうれしいと思っていると思うが、試合の内容は修正すべき点がたくさんあった。そこをみんなで話して修正して臨みたい」とチェンバースも力を込める。ようやくフルメンバーがそろった信州。GAME2では誰がヒーローとなるだろうか。

クラブ公式サイト
https://www.b-warriors.net/