最年長の坂井優紀は「やってやる」 逆境の“オレンジダービー”へ決意

逆境こそ、その真価が問われる。AC長野パルセイロ・レディースは2025年3月2日、WEリーグ第12節で日テレ・東京ヴェルディベレーザに1-4と大敗。3カ月ぶりのリーグ再開で首位相手に厳しい船出となった。キャプテン・伊藤めぐみらの負傷交代も重なり、いきなりの苦境が到来。それでもチーム最年長のDF坂井優紀を軸に前を向きながら、3月9日のホームゲームに挑む。
文:田中 紘夢
前節は首位相手に力の差を痛感
“精神的支柱”の2人も負傷で失う
「タラレバだけど、もっとできたかな…」
そう話す坂井の口ぶりには、無念さがにじんでいた。
ホームで首位撃破を狙った一戦だったが、10分に先制点を献上。“ネクスト長谷川唯”と称される眞城美春にFKを決められる。クロスバーに当たって入る絶妙なコースだったが、ボールは坂井の頭をわずかにかすめていた。
「もっと跳べたら止められたかなとか、FKを取られなかったらとか、その前に自分たちのクリアがどうだったかとか…思い返すことはいっぱいある」

開始早々の失点を皮切りに、終わってみれば大量4失点。相手のミスから1点を奪い返すのが精いっぱいだった。
試合前には「誓い」を立てていたという。
センターバックの相棒である岩下胡桃と、その後方に構えるGK伊藤有里彩とともに、「マジで無失点で行こうね」と強調。前半戦は失点数がリーグ3番目に多かっただけに、その意志は固かった。
しかし蓋を開けてみれば、無失点とは程遠い結果。3強の一角を担う東京NBに対し、前半戦の1-5に続く大敗を喫した。内容を見ても力の差は明らかで、現実を直視せざるを得なかった。

「『これくらいやらないと、上位には食い込めないよね』と。上位のチームは一個一個が丁寧だし、決めるところは決める。守備で(サイドを)変えさせないとか、ボールを奪われないとか…。その順位にいるだけあるというのは、めちゃくちゃ感じさせられた」
ダメージは大敗だけにとどまらない。前半にボランチの伊藤めぐみ、後半にセンターバックの奥川千沙がそれぞれ負傷。センターラインの核を失った。
伊藤は22歳の若きキャプテンで、奥川は29歳の経験豊富なベテラン。36歳の坂井とともに精神的支柱を担っていただけに、代償はあまりにも大きい。
“踏んだり蹴ったり”の再出発も
「全員で同じ方向を向いている」
幸いにも伊藤めぐみは全治3週間にとどまったが、奥川に至っては全治8カ月の重傷。坂井にとっては、マイナビベガルタ仙台レディース(現マイナビ仙台レディース)時代からの“相棒”を欠くことにもなる。
「このタイミングでキャプテンだったりベテランがいなくなるのは、チーム的にもめちゃくちゃキツい。選手の間でも大きなものはある」
まさに“踏んだり蹴ったり”の再出発となったが、後半戦はまだ始まったばかり。下を向くには早すぎるだろう。

今週はトレーニング前に選手全員で輪を作り、DF橋谷優里が笑顔で明るく振る舞う。右膝半月板損傷の大ケガを乗り越え、復帰間近の27歳。『ここで暗くなっている場合じゃないよね』とチームを奮い立たせた。
「『2人の分もやらないと』というのは、選手全員が感じられたと思う。デカい穴だけど、それを埋められるように――。全員で同じ方向を向けているところはある」と坂井。自身も経験豊富な新戦力として、「何もパンチがなかったとは思われたくない」。

追い風も吹いている。チームは後半戦から新卒選手5人が加入。1月当初から合流している鈴木こなつが東京NB戦でデビューし、そのほかの4人も3月から本格合流となった。ケガ人が相次ぐ中で、競争力の一助を担ってくれるだろう。
「誰が出ても変わらないチーム力を作っていきたい。そこは全員を信じてやっていくしかない」と坂井。チーム最年長として、誰一人残らず牽引していく構えだ。
古巣・大宮とのオレンジダービー
今こそ「やってやる」とき
後半戦はまだ始まったばかりだが、早くも正念場とも言える。
次節に相まみえるのは、12チーム中最下位の大宮アルディージャVENTUS。その翌節には11位のノジマステラ神奈川相模原と、下位との対戦が続くからだ。
「ここで負けると取りこぼしになってしまうし、勝点も僅差なので簡単にひっくり返ってしまう。本当に落とせない連戦が続くと思う」

そう話す坂井にとって、次節は古巣戦でもある。大宮Vには昨季まで3シーズン在籍。前半戦ではNACK5スタジアム大宮に凱旋し、セットプレーのターゲットとして多くのチャンスを迎えたが、惜しくも決められず。チームもスコアレスドローに終わった。
今季はカップ戦も含めて1勝2分。“オレンジダービー”の決着は、この一戦に委ねられている。チーム状況も相まって、懸ける思いは強い。

「自分は毎試合緊張しているけど、大宮戦は楽しみな気持ちのほうが大きい。もちろん古巣だからというのもあるし、大好きなメンバーもたくさんいる。『ここで頑張っているよ』という姿を見せたいし、恩返し弾もしたいし…。いろんな気持ちが重なって、本当に楽しみ」
前節には個人チャント(応援歌)も初お披露目となった。
「坂井、坂井、やってやれ!」
マイナビ仙台レディース時代から引き継がれる、思い入れの強いチャント。その歌詞にもあるように、今こそ「やってやる」ときだ。

WEリーグ第13節 大宮アルディージャVENTUS戦 チケット情報
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クラブ公式サイト 選手一覧
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