三谷沙也加×奥川千沙「かつてない苦境 それでも私たちは前を向く」

リーグ戦10連敗と苦しむAC長野パルセイロ・レディースだが、女獅子たちは決して下を向いていない。チーム最年長コンビのMF三谷沙也加とDF奥川千沙がトレーニングから笑顔を絶やさず、暗いトンネルの中に明るい光を差し込んでいる。2026年3月7日のWEリーグカップ第4節・ジェフ千葉レディース戦は、今年初のホームゲーム。最下位からの逆襲に向けて、2人の心の声に耳を傾けたい。

取材:田中 紘夢

積み上げに自信も、届かない結果
最年長コンビが説くチームの現状

――リーグ戦は10連敗で苦しい状況ですが、現状とどう向き合っていますか?

三谷 今シーズンが始まったときは単発的な攻撃が多くて、個でサッカーをしているような感じでした。でも自分たちは代表選手もいなければ、年齢的にも30歳の自分たちが最年長ということは、若いチームじゃないですか。だからこそ「みんなで」と思っていましたけど、戦術的にも同じ方向を向くのがちょっと難しさがありました。

(12チーム)11位という状況で年を越して、中断期間ではカツさん(勝又慶典コーチ)も入ってきてくれた中で、チーム全員で関係性を作ろうとしていました。

(髙橋)雛と(奥川)千沙も大ケガから戻ってきて、練習試合でも攻撃と守備のところが合ってきたところもあれば、(松﨑)愛華が大ケガで抜けてしまったり。いろんな思いも出てきて、再開後は良いスタートを切りたいと思っていました。

それでも初戦(ちふれASエルフェン埼玉戦)で0-4で負けて、2戦目(三菱重工浦和レッズレディース戦)も0-5で負けて…。個人的にはやることを変える必要はないと思うし、前みたいにキツいだけのサッカーではないと感じています。だからこそ結果がほしいし、まずは失点しないチームづくりをしたい。そのためにはセンターバックの千沙の力も必要です。

奥川 私もまだ復帰して2試合ですけど、自分たちの積み上げてきたものは悪くないと思います。それでも結果が出ないのは、大まかなところは積み上がっているけど、細かいところがまだ足りないというか。練習でできないと試合では出せないですけど、試合は練習と同じ状況ではないので、そこがちょっと噛み合っていないのかなと。

意識だったりコミュニケーションで変わることもたくさんあると思います。そこは今までも2人ともやってきたつもりですけど、もっとみんなに伝わるように頑張りたいし、今は次の試合に向けて100%の準備をしています。

三谷 大まかなところで言うと、自分たちはちふれ戦でボールを持つことはできましたけど、それ以前にミスが多くて。今までの練習試合だったら考えられないくらい、やってきたことが全然出せなかったんです。

そこはもう次のレッズ戦に切り替えようと思っていましたけど、あの試合も早い時間帯で失点しまったので…。本当に失点はなくしたいんですよ。

奥川 それで相手のリズムになっちゃうからね。

三谷 特に前半の早い時間帯で失点すると、受け身になっているつもりはないけどそういうふうになってしまって、なかなか盛り返せないところはあります。いつも後半で盛り返す試合が続いているので、「最初からやればいいじゃん」と思われるかもしれないですけど、今は流れ的にそうもならないんです。

失点しなければ負けないですけど、この2試合は得点も取れていないので。チームとして全員でゴールを守って、全員でゴールに攻める。それを自分たちが引っ張れたらいいし、千沙はこういうときでも、アップから先頭を切って声を出してくれています。

奥川 サヤが「行こう、行こう!」とか言ってアップしていたら、ちょっと面白いけどね(笑)。本当に初歩的なところですけど、アップって大事じゃないですか。これから練習だったり試合が始まる中で、体も心もそこに向けていきたいので、声を絶やさないようにしたいなと。

三谷 今まではずっとリハビリだったから、その声が届かないところもあったもんね。今は千沙がチームに戻ってきて、変化を感じてくれている選手もいるだろうし、リハビリのときから千沙の頑張りを見てきた選手もいるだろうし。千沙は周りから応援される選手なので。

奥川 すごい褒めてくれるじゃん、ありがとう(笑)。

三谷 そうだよ(笑)。いろんな選手に話を聞いたりして、千沙ができることをやってきたのは知っているから。

――Jリーグでもベテランの選手に話を聞くと、外から見ていて思うことはあっても、自分がピッチに立っていないと発信しづらいという声も聞かれます。そういったジレンマはなかったでしょうか?

奥川 やっていないほうが逆に言えるかもしれないですね。私がプレーできないぶん、「あんたはできるじゃん!」って。

性格的にも言わない選択ができないんですよ。もちろん相手ありきなので、言ったところで「でも…」と思う選手もいるだろうし、それだと言うのがもったいないじゃないですか。だったら「そうだよな」と思ってもらえるような言い方をしたいし、まずは受け入れてもらわないといけないので。

三谷 千沙は芯が通っているし、熱いタイプなんですよ。自分は熱さもあるけど冷静なタイプだと思っていて、良いバランスは取れているのかなって。

千沙が言ったことに対して、「強いな」と感じる選手もいるだろうけど、そこでも私が「こういうことだよ」と説明できると思うんです。別に補助するわけでもないし、その選手をなだめるわけではないですけど、チームの中にはいろんな役割があると思います。

試合でも怒る選手が11人そろってもダメだし、なだめる選手が11人そろってもダメだし…。言う人は言う、言わない人は支えるじゃないけど、みんなでうまくバランスを取れればもっと一つになれるし、もっと強くなれるんじゃないかと思います。

千沙はそこで強く言えるし、プレーでも見せられる選手です。帰ってきてくれたのは心強いし、同じ最年長として二人で一つだと思っています(笑)。

奥川 今年は二人とも最年長になったから、しゃべることも増えたしね。

気持ちに寄り添ったアプローチ
殻を破りつつある期待の若手も

――昨季の伊藤めぐみ選手(サンフレッチェ広島レジーナ)と坂井優紀選手(マイナビ仙台)もそうですが、今季も橋谷優里選手(1.FSVマインツ05/ドイツ)がシーズン途中に移籍して、毎年リーダー格がチームを去っています。その中でも振る舞いや意識が変わる部分はありますか?

三谷 私は誰がいてもいなくなっても、そこまで変わらないですね。今は龍さん(廣瀬龍監督)が来て3年目ですけど、スタメンもサブもメンバー外も経験しているし、ケガもあったし…。どんな状況も経験してきたので、自分はいろんな選手の気持ちが分かると思っています。

これは私の考えですけど、そうやって気持ちを分かってくれる選手から言われたほうが、スッと耳に入るんじゃないかなって。だからこそ「この選手はこういう気持ちだろうな」と思ったときは、タイミングが合えば話すようにしています。

経験という意味では、千沙もすごいと思うんですよ。前十字靭帯を損傷したのは2回目で、私だったら引退を考えちゃうだろうから。今私が同じケガをしたら…と思うと、本当にすごいよ。

奥川 ケガしたらもう復帰するしかないじゃん。もちろん頑張れないときもあるけど、そのときも「今は頑張れないんだもん。いいよ、いいよ!」と自分を肯定するしかないし。

みんなそれぞれ悩みはあるじゃないですか。自分はそういう選手たちに対して、メンバーに入れないからこそ聞いてあげられることはあったし、そこでもめても大きな亀裂にはならないし…。

そんなに相談がたくさん来るわけではないですけど、たまたまご飯のときに席が隣になったり、ジョグで一緒になったときに、「最近どう?」みたいな。世間話もそうだし、プライベートの悩みも聞くことは多かったです。自分のことで精いっぱいになりたいですけど、今は年齢もあるので、自分がチームに還元できることはしたいですね。

三谷 それがあったからこそ、復帰しても違和感がなかったというか。

奥川 全体練習にいてもいなくても、いつもうるさいからね。

三谷 逆に静かだったら、「体調が悪いんじゃないか」と思っちゃうくらい(笑)。

――リハビリを通して話す機会が少ない選手と話すようになったり、人間関係の変化もありましたか?

奥川 もちろんありますけど、性格的に自分のことをしゃべりたくない選手もいるんですよ。そういう人には「最近どう?」とか無理に聞いたりはしないし、言うべきことだけを言えばいい。「ハンカチ落としたよ」みたいな感じで、気付いたことを教えてくれる年上でいいのかなって(笑)。

逆に話が止まらなくて、「こいつはいつまでしゃべってるんだ」「いつまで聞けばいいんだ」と思う人もいます。今、隣にいる人もそうかな(笑)。

みんな悩みごととかしゃべりたいことがあるときは、気持ちよく聞いてほしいじゃないですか。別に私はそれを聞くのも苦じゃないので、そういう役割でいいと思っています。

三谷 みんな自分の中ではちゃんと考えがあるんですよ。それを自分から言わない人もいるけど、聞いたら「ここが分からなくて…」と考えている人もいるし、そういう悩みがプレーに出ているときもあります。

不安要素を取り除いてあげれば開花する選手もいるだろうし、私自身もそうですけど、思い切りサッカーを楽しみたいじゃないですか。そういう選手が増えるように、チームを支えられればと思っています。

――このチームは若い選手が多いですが、具体的に変化を感じる選手はいますか?

三谷 それこそ(玉井)小春の最初のときは、「どうしよう」と思いながらプレーしているのが見ても分かったと思います。そこから途中出場にも慣れてきて、自分の中でやることがはっきりしたけど、いざスタメンになったらガチガチで…(笑)。

それでもやることは変わらないし、練習からアピールを続けてきた中で、最近は「殻を破っているな」とめちゃくちゃ感じています。

――浦和戦も先発出場でしたが、得意のドリブルで仕掛ける姿が印象的でした。

三谷 それが小春の良さだと思います。やらずに後悔するくらいだったらやってほしいし、ボールを取られても自分たちが取り返せばいい。最初はそこで悩みながらプレーしていたので、「思いっ切りやりなよ」と声をかけていました。

最初は「サッカー楽しい?」と聞いても、「楽しくない」と答えていたんですよ。そこから今は「楽しい」という声が聞こえるし、見ている人にもイキイキしているのは伝わると思います。そういう選手がたくさん出てきてくれるとうれしいです。

奥川 私はDFの選手ですけど、ディフェンスラインってなかなか代えづらいじゃないですか。4バックだったら4人のチームワークがすごく大事になりますけど、じゃあ練習でその4人だけでコミュニケーションを取ればいいのか。DF陣という全体の枠でくくるのか。そこは難しいところもあります。

もちろんセンターバックだったら2人のコミュニケーションは大事で、その中でも落ち着ける心を持ち続けられるか。自分でプレーを見返して、頭で考えることはあると思いますけど、それを言葉にして誰かに伝えようとすると、もう一段階整理されるというか。ミスを言語化して整理できるように、「今のはどうだった?」みたいに聞くことはしているかなと。

それが難しい選手って意外と多いんですよ。そういう人の助けになりたいし、自分もチャッピー(ChatGPT)とかに聞いてもらおうかな(笑)。

――特に失点の原因を作ってしまった選手は、うまく整理するまでに時間がかかるかもしれません。

奥川 選手によってはスタッフからもう言われたりしていて、自分で整理できている人もいると思います。そういう選手には「あのときコケてたね」「どうしたのかと思ったよ」というふうに、笑って雑談したり。サッカーのことだけじゃなくて、しゃべっている時間を増やすというのはあります。

三谷 試合中だったらもう取り返しがつかないし、後悔してもしょうがないじゃないですか。そういうときはチームとしてそれをカバーするくらい、点を取ればいい。ネガティブな声をかけるんじゃなくて、「行くよ」「大丈夫だから」とポジティブな方向に持っていくことはあります。

――2023-24シーズンの後半戦でも、12試合未勝利の時期がありました。今季もそうですが、敗戦の直後は落ち込んでいても、週が明けるとまたポジティブに取り組んでいる姿が見受けられます。

奥川 みんなに会うと元気になるんですよ。もちろん反省もしているし、失点シーンを毎晩のように思い出すこともあるけど、それ以上にみんなが持っているエネルギーがすごくて。

三谷 ほぼ毎日会っているから、もう家族みたいな感じです。みんなでいればエネルギーが出るし、誰かいないと「あれ、いない?」ってなるし。落ち込んでいるよりも「やるしかない」と思わせてくれます。

負け癖がついているわけじゃないですけど、負け込んでいるからこそ勝ったときの喜びは大きいし、そこから乗っていけると思います。試合中もリードしているとすごく走れるし、「この1点をなんとか…」という気持ちになります。もちろん負けているときでも走れますけど、アドレナリンの出方が違うのかな。だからこそ先に失点しないことは大事です。

トンネルの先にあるオレンジの光
トップチームに負けない熱狂を

――お二人はチーム最年長ですが、まだ30歳です。

三谷 そうなんですよ(笑)。また新しい選手が入ってきたら、すぐに最年長じゃなくなるかもしれないし。今シーズンは最年長というだけで、プレッシャーを感じることはほぼないです。

奥川 本当にないよね。みんながそれぞれできることをやればいいし、気づいた人が伝えればいいと思うから。それがあまりにも少なかったり、自分ばかりになってしまうのはよくないですけどね。もちろん自分に矢印を向けるのは大事ですけど、周りのことをしっかり見られる選手がどんどん増えてくれたらうれしいです。

――奥川選手はケガを乗り越えましたが、改めてリハビリの期間を振り返っていかがですか?

奥川 もちろん大変でしたけど、そんなに一大イベントみたいには思っていないです。サッカーができない時間が長かっただけで、いつかは復帰できると思っていたし、術後も体にそんなに違和感はなくて。そこは丈夫に育ててくれた親には感謝しています。

女子サッカーは膝のケガが多いですけど、誰もが経験できることではないです。何か理由があるからケガをしたんだと思うし、この時期にリハビリに回ったことにもきっと意味があって、自分を見つめ直す時間にもなりました。

復帰まで1年近くかかりましたけど、今振り返ってみるとそんなに長くないんですよ。リハビリしているときはすごく長く感じましたけどね。

三谷 試合もそうで、しんどい時間はすごく長いけど、終わったら早く感じるんだよね。そこでも踏ん張れるように練習から頑張らないといけないし、今のチームはめちゃくちゃ走っています。

奥川 今は新卒の選手が加入したタイミングなので、もっとチームのことを伝えていきたいです。新しい風が入ってくるのは良いこともありますけど、ちょっとしたきっかけで崩れてしまうこともあるので、気を引き締めてやっていきたいと思います。

――今は10連敗という長いトンネルの中にいますが、それも乗り越えたらあっという間に感じられるかもしれませんね。

三谷 1試合1試合の流れが早いので、連敗の間も全然長く感じないんですよ。今は1試合でも早く勝ちたいという気持ちだし、特に自分がゴールを決めて勝ったときは、サッカー人生の中でもめちゃくちゃ幸せなんです。その瞬間を思い浮かべると、いくらでも頑張れます。

それこそ昨シーズンのアウェイ大宮戦(WEリーグ クラシエカップ 第3節)は、勝てはしなかったですけど、自分が点を決めてみんなが寄ってきてくれたときに幸せを感じました。DF陣だったら無失点に抑えたときはそういううれしさがあるだろうし、それぞれの幸せの形があると思います。とにかくその瞬間を早く味わいたいんです。

奥川 DFとしては失点に至るまでに、必ずどこかで止められたところがあるわけじゃないですか。その芽を摘み取れなかったのは、声が足りなかったのかもしれないし、寄せが一歩遅かったのかもしれない。そこはすごく責任を持っています。

あとはなかなか点が取れないポジションではありますけど、誰かが点を取ってくれたときは、自分が決めたと思えるくらいうれしいです。その後はすぐに「あと何分?」「どうやって締める?」というふうに切り替わりますけどね。

三谷 再開してからの2試合はゴールも取れていないので、なかなかその瞬間を味わえていないです。それを待っているのは私たちもそうですけど、ファン・サポーターの皆さんが一番願っていると思います。

奥川 もう点を取りたいし、勝ちたいよね。今はそれ以外の言葉が出てこないから。

――リーグ戦は残り6試合となりました。まずは3月7日にホームでWEリーグカップ 第4節・ジェフ千葉レディース戦を迎えます。今年初のホームゲームに向けて、意気込みを聞かせてください。

三谷 私たちだけじゃなくて、ファン・サポーターの皆さんも勝利の景色を待っていると思います。とにかくスタジアムが一体となって喜びたいし、そうしたらまた「見に来よう」と思ってもらえるはずです。

年々観客数が減ってきているのは、最古参の私も感じています。結果を出せばより注目されるのが勝負の世界なので、1試合でも早く勝って、皆さんと喜びを分かち合いたいです。

奥川 やっぱり点を取って、盛り上がって、「見にきてよかった」と思ってもらいたいです。ピンチの場面はどうにかDF陣で止めて、チャンスをたくさん作って、勝ってみんなで喜び合いたい。ファン・サポーターの皆さんにも一人でも多くの方を連れてきてほしいし、そうやって自慢できるようなチームになれるように頑張ります。

三谷 あとは「目指せ、1万人!」ですね。トップチームもダービーの盛り上がりはすごいし、私たちも「ああいう環境でやりたいね」と話しています。レディースチームも負けじとクラブを盛り上げていきたいです。


クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/ladies/

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