殻を破った“新世代のエース”川船暁海 ホーム最終戦で有終のゴールと勝利を誓う

ようやくエースの風格が出てきた。下部組織時代からトップチームでプレーし、AC長野パルセイロ・レディースに在籍して6シーズン目を数えるFW川船暁海。世代別日本代表候補も経験した長野市出身の21歳は今季、ここまで自身キャリアハイかつチーム最多となる6ゴールを挙げている。2025年5月10日のホーム最終戦を前に、その軌跡をたどりたい。

文:田中 紘夢

在籍6季目を迎える21歳のFW
円滑なコミュニケーションで成長

「いつもの川船だったら1点で終わるけど…」

第6節のマイナビ仙台レディース戦で初ゴールを決めた川船。試合後には自虐的なコメントで記者の笑いを取った。

チームがWEリーグに参入して4シーズン目。川船はここまでの3シーズンで3ゴールを記録したが、成績の年表を見ると「1、1、1」と綺麗に同じスコアが並ぶ。ポッキーの日(11月11日)のようなめでたい数字ではなく、“年1”の殻を破れずにいたのだ。

そこから今季は「違いを見せたい」と意を決し、ここまで2試合を残して6ゴール。チーム内得点王を走り、リーグの得点ランキングでも6位タイにつける活躍ぶりだ。

「例年と違うのは、『自分がもっとやらなきゃ』という責任感が増したこと。今までは人に言われてやってきたところが、自分の意見も持てるようになった。チームとして『それは違うでしょ』となることもあると思うけど、結果が出ているのでいいかなと」

ユースチーム(シュヴェスター)在籍時からトップチームに帯同し、15歳にして公式戦デビュー。U-17日本代表候補にも選ばれるなど、将来を嘱望されてきた。

今季で在籍6シーズン目を迎えるが、まだ21歳と若い立場。先輩に囲まれる中で「うん、うん」とうなずくばかりだったが、「こうしたかったと言えるようになってきた」。

昨季までは先輩への敬意が強いあまり、見えない「壁」を作ってしまっていたようだ。今季はそれが取り払われ、「プライベートでもみんなとしゃべれるようになった。その延長線上でサッカーでも要求できるようになった」。

周囲と良好な関係を築くことによって、シーズン中の波も減った。

「例年はサッカー的にもメンタル的にも落ちる時期が多くて、沈んだら戻ってこられないところはあった。今季はまだまだ試合中の波はあるけど、平均的に見ればスムーズにできていると思う」

ケガで欠場した1試合を除いて全試合に出場。ウインターブレイクに行われたミニキャンプを体調不良で欠席したり、試合中に顔面を強打して救急車で運ばれたり――。いくつかのアクシデントに見舞われながらも、下り坂に陥ることはない。

PROFILE
川船 暁海(かわふね・あきみ) 2003年12月25日生まれ、長野市出身。7歳の時に姉の影響でサッカーを始める。裾花FCを経てAC長野パルセイロ・シュヴェスターに加入。持ち前のスピードを生かした力強いドリブルを武器とし、15歳の時に公式戦デビューを飾った。これまではシーズン最多1ゴールだったが、2024-25シーズンはこれまでチーム最多でリーグ6位となる6ゴールを挙げている。160cm、55kg。

力強いドリブルと強烈なシュート
チームの価値を高める旗手に

川船の最大の武器は、フィジカルを生かしたドリブル。廣瀬龍監督の言葉を借りれば「生まれ持った強さがある」。直近2シーズンは同指揮官のもと、シュート練習も重ねてきた。

その成果が集約されたのが、第17節のジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦でのゴールだ。左サイドでボールを受けると、カットインで相手をかわして迷わず右足を振り抜く。強烈なシュートが右サイドネットに突き刺さった。

チームを7試合ぶりの勝利に導くゴラッソ。本人もハイライトを見て「おお!」と驚きを隠せなかった一撃は、4月度のリーグ月間ベストゴールにもノミネートされている。

得点以外のスタッツも上々だ。枠内シュート率がリーグ2位で、1対1ドリブル成功率は4位。代表クラスのDFとも張り合えるようになってきた。「WEリーグの中でもキープ力だったりドリブル突破は強い」と廣瀬監督は評する。

指揮官の信頼を勝ち取り、ようやくエースの風格が出てきたが、本人からすれば「もっと点を取れると思う。点数とかランキングを見たらいつもより頑張れているけど、自分の中では全然満足していない」。

ここまで挙げた6得点は、昨季に伊藤めぐみが記録したシーズン最多の7得点に迫る数字。まだ2試合を残しており、塗り替えられる可能性はある。

ただ、シーズン前に本人が掲げた目標は10得点。残り2試合で4得点は決して低くないハードルだが、「まだ諦めていない」。

チームは目下3連敗中で、この間は川船にも得点が生まれていない。前節はホーム・長野UスタジアムにWEリーグ参入後最多となる2,543人の観衆が集ったが、ちふれASエルフェン埼玉に0-3と完敗。川船の2本のシュートも不発に終わった。

今節はセレッソ大阪ヤンマーレディースとのホーム最終戦。川船にとっては前回対戦で2ゴールを決めた縁起の良い相手だ。前節の鬱憤を晴らし、ホームで有終の美を飾るためにも、ゴールが求められる。

「前節にああいう試合をしてしまって、次に何人来てくれるかは分からない。来てくれた人たちには面白いサッカーを見せたいし、結果で恩返ししないと来季にも繋がらない」

「パルセイロ・レディースの価値を高めていかないといけないので、選手とスタッフが一丸となって勝ちたい」

アカデミー出身第1号のエース。彼女の活躍は後輩たちに夢を与え、クラブの未来を形づくる。残り2試合、自身のゴールで道を切り拓けるか。



クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/
長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

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