【取材体験記】ホワイトリングからアルウィンへ サッカー初観戦で灯った緑の情熱

普段のアリーナから、屋外のスタジアムへ――。2025年6月7日、松本山雅FCvs福島ユナイテッドFCとの第15節。普段は信州ブレイブウォリアーズを取材している芋川史貴が、初めてサンプロ アルウィンを訪れた。会場に足を踏み入れたのも、サッカーを観戦するのも人生初。信州スポーツキングダムのペン記者として取材補助にも当たり、バスケットボールの取材とは異なる部分や、初めてサッカーを観戦して感じたことなどをレポートする。
文:芋川 史貴/編集:大枝 令
KINGDOM パートナー
スタジアム外にまであふれる熱気
サッカー文化との新鮮な出合い
駐車場に車を止めて、会場に向かうまでの間から既に興奮が抑えきれなかった。
会場の外は普段見慣れている黄色の景色ではなく、緑一色。スタジアム内から聞こえるアナウンスや、サポーターによる応援が会場までの足取りを自然と早めた。
受付を済ませ、スタジアム内をぐるりと一周した。

コンコースからゲートを抜けてアルウィンのピッチが見えた時、全身に衝撃と高揚感が駆け抜けた。
アリーナスポーツとは比べものにならない規模感や、野外スポーツならではの会場に吹く爽やかな風。お祭りかのような屋台の多さ。サポーターの表情も明るく、会場全体が活力にあふれていることが印象的だった。
驚いたことは、ホームサポーターとアウェイサポーターの入れるエリアが区分けされていたこと。ニュースでは、サッカーのサポーター同士の衝突などを聞いたことがあったが、入れるエリアを分けていたことは知らなかった。

一周を終えようとしたら、福島のサポーターが外に向かって応援をしていた。最初は誰に対して何をしているのかが分からなかったが、福島の選手たちを乗せたバスが会場内に入ってきたタイミングだった。
聞けば、これは「バス待ち」というらしい。Bリーグにはない文化だ。これは僕の皮膚感覚だが、バスケットボールの場合、コート外はまるでプライベートのような空間。だから選手の会場入りに合わせてブースター(ファン)が応援をすることはあまり見られない。
あるとしても、アイドルや有名人を見かけたときのように、さりげなく手を振ることがせいぜいだろう。
試合の前から、サッカーとバスケットボールの文化の違いがいたるところで確認できた。
KINGDOM パートナー
サポーターが雰囲気作りを先導
ビシビシと感じる“山雅プライド”
試合開始1時間前の13時ごろ、記者席に腰を下ろした。
中継用カメラが設置されているすぐ下。ピッチを横から見ることができる、とても見やすい場所だった。
席に座って感じたのは、思ったよりも席からピッチが近かったことだ。テレビ中継を漫然と見ていると、「距離が遠くて見づらそう」と心のどこかでついつい敬遠していた。

だがサンプロ アルウィンは陸上競技場のように400mトラックがあるわけではないため、ホワイトリングでコートを見下ろしている感覚と似ていた。
13時10分にはピッチに水が撒かれて芝のコンディションを整える。
全てが新鮮で、緑と金が入ったユニフォームが夏本番を迎える田んぼの景色とマッチしていたし、アルウィンから遠くに望むアルプスの威容にも、感動が湧き上がってくる。
13時15分からは選手がピッチでウォーミングアップを開始。それに合わせて鳴り響く選手ごとのチャント。ゴール裏ではほとんどのサポーターが立ち上がり選手を後押ししていた。そして選手もチャントが終わるとサポーターに向かって拍手や頭を下げる。

メンバー紹介の映像で「12番目の選手」としてサポーターが紹介されることは友人から聞いていたが、その理由が早速分かった気がした。
バスケットボールよりも熱狂的で、アツい。
アリーナMCのように先導する文化はない。サポーター自身でホームの雰囲気を作り上げ、選手のサポート役として声を枯らす。
「試合前からすでに勝負は始まっている…!!」
僕自身も圧倒されていた。

試合が始まるとサポーターの声援は一気にボリュームが上がる。老若男女関係なく、ジャンプをして、声を出して、会場を盛り上げる。
試合自体は前半の早い時間帯で失点したものの、アディショナルタイムに獲得したPKでしっかりと得点。しかし、後半に勝ち越し点を許した。
1-2の敗戦。それでも僕は興奮が抑えきれなかった。

はじめはサッカーの楽しみ方が分からず困惑していたが、途中から選手個人個人のスキルの高さや重要さに気がつき、フォーメーションのバランスや、そこでの連携の面白さもだんだんと分かってきた。
ボールサイドが変わると拍手が起こることで、「これがチャンスに繋がる動きなんだ」と認識できたり、CKなどのセットプレーではバスケットボールで言う“スクリーン”のような動きも使われていて、親近感も湧いた。

バスケットボールとは違い1ゴールの価値が高い競技。バスケ畑で育った自分からしたら当初、点が入らない時間帯は退屈にも感じた。それでもゴールネットを揺らした時の盛り上がりや、サポーター同士で喜び合う姿はサッカーでしか感じられない瞬間でもあった。
そしてお気に入りの選手も見つけた。
背番号46・安永玲央選手だ。

もちろん顔も名前も知らない選手。そのため最初は背番号の繋がりで「信州の生原秀将選手と一緒の番号だ」という程度の理由から始まった注目だった。
しかし見れば見るほど、身体のバランスやスキルがとても魅力的な選手だと気づいた。そしてプロフィールを確認すると、僕と同じ2000年生まれ。そこから一気に親近感が湧いた。

選手の名前や顔も分からない状態での観戦。それでも些細な理由からお気に入りの選手を見つけることができることはスポーツの魅力だし、他競技の選手と同じ背番号をきっかけに好きになったのも初めての経験だった。
サッカーの取材現場も初めて体験
ミックスゾーン形式の違いに困惑も
試合後は記者として取材現場も体験した。
もちろんBリーグの会見とは勝手は違う。
監督の取材は記者会見の形式で普段と一緒だったが、驚いたのは選手に対する取材だった。
信州の取材では試合終了後、メディア関係者同士で会見場に呼ぶ選手を相談してクラブ広報に伝える。しかしここで体験したのは、会場内からバスに向かって歩く選手を呼び止めて話を聞くミックスゾーン方式だ。

僕も他社にぶらさがり、なんとか録音をしたものの、文字起こしの際に愕然とした。
何をしゃべってるか、全く聞き取れない――。
普段は静かな環境でマイクを置いて録音したり、選手にピンマイクをつけたりして音を拾っている。しかし、ミックスゾーン方式だと周囲にも選手がいたり取材陣がいたりと、収音の難易度が格段に上がる。
特に声が小さい選手の場合には、口元までスマホやらICレコーダーを近づける必要があった。この時の僕は遠慮が出てしまい、若干後ろからスマホを構えていたら、まったく聞き取ることができなかった。
ミックスゾーンを経験したことがない自分からすれば、初めての経験で大きな勉強にもなったが、記者として選手の声を拾えていないことはあってはならない。反省点として今後の活動に生かしていきたい。

以上が初観戦体験レポート。改めてスポーツには共通した良さもあれば、そこでしか得られない良さや発見があることが分かった。
そして間違いなく、緑の情熱が僕の心に灯った日にもなった。
今度は記者ではなく、12番目の選手としてゴール裏に広がる熱狂の渦の中から応援してみたい。

クラブ公式サイト
https://www.yamaga-fc.com/