矢印はあくまで自分に 飯田で躍動した“選ばれなかった者たち”の気概

出番のなかった面々が、そろって足早にミックスゾーンを後にした。2025年6月21日のJ3リーグ第17節、松本山雅FCは交代枠5人のうち2人しか使わず1-1でゲームセット。早川知伸監督は「守備のバランスを変えることがなかなかできなかった」と説明した。22日には中京大とのトレーニングマッチが飯田市松尾総合運動場であり、試合後の選手に前日の受け止めなどを聞いた。そこから見えてきたものとは――。
文:大枝 令
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選手交代は2人にとどまった前節
バランスを重視した采配と説明
「人を替えてもっとアグレッシブに状況を変えることもできるかなというところもあったと思う。ただ、現状では自分の中の判断でバランスを崩さず、そのまま最後まで持っていく」
「失点をせずに最悪引き分けに持っていく部分も担保しながら攻撃に行きたいと思っていた。そこの判断の中で、こちらで切ったカードはあそこまでとなった」

早川知伸監督は試合後、そう振り返った。
質実剛健な攻撃に迫力がある鹿児島ユナイテッドFCを迎えた一戦。風下の後半は防戦一方となり、自陣に張り付けられる時間帯が続いた。

指揮官が切ったカードは2枚。68分にMF滝裕太をシャドーに、76分にはMF松村厳をボランチに投入した。
交代できる回数は残り1回、人数は3人。フィールドプレーヤーは6人が控えていたものの、ピッチに送り出されることはなかった。

もちろん、使い切らなければいけないルールがあるわけではない。「替える」「替えない」は常にフラットに両天秤にかけられる。
いずれにしても、守備のバランスを崩さないことを主眼として「替えないことを選んだ」――という事実があるだけだった。
試合後のミックスゾーン。ベンチを温めたまま終わった選手たちが一団となって報道陣の前を通り過ぎる。目が合うと、心持ち寂しそうな笑みを浮かべた選手もいた。
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下伊那地方の中核都市で練習試合
3失点も随所に光ったプレーとは
その無念さを晴らす舞台が、翌日にあった。4年前から年1回、飯田市松尾総合運動場で行うトレーニングマッチ。出店や子ども向けのアトラクションが並び、来賓に市長らが訪れる。
クラブとしても南信地方との結び付きを強めるための一大イベントだ。

前日に2試合連続ゴールを決めたFW田中想来(上伊那郡宮田村出身)は試合には出なかったものの来場し、隣町の下伊那郡高森町出身のMF萩原正太郎は出場して見せ場をつくった。

今年の相手は東海学生リーグ1部で2位の中京大(45分×2本)。1本目は先手を取られたが、41分に取り返す。DF馬渡和彰の右CKからDF野々村鷹人がヘッドを放つと、GKの弾いたボールをDF本間ジャスティンがねじ込んだ。

2本目は徐々にリズムをつかむ。14分、MF國分龍司の右CKから2次攻撃となり、國分の鋭い右クロスにFWルーカスバルガス。190cmの体躯から長い脚を伸ばしてネットを揺らし、ガッツポーズをつくった。

さらに29分。MF前田陸王らがサイドではめてボールを奪ったのが起点となり、最後はスルーパスを受けたFW渡邊乃斗が相手GKを冷静にかわしてゴール。37分には三たびCKから、DF高橋祥平が豪快に蹴り込んだ。

2本合計4-3。3失点はミスやCKからで、改善の余地は大いにあるだろう。
とはいえ前日のベンチで苦い思いをした面々の中には、冴えたパフォーマンスを見せた選手たちもいた。
起用されなかった原因を自らに
課題を意識してゴールに絡む
その中の一人が大卒2年目の前田だ。
シャドーで2本目途中まで出場し、12時キックオフの酷暑で精力的にピッチを奔走。もともと連続性を持った運動量が持ち味だが、プレスバックしての奪取やクレバーに追いながらサイドではめ込む守備も光った。

「ここで頑張ればボールが取れそうだというタイミングだったり、もう1つ2つ予測してボールを取り切ることだったり。今日も何回かあったし、少しずつだけれど、自分の持ち味になってきている」
疲労が蓄積した後のクオリティに対しては自戒の言葉を並べつつも、一定の手応えを口にする。ベンチ入りした前日の試合は――と水を向けると、真剣な表情で振り返った。

「3枚残して試合が終わって『何だよ』というよりは、自分の力がないんだと素直に思えた。1-1の状況で勝点3も欲しい中で、『陸王を出そう』とはまだなっていないのが現実」
「やっぱりそこはもっと自分にベクトルを向けるしかない。だから、今日も後半(2本目)の質じゃダメ。メンタル的には前を向いてやれているから、質を落とさないことにこだわってやり続けるしかない」

ボランチで1本目から出場した國分も、前日の指揮官の決断を真摯に受け止める。大卒3年目。今季は9試合に出場しているものの、先発は1試合だけで総出場時間は129分にとどまっている。
「監督自身も『信頼していないということではない』と言っていたけれど、そこで自分を使ってもらえるような攻撃のクオリティだったり、怖い選手になっていかないとダメだと痛感させられた」

だからこそ、この日は攻撃でも違いを出せるよう意識しながらのプレー。2本目には背後に飛び出すなど、殻を破ろうとする姿勢を示した。
「何本か前にスプリントをかけていけた。そういう部分は良かったと思う」。それ以外にもセットプレーの流れからルーカスバルガスの得点をアシストするなど、一定以上の存在感を示した。

このほか馬渡が長期離脱から復帰後初めてのトレーニングマッチで45分間出場したのも好材料。明確な武器を備えてはいるレンタル加入組にとっては、くさらずに続けられるかどうかがポイントになりそうだ。
飯田市でのトレーニングマッチは4年目にして初勝利。約1,200人が訪れて終了後のファンサービスも盛況となり、ピッチ内外で実りある一日となった。

J3リーグ第17節 鹿児島ユナイテッドFC戦 試合詳細
https://www.yamaga-fc.com/match/detail/2025-j3-match17
トレーニングマッチの結果(クラブ公式サイト)
https://www.yamaga-fc.com/archives/496505
クラブ公式サイト
https://www.yamaga-fc.com/