千葉Lのエース格は松川町出身 大学4年生の北沢明未が漂わせる“ブレイクの気配”

伊那谷でのびやかに生まれ育ったホープがいる。WEリーグのジェフ千葉レディースに所属するFW北沢明未だ。下伊那郡松川町出身の21歳。日体大SMG横浜所属の大学4年生ながら、JFA・WEリーグ特別指定選手としてプロ初出場から2試合連続ゴールを挙げた。地元で培った負けん気の強さを示し、ブレイクの予感を漂わせている。

文:田中 紘夢

故郷のスタジアムで恩返し
スペイン人指揮官も絶賛の働き

9月17日に行われたWEリーグ第5節、アウェイでのAC長野パルセイロ・レディース戦。北沢は駒ヶ根市出身のGK田中桃子とともに、ジェフ千葉レディースの一員として地元に帰ってきた。

「長野県で試合をすることは、大学に入ってから初めてだった。小学校からの知り合いも来てくれた中で、『ありがとう』という気持ちをもって、プレーで恩返しできることをワクワクしていた」

21分には先制点を演出。最終ラインの背後に抜け出し、ゴール前で3人を引きつける。シュートコースを遮られたところで判断を切り替え、味方のもとにラストパスを届けた。

48分にはクロスに対してファーで詰めるも、ボールはクロスバーを直撃。試合は1-1のドローに終わったが、北沢はチーム最多となる4本のシュートで存在感を放った。

「得点できたら80点くらいだったけど、自分の強みである時間を作ることはできた。もっとこだわれるところはあると思うので、引き続き楽しんで頑張りたい」

165cm、58kgの恵まれた体格を生かしてポストプレーに奔走。大柄ながら機動力があり、ラインブレイクにも長けている。男子日本代表のFW上田綺世(オランダ・フェイエノールト)に憧れているのも合点がいく。

ジェフ千葉レディースはカルメレ・トレス新監督のもと、ポジショナルプレーを浸透させている。4-3-3が基本形ではあるものの、北沢はいわゆる“ゼロトップ”の役割。ビルドアップの出口からフィニッシュに至るまで、幅広いタスクをこなす。

スペインでの指導実績が豊富な指揮官は、その働きぶりを大いに称える。

「攻撃の前進やフィニッシュのフェーズにおいて、チームに大きなものを与えてくれる。相手を背負ったときの強さは、チームに時間とオプションを与えてくれる。彼女に対してインターセプトしたり、背負った状態でボールを奪うことは、相手にとってすごく難しい」

「彼女は自分の才能を使って、より良い攻撃を毎試合もたらしてくれる。チームにとって本当に重要な選手だと思う」

AC長野の廣瀬龍監督も、「長野県出身ということは知っていた。いずれは長野に入ってもらえるようにお願いしたい」と敵将ながら脱帽した。

松川サッカー塾から初のプロ選手
恩師の土橋宏由樹氏も感慨に浸る

松川町出身。松川少年サッカークラブ、松川中サッカー部と、地元でサッカーに打ち込んできた。

中学時代は宮田村を拠点とするTopStone Rosetta U-15にも所属。1学年上には、現在AC長野でキャプテンを務める稲村雪乃がいた。

のちに開志学園JSC高(新潟)でも共闘した先輩と、WEリーグの舞台で初対戦。「昔から一緒にやっていたので、感慨深いものがあった。同じピッチに立ててすごく嬉しかった」と頬を緩める。

北沢にはもう一つ、自身のルーツとなった場所がある。「松川サッカー塾」だ。

松本山雅FCとAC長野パルセイロで活躍した土橋宏由樹氏(現ボアルース長野ゼネラルマネージャー/松川町ふるさと大使)が発起人となり、2014年に開講。北沢は1期生として入塾し、クラブチームや部活動と両立しながら中学卒業まで通った。

「当時も今も印象は変わらない。小学校のときから体が強かったし、男子と戦っても競り負けない。性格的にも負けず嫌いだし、自分のストロングポイントをうまく生かしていた」

北沢が“恩師”と慕う土橋氏がそう語るように、幼少期から人一倍負けん気が強かった。

現在はドイツでプロを目指す兄の智哉とも切磋琢磨。男子に交ざってボールを追いかける中で、いかに対等以上に張り合うか――。その経験が今のプレースタイルにも繋がっているという。

同塾からプロが生まれたのは初めて。発起人の土橋氏は感慨に浸る。

「それぞれのレベルに応じて、個を最大限に引き上げること。夢や目標に向かうためのサポートをすることに力を入れてきた。(北沢)明未はずっとプロになりたいという目標を持っていたし、それをサポートしていく中で自分自身で勝ち取ってくれた」

「松川は自然豊かな街で、坂道もたくさんある。足腰の強い選手が多い印象があって、彼女もフィジカルをストロングポイントにしてきた。松川ならではの選手だと思うし、こうしてプロ選手が輩出されたのは周りにとっても刺激になる」

プロデビューから2試合連続弾
千葉Lのエース、そして日本代表へ

中学卒業と同時に地元を離れ、開志学園JSC高では1年からレギュラーに。日体大SMG横浜でも同様に活躍し、2学年上の知久奈菜穂(AC長野)は「FWとして点を取ってくれるし、チームに欠かせない存在だった」と明かす。

大学3年時に千葉Lへの加入が内定。4年時の今季は、開幕戦でプロ初出場初得点を決めた。その後も2試合連続ゴールを記録するなど、現役大学生ながらエースの風格を漂わせている。

「今は自信を持ってやれている感覚がある。プロで試合に出るだけじゃなくて、活躍できるように努力してきた自負もある。もっと日本代表だったり高い場所を目指して、成長できるように頑張りたい」

松川町を離れて5年が経ったが、地元への愛着も忘れてはいない。

「松川が大好き。帰省するときはたくさん果物をもらって、試合にも応援に来てくれるし、本当に温かい人ばかり。結果を出して恩返ししたい気持ちがある」

背番号は「パッション」を意味する84。心身ともにパワフルなストライカーだ。地元の期待を一心に背負い、プロの舞台でゴールを量産し、名前にもあるように“明”るい“未”来を切り拓いていく。


長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

この記事の最初のいいねを
つけてみませんか?
クリックでいいねを送れます

LINE友だち登録で
新着記事をいち早くチェック!

会員登録して
お気に入りチームをもっと見やすく

人気記事

RANKING

週間アクセス数

月間アクセス数