“至誠一貫”のストライカー安藤翼 前十字靭帯損傷から復活の舞台を目指して

2025年3月1日のJ3リーグ第3節、松本山雅FC対奈良クラブ戦。昨季チームで唯一全試合に出場したFW安藤翼が、右膝前十字靱帯を負傷して前半12分に交代。その後3月17日にACL(前十字靭帯)再建手術を受けてから、およそ6カ月。長かったリハビリ期間を終え、復帰に向けて全体練習に合流した。人知れず戦ってきたストライカーの半年間にスポットを当てると、その実直なパーソナリティが浮かび上がってきた。

文:大枝 史/編集:大枝 令

ケガの経験をポジティブに捉え
コミュニケーションが積極的に

J3リーグ第3節、松本山雅対奈良クラブ戦。前半12分の出来事だった。

相手のシュートを膝に受けたように見えたFW安藤翼は、その場に崩れ落ちた。

「相手のシュートに身体は反応したが、足がついていかなかった。足は内側に入って、身体は外に向いてしまって力が抜けた。中で何かが外れたような感覚がした」

激痛が走る。
その瞬間、覚悟した。

「これは長いだろうな…」

右膝前十字靱帯損傷、右膝外側側副靭帯損傷。全治8カ月――。

不安な思いがよぎった。
だが、すぐに切り替えた。

「今からできることはなんだろう」

そう考えながら過ごした6カ月間。

過去に同じケガをしながら、今もピッチに立つチームメイトからも刺激を受けた。

「それこそ(山本)康裕くんとか(小川)大貴くんとか、過去に同じ手術で今ああやって長い間プレーされているし、バリバリやって試合に出ているのを見ると自分もここからどう成長していけるか…と思う」

特にMF山本康裕からは、自身の体験を交えてアドバイスをもらった。

「康裕くんは『ケガをしてサッカーのプレースタイルは変わっていくものもあったし、見えるものも変わってサッカーがうまくなった』と言っていた」

全力でプレーができない期間だからこそ、鍛えられるものもある。

今、できることをやる。

中でプレーする選手に対して、外から見たものを伝える役割も担った。

「意外ときっかけになることもある…と外から見ていて感じた。ただ、そういう一言で選手は良くもなるし、逆に悪くもなる」

どのように声を掛ければその選手にとってプラスになるのか。そう考えることが増えた。

リハビリ期間をともにしたGK西村遥己の存在も大きかった。

「ニシム(西村)も若い中でケガをして、それなのに明るくチームのためにやっている姿を見たら、俺ももっとできることがあると思った。すごくエネルギーをもらえた」

互いに膝の課題を分かり合える存在。精神的にも助けられたという。

「入ったらもっといろんな選手とコミュニケーションを取って、一緒に高め合いたい」。今まではあまりコミュニケーションを取るタイプではなかったといい、それもまたケガをしたことによる一つの変化だろう。

「自分の人生の中で、こういう時間は必要だったのかな」

今ではそんな感覚でいる。

仲間に、家族に、メディカルに
支えられて復活の舞台を目指す

昨シーズンは全試合で出場していた安藤が不在の間、FW田中想来が先発出場を重ねてゴールを量産していた。その活躍を喜んでいたのが、他ならぬ安藤だった。

「想来があれだけ活躍したら、俺はそれ以上頑張らないと試合には出られない。そこの基準が上がっていくだけで、そのくらい自分ができないと上にはいけないし、自分のレベルも上がらない」

田中とは同じポジションながら、キャンプでは互いにアドバイスをし合っていた関係。あくまで矢印は自らに向けて、良い刺激をもらっていた。

「むしろもっと点を取ってくれ。もっとやれることを増やして、プレーの幅を広げてくれ」

本心からそう思っていたという。

現在は新加入のFW林誠道が存在感を際立たせているが、「プレーをみて学ぶことはたくさんある。負けていられない。自分は自分の良さがあるから、良いものは盗みながらやっていきたい」と意欲を燃やす。

8月中旬から練習に部分合流し、ACL再建手術からちょうど6カ月経った9月17日に完全合流。ゲームから離れていた期間は短くないため、これからコンディションを上げていく段階だ。

「サッカーができていることがありがたいし、やっぱりサッカーは楽しいし、みんなとできるのはうれしい」

気にかけてくれたチームメイト。
食事やコンディション面を管理してくれた家族。

「毎日脚を診てくれた」というトレーナー陣と百瀬整形外科のスタッフ。
そして激励の声を届けてくれたサポーター。

支えてくれた人たちへの感謝を、ピッチ上で表現する時は近付いている。

「そのために頑張ってきた。サポーターの声援は本当にうれしい。早く活躍するプレーを見せたい」

ここまでチームは9勝8分10敗の12位。終盤戦に差し掛かっても不完全燃焼が続く。

「自分やニシムがチームに与える影響を増やして、それでチームのためになればいい」

ケガをしたからできること。
この経験を全て血肉に変え、来たるべき時のために身体を研ぎ澄ませる。


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