J1神戸で描く成長曲線 “松本産のトップランナー”小松蓮が抱く自信の源泉とは

諏訪市育ちのFW小松蓮が、J1ヴィッセル神戸に電撃移籍してから3カ月余。リーグ戦の出場機会は限られ、カップ戦が主戦場となっている。松本山雅FCアカデミー出身者のトップランナーでもある27歳。ハイレベルな競争の中でくすぶっているのか、自信を失っているのか。はたまた燃えているのか――。幼少期から取材してきた記者が1年半ぶりに対面し、胸中に迫った。

文:大枝 令

J3松本から1年半でJ1神戸に移籍
ベクトルを自分に向けて急成長

「お久しぶりです」

事前に記者の名前を知らされていなかった小松蓮は、ドアを開けて目を丸くした。パーマと金色のメッシュが板につく。そして何より、心持ちスリムになった。

「山雅時代より6〜7kgは減っています。当時より全然、動けるようになりました」。笑うとのぞく白い歯が、日焼けした肌とコントラストを描く。

PROFILE
小松 蓮(こまつ・れん) 1998年9月10日生まれ、長野県諏訪市出身。小学生時代は諏訪F.C.プライマリーでプレーし、中学進学と同時に松本山雅FC U-15に入った。U-18時代の2016年に2種登録されたもののトップ昇格はならず、産業能率大へ進学。その後年代別日本代表に選ばれ、18年に中退して松本山雅FCに加入した。ツエーゲン金沢、レノファ山口FCへの期限付き移籍を経て21年に復帰。23年には19ゴールを挙げてJ3得点王に輝いた。24年からJ2ブラウブリッツ秋田でプレーし、25年7月にJ1ヴィッセル神戸に完全移籍した。183cm、77kg。

2023年、25歳のシーズン。松本山雅FCで19ゴールを挙げてJ3得点王となった。それからJ2ブラウブリッツ秋田を経て、1年半余の短期間でJ1ヴィッセル神戸に完全移籍した。

絵に描いたようなシンデレラストーリー。しかし、本人には確固たる自信があったという。

「今年の夏にはJ1に行ける――というのは、もう自分の中ではほぼ確信レベルだった。去年冬の段階でそのくらい自信があった」

秋田での1年目、38試合6ゴール。うち5点は残り8試合を切ってからで、当初は「このチームでは取れない」と恨み節が漏れることもあったという。

それでも最後は「考えると結局は自分の力不足。自分にフォーカスしてトレーニング量を増やしたら、結果がついてきた」。そして2年目は開幕から5試合連続ゴールを記録するなど、J2得点ランキングの首位を快走していた。

そんなおり、J1神戸からのオファーが舞い込む。国内屈指のビッグクラブから、願ってもない一報だった。

「今までのサッカー人生の中では本当に断トツで、ドキドキとワクワクが大きかった。いざヴィッセル神戸という本当に日本のトップクラスのチームからオファーをもらって、練習に入る時は相当緊張した」

KINGDOM パートナー

気付きを得た酒井高徳のひとこと
大迫勇也からもアドバイス受ける

4-3-3の1トップを争うのは元日本代表FW大迫勇也ら、豪華絢爛なストライカー陣。それ以外にも、MF武藤嘉紀やDF酒井高徳など、欧州の第一線でプレーして代表歴も持つ面々が居並ぶ環境だ。

気後れしても不思議ではない。そもそも、自身初となる夏の移籍。「最初はちょっと悪い意味でお客さんっぽいというか…まだチームに入り込めない感覚はあった」と振り返る。

ただし、それも束の間だった。

「僕が学生時代にテレビ越しにワールドカップで見て『すごい』『ヤバい』と言っていた選手たち。どうしてもリスペクトしすぎてしまうというか…それほどの人たちがいる」

「ただ、そこを超えていかなければいけない。やはり小松蓮は小松蓮でいないといけないとより思うし、自分の良さを出して、なおかつ神戸のスタイルに合わせていくことが重要」

そんな気付きを促すアドバイスを、酒井高徳から受けた。

「ここのチームに来る選手は、既存の選手のレベルが高いから、その人のマネをしようとしてしまう。でも、『なぜここまでステップアップできたのか』を考えればいい。自分の良さがあるからだ」

スッと胸に落ちた。自分を見失っていたわけではなかったが、「小松蓮らしく」という道筋がより明確になった。

酒井だけでなく、歴戦の先輩は惜しみなくアドバイスをくれるという。

「サコくん(大迫)ともよく話すけれど、とにかく『トレーニングの量』はみんな言う。『シュートもとにかく打った方がいい』というのは、やっぱりそうだよなと思う」

量の中から質が生まれる――。その構造は、国内トップレベルの環境においてもなんら例外はない。

磨いてきたその「質」も、神戸でさらに開花する可能性がある。アクションを起こせば、イメージ通りのボールが来る確率が極めて高いからだ。

「顔が上がる選手がとんでもなく多いし、精度もいい。アクションの回数もそうだしゴールに繋がるアクションが僕はすごく得意で、そこにちゃんとボールが来る回数が多い」

例えばリーグ戦デビューとなったJ1第24節ファジアーノ岡山戦、81分に途中出場した直後のファーストプレーだ。

最終ラインの裏を突いた動きに対し、FW宮代大聖から絶妙な浮き球のスルーパス。スピードを殺さず利き足の左でボレーを叩き込む。惜しくもオフサイドとなったが、J1デビュー戦でインパクトを残すには十分なプレーだった。

そして9月27日のJ1第32節・清水エスパルス戦。途中出場した90+1分に酒井の決勝弾をアシスト。左サイドの裏でボールを拾い、マイナス方向にグラウンダーのクロスを入れて歓喜をお膳立てした。

焦らず、驕らず、卑屈にならず
積み重ねて至った「自信」の境地

それまでは天皇杯やルヴァンカップ、そしてACLE(アジアチャンピオンズリーグ・エリート)など国内外のカップ戦が主な舞台。天皇杯ラウンド16ではSC相模原から加入後初ゴールを決めた。

一方リーグ戦では途中出場のみ。J1第33節終了時点で先発出場には至っていないが、当の本人に焦りは全くない。

「途中出場で入って(時間が)少ない中で仕留め切ることはできると思うので、うまくハマってくればガンガンいける感覚はある。今やっていることは間違っていないので、続けていくだけ」

この環境でも、たとえ結果は出ていなくても、ブレない。「自分がどの舞台でも点を取れる――というところに対しての自信を持っている」とさえ言い切る。

自分に言い聞かせているわけでもなければ、虚勢のような雰囲気を漂わせているわけでもない。そのマインドはもちろん、日々の蓄積からきているものだった。

個人でメンタルトレーナーと契約して生活を一変させた2023年。漫然と送っていた毎日を厳密にデザインし、それを厳密に遂行した。マインドが変わって行動が変わり、その積み重ねが目に見える成果となった。19ゴール、得点王。大きな成功体験を得た。

「ストライカーとしてプロのキャリアを進める喜びとか自信がついたのが一番大きかった。そこに対して一番自信がある状態になれたのは、間違いなくあのシーズンがあったから」

日々の取り組みは毎年アップデートされ、ストイックさは増すばかりだ。当初は6時半だった起床時間も現在は5時半。秋田に移籍してからは食事面も管理するようになり、身体のキレが増したという。

「あの時と同じだと多分今ここにはいなかったし、去年と同じだったら多分ここからさらに上には行けない。毎年同じようには絶対にしない」

松本アカデミー出身者の一番星
大きな背中を見せながら日々成長

言うは易し、行うは難し。小松はただ、行動に移して未来を変えた。

そして気がつけば、世界最高峰の選手たちと同じピッチに立った。7月27日、ノエビアスタジアム神戸。FCバルセロナ(スペイン)との親善試合で、後半スタートから途中出場した。

同じFWにはロベルト・レヴァンドフスキやマーカス・ラッシュフォード、ゴールを守るのはGKヴォイチェフ・シュチェスニー。問答無用のワールドクラスと対峙した。

「フィジカル、スピード、技術…全てにおいてバケモノだった。同じサッカーをやっていたはずなのに、別競技みたいな感覚だった」

試合はボール保持率27%対73%。内容も結果も打ちのめされたとはいえ、名にしおうブラウグラナと身体をぶつけたその感覚は一生の財産にもなるだろう。

そしてその姿は松本山雅FCの選手たち――とりわけアカデミー出身の後輩たちにとっては、追うべき存在となっている。

例えばFW田中想来。今季ここまで9ゴールを挙げるなど、成長著しいストライカーだ。アカデミー時代は重なっていないが、トップチームで同じ釜の飯を食べた。

23年に小松ががらりと日々の取り組みを変えたタイミングで、高卒ルーキーとして加入してきた。

「知っている範囲で、頑張って(小松の)やり方を真似している。筋トレとか生活面でやることを変えなかったからこその活躍。僕も間違いなくきっかけはつかみかけているし、全ては自分次第だと思う」

DF樋口大輝も同様だ。「ついこの間までクラブハウスにいたような気がしていたんだけど、気が付いたらバルサの選手とマッチアップしていた」と目を丸くする。

一寸先は闇であり、光でもある。それがこの世界の妙味。樋口はそれを噛み締めながら、「一つのチャンスをいかにモノにできるか、それを何年待ち続けてやり続けるか。本当に参考になるし、モチベーションにもなる」と力を込める。

当の小松自身は、それを受け止めながらなお大きな背中を示す。

「結果的に僕はたった2年でキャリアを大きく変えることができたけど、みんなまだ若いし誰でもできる。だからさらに自分がキャリアを歩んで、さらに示していければと思う」

目標を明確に設定し、どのように到達するかを描く。あとはそれをひたすら実直に遂行するだけ――。極端に言えば、その積み重ねひとつで小松は瀟洒な港町のビッグクラブにたどり着いた。

「何か一つきっかけがあれば、人生を大きく変えることができるとは思う。その度合いが人によって違うし、結局はその人次第。僕自身も、今の段階で満足していることは微塵もない」

そう言い切れるだけの自信がある。遠くない将来。クリムゾンレッドに身を包んだ信州育ちのストライカーが、ゴールを次々と陥れることだろう。


たくさんの方に
「いいね」されている記事です!
クリックでいいねを送れます

LINE友だち登録で
新着記事をいち早くチェック!

会員登録して
お気に入りチームをもっと見やすく

人気記事

RANKING

週間アクセス数

月間アクセス数