名将去ってもフィロソフィーは不変 市立長野は“尾崎世代”以来の全国を目指す

その輝きは色褪せていない。市立長野は今季、天野達也コーチが新監督に就任。13年間チームを率いた芦田徹氏が昌平(埼玉)の監督となり、その後を継いだ形だ。長年にわたって醸成してきたスタイルやフィロソフィーの大枠は変えず、4年ぶり2回目の全国選手権出場に向けて歩みを進めている。

文:田中 紘夢/編集:大枝 令

芦田徹監督の指導哲学に魅了され
市立長野でコーチとして下支え

2025年4月1日。
昨季まで市立長野を率いていた芦田徹監督が、全国優勝経験を誇る昌平の監督に就任した。

13年の在任期間でインターハイ2回、全国高校選手権に1回出場。MF山中麗央(AC長野パルセイロ)、MF新井光(FC今治)、DF尾崎裕人(神奈川大からAC長野に来季加入内定)と、3人の教え子がプロ入りを遂げた。

そんな名将の退任は、長野県高校サッカー界にとって「喪失」と言えるかもしれない。芦田監督の指導哲学に魅了され、選手だけでなく指導者も教えを乞うてきた。

天野達也新監督もその一人だ。

「自分が行き詰まったときは芦田さんに連絡して、相談させてもらっていた。市立長野のサッカーにすごく魅力を感じていたので、練習を見させてもらうこともあった」

現役時代は明科高で全国出場を経験した天野監督。母校から指導者のキャリアをスタートし、駒ケ根工業を経て市立長野に進んだ。

芦田氏とは指導者ライセンス講習の同期で、3週間寝食をともにする時期もあったという。対戦相手としても市立長野のスタイルに惹かれ、職員の欠員が出た際に異動を希望。芦田監督のもとで2年間コーチとして下支えした。

恩師からバトンを託され、「逃げ場はなかった」と微笑む。相応のプレッシャーを抱え、賛否両論の声もありながら、去り際の言葉に救われたという。

「勝負の世界なので、勝つこともあれば負けることもある。そこで大事にすべきは、選手が成長しているかどうか」

ボール保持は「目的ではない」
ゴールを目指して“いじわる”に

3度の全国舞台を踏んだ市立長野だが、決して“常勝軍団”ではない。

県1部リーグで唯一の公立校。北信地方を中心に、地元出身者で構成される。芦田前監督は土のグラウンドを自ら整備しながら、文字通りに泥くさく、弱者の発想でチームを引き上げた。

そんな“雑草魂”を受け継いだ天野監督も、就任から地に足をつけて取り組んできた。

「ボールを握るのは市立長野の特色だけど、本質的なところで負けていたらゲームには勝てない。走る、切り替え、プレーの連続性、強度――。そこはずっと話をしている」

相手を見ながら可変し、ボールを支配するスタイルも健在。ただ、「それが目的化してしまっているような選手も見られた」という。

目的はあくまでゴールであり、そのためにはロングボールもいとわない。いかに相手の嫌がることを徹底できるか。前任者の言葉を借りれば「いじわるサッカー」である。

10月11日に行われた高校選手権県大会の初戦でも、そのフィロソフィーは感じられた。

豊科に5-1と大勝。5-4-1のブロックに苦戦しながらも、外側からクロスを上げてFW高山温翔が2点を決める。カウンターやミドルシュートでもゴールを重ねた。

「ゴールを取る方法は一つじゃなくて、いろいろある。スタイルとかこだわりを捨てないことも大事だけど、彼らは『全国大会に行きたい』と言っているし、そこを目指すなら引き出しは多いほうがいい」

“尾崎世代”以来の全国選手権へ
「憧れているだけでは叶わない」

市立長野が最後に全国舞台を踏んだのは4年前。尾崎裕人キャプテンのもとで選手権初出場を果たした。

当時のチームに憧れて門を叩いた選手は数多い。エース高山もその一人で、中信地方のアンテロープ塩尻から北上してきた。「長野県にはあまりいないチームだし、公立だけど強くて憧れた」と経緯を明かす。

中学時代はボランチだったが、芦田前監督に攻撃力を買われてFWにコンバート。中盤の経験を生かしてライン間でボールを受けつつ、アーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)のようにゴール前でも勝負できる。まさに万能型ストライカーだ。

AC長野パルセイロU-15出身のDF永泉瑠大も、尾崎の代に憧れて市立長野へ。U-18に昇格した戦友たちは、日本クラブユース選手権に3年連続で出場。U-15の先輩でもある尾崎のプロ入りを含め、大いに刺激を受けている。

天野監督と同様、彼らも市立長野のフットボールに引き寄せられて集った。指揮官はその思いを尊重しつつ、「憧れているだけでは目標はかなわない」と語気を強める。

「芦田さんが作ってきたチームに魅力を感じて来てくれる子は多いけど、それを形にするにはたくさん努力しないといけない。サッカーに真摯に向き合う姿勢もそうだし、日頃の何気ないことからやっていくのが大事だと、最近はしつこく言っている」

普段は温厚な天野監督だが、時折投げかける厳しい言葉に、選手も身が引き締まる思いはあるようだ。4年ぶりの高校選手権県大会制覇に向けて、副キャプテンの永泉は「天野先生のおかげで前向きにやれている」と話す。

昨季は決勝で上田西にPK戦の末敗れた。2年生から主力を張る永泉は、「もう一度あの舞台に立ってリベンジしたい」。ケガの影響でスタンドから見守っていた高山も「『今年こそは』という思いはある」と力を込める。

新監督のもとで挑む初の選手権。10月18日には4回戦8試合があり、市立長野は松本深志と対戦する。


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