上田西高校が屈辱から這い上がり連覇 “スズメバチ”はいなくとも「群れて刺す」

逆境を乗り越えてつかんだ栄冠だ。前年度の全国高校サッカー選手権でベスト8に輝いた上田西は2025年11月8日、県大会決勝で都市大塩尻をPK戦の末に破って初の連覇。2年連続4回目の全国切符を得た。夏の県総体でまさかの2回戦敗退に終わった無念さを糧に、“ミツバチ軍団”の針を尖らせてきた。昨季のような役者はいなくとも、今季は全員で「群れて刺す」力がある。
文:田中 紘夢/編集:大枝 令
KINGDOM パートナー
身の程を思い知らされたあの日
「全員守備、全員攻撃」を徹底
2025年6月1日。“屈辱的敗戦”から物語は始まった。
県総体2回戦で、長野吉田に1-2と敗戦。昨季全国ベスト8の強豪が、まさかの2回戦敗退に終わった。のちに決勝まで進むダークホースが相手とはいえ、あまりにも早すぎた。

キャプテンの宮川航汰は、焦りを隠せなかった。
「去年はボールが収まる選手が多かったけど、今年はそうもいかない。全員でやらないと勝てないというのは感じた」
前キャプテンのMF鈴木悠杏(常葉大)やMF松本翔琉(尚美学園大)のような、絶対的な司令塔はいない。DF緑川周助(作新学院大)やDF東風谷崇太のような、確固たるディフェンスリーダーもいない。

新鋭校に身の程を思い知らされた夏。「全員守備、全員攻撃」という原点に立ち返り、働きバチとして巣を広げていく。雨で土のグラウンドが使えない日は、学外を14km走った。
「夏はほとんど勝てなくて、本当に苦しかった」と白尾秀人監督。総体後の県1部リーグでも、2勝5敗と大きく負け越した。結果で自信を植え付けるには至らなかったが、それでも「選手権の中で成長してくれた」。

指揮官が「あの2人の成長が一番大きい」と称えたのは、末武優陽と平松優樹の2トップ。互いにサイドハーフを主戦場としていたが、総体での敗戦を機に最前線ヘ。スピードあふれるコンビを組み、伝統の堅守速攻を色濃くした。
4-2と勝利した準決勝の松本第一戦では、平松が6分間でハットトリックを達成。うち2点は末武のアシストから生まれ、二人称で速攻を完結させた。

総体の教訓を掘り起こして冷静に
PK戦にもつれるも、総力で連覇
決勝でもそのスピードが火を噴いた。
15分に都市大塩尻に先制を許すも、4分後にすぐさま反撃。最終ラインの背後へのボールを末武が追走し、快速を飛ばしてディフェンダーの前に入る。相手DFのDOGSO(決定的な得点機会の阻止)を誘い、一発退場の判定となった。

「自分のスピードを生かして相手が1人減って、そこから自分たちのチャンスを増やせた」と末武。最少ラインが余裕を持ってボール保持できるようになり、4バックから3バックに変えて前線に人数を割く。
ただ、前半は単調なロングボールに終始。相手が守備を固める中で、攻め急ぎの傾向が見られた。

「ベンチから『あのときみたいになっている』と言われた」と末武。“あのとき”とは、県総体で屈辱を味わった長野吉田戦のことだ。
先制された後に末武のゴールで追いつくも、それから攻め急いで精彩を欠いた当時。末武はその教訓を掘り起こし、「相手も1人少ないので、落ち着いてやれば絶対にチャンスが来ると思っていた」と明かす。

後半は昨季から掲げた“ハイブリッドサッカー”を体現。ロングボールにショートパスを交え、相手の嫌がることを徹底した。
終盤には187cmのFW宮下琉之を投入して高さを加える。ロングボールで押し込んでCKを得ると、DF野澤波のゴールで同点に追いついた。

試合を振り出しに戻し、1-1で延長戦へ。最後はPK戦までもつれ込んだが、“PK要員”として投入されたGK湯田拓海のセーブも飛び出し、4-3と勝利。持てる力をすべて振り絞り、初の連覇を遂げた。

決勝でケガから復帰の主将・宮川
同校OBの兄から「よくやった」
「大会を通してなかなか自分は活躍できなかったし、準決勝もケガで出られなかった。それでもここまでつれてきてくれて、最後も仲間たちがPKを決めてくれた」

そう話したのは、キャプテンの宮川。準決勝を負傷欠場し、決勝も万全のコンディションではなかった。後半終了間際に足をつってベンチに退いたが、MF眞下凛から「あとは任せろ」と力強い言葉を受けたという。
「宮川はずっと苦労していたので、『今日は良い日になれば…』と思っていた。ケガもあったけど、彼がいることでチームも変わると信じていた」

白尾監督の期待を一心に背負った宮川。思うように体は動かなかったが、働きバチの群れを先導し、後半アディショナルタイムまで走破した。試合後には同校OBで兄の叶夢(新潟産業大)から「よくやった」と連絡が届き、「初めて向こうから来た」と笑みをこぼす。

夏の屈辱的敗戦を糧に、ミツバチ軍団は針を尖らせてきた。昨季のような“スズメバチ”はいなくとも、全員で「群れて刺す」力がある。また新たな装いで、冬の全国選手権に挑戦する構えだ。

「去年の最後(準々決勝・流通経済大柏戦)は0-8という悔しい負け方で終わってしまった。まずはその舞台にチャレンジできるように、一戦必勝で戦いたい。ベスト4という最高成績を超えられるように、ここから良い準備をしていきたい」


















