信州ダービー「5-0」の衝撃 松本山雅が“歴史的大勝”で手にした確固たる自信

明確なコントラストがピッチ上に描かれていた。2026年3月14日、長野Uスタジアム。AC長野パルセイロ-松本山雅FCのダービーマッチは、開始早々から松本山雅がたたみ掛けて5-0で終幕した。「アウェイ長野」のリーグ戦で勝利したのは、2007年の北信越リーグ1部以来19年ぶり。苦手としていた難攻不落の要塞を完全攻略し、確かな自信を得た。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
全局面を制圧した練度の違い
19年ぶりの白星が示す現在地
「やってきたことは間違いではなかった」
試合後の取材エリアで、DF小田逸稀は力を込めた。そんな言葉を選手から耳にできることが、どれだけ幸せか。近年の低迷期――とりわけJ3で15位に終わった昨季、そうした手応えを聞いた記憶はほとんどない。自分に言い聞かせる場合を除いて。

実際に「間違いではなかった」と胸を張って言えるほど、ゲームを支配した。圧倒的にだ。
リスク管理が脆弱な長野の隙を見逃さない。長短のカウンターから次々と人が湧き出したかと思えば、最終ラインのギャップを突いて裏を取る。球際のデュエルも完勝。MF深澤佑太、MF安永玲央、MF村越凱光らがシャープかつタイトに奔走し、中盤を緑の絶対空間とした。

中盤だけでなく全ての局面において、個々のインテンシティに違いが出た。小田は開始2分のセットプレーを筆頭に空中戦でほぼ全勝だったし、8分に2点目を奪ったFW加藤拓己は規格外の強靭さ。DF樋口大輝は前回対戦で後手を踏んだ長野MF安藤一哉を巧みに封じた。

「セカンドボールへの反応、追い込んでから球際で奪い切るところ、奪った後に差し込むパス――。どれを取っても良かったと思う。今までの試合で一番良かったと思う」
DF宮部大己は声を弾ませた。

対する長野。選手間の距離感が悪く、特に前半はFW藤川虎太朗がライン間で孤立。遂行段階のミスはもとより、その前段階の設計ミスでもあった。被カウンター時のリスクマネジメントを含め、各局面で後手を踏む。近年長野Uスタジアムで示してきた獅子の威厳は、微塵もなかった。

ゴール期待値は松本が3.25、長野が0.33。かくして、歴史に刻まれる5-0という結末を迎えた。松本山雅にデータが残る2004年以来、公式戦のダービーマッチが5点差で決着するのは史上初。リーグ戦だけでなく、長野県サッカー選手権、全国社会人大会(全社)県大会などの他大会を含めてもだ。
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日々の積み重ねが生んだ強靭さ
「信州ダービー」勝利で自信得る
「練習から高い強度でできているし、試合に出ている選手はもちろん、出ていない選手たちが今日の相手より強い強度でやってくれていることで、こういう結果になっている。なので、チーム全員で勝ち取った勝利だと思う」
そう振り返ったのはMF澤崎凌大。石﨑信弘監督の代名詞とも言える「フィジテク」だけでなく、トレーニングの設定が必然的に強靭な集団を練り上げる。

コンパクトフィールドでボールホルダーを追い越さざるを得ないシチュエーションを作ったり、イ・チャンヨブ フィジカルコーチがサーキットやランメニューの強度を「ギリギリ」にコントロールしたり。セットプレーのトレーニングでも、古川昌明GKコーチの笛が鳴るまで集中を切らさずやり切る。

そうした日々の積み重ねが「意識」を植え付けつつ、それを遂行する「体力」を育んできた。今回のJ2・J3百年構想リーグではすでに、ジュビロ磐田と北海道コンサドーレ札幌のJ2勢からも白星。6試合目で初めてJ3との同カテゴリー対決となる中、望外の完勝で道筋の正統性を示した。

小田が充実感をにじませながら振り返る。
「今までJ2の相手と5試合対戦して徐々に手応えもつかんできた中で、今回初めて同カテゴリーとの対戦だった。すごく余裕を持てて――というか、球際や切り替えや走るところ、局面で全て勝っていた。今までやってきたことが出せた、やってきたことが間違いなかったと思えた」

5点リードでも弛まぬ矢印
「まだまだ」が示す伸びしろ
そして何より、一切の「慢心」が排除されている。
毎回のように球際の激戦が繰り広げられ、1点差の勝負だったこのカード。開始8分で2点差、前半だけで4-0と大量リードを得てもなお、プレーからは弛緩した様子が見られなかった。通常であれば安堵感が顔を覗かせ、多少の失点を喫することも珍しくないのにだ。

村越が、ハーフタイムのロッカールームの雰囲気を明かした。
「4-0で折り返したハーフタイムでも、本当に誰一人として気を抜いたりとかは全くなかった。逆にもう1点もう2点を取りに行く姿勢だったり、試合の入りだったり、逆にちょっとできていなかった掛け声だったりとかができていた」

後半。長野が189cmのFW大﨑舜を投入してロングボールを多用した影響でピッチの表情は多少変わったものの、自陣バイタルエリアでルーズな対応が出たわけではない。後半の被シュート数は3。逆に長野のパスミスにつけ込み、決定的な5点目を挙げた。

試合後の監督会見と取材エリア。鬼門だった「アウェイ長野」で勝利を収めた喜びの声が聞かれるだろうか――と足を運んだものの、満足している者は誰ひとりいなかった。
「試合後のロッカーで選手たちとたくさん話したけれど、みんな『まだまだ』と感じている。僕自身もあと2点取れるシーンがあったし、他の選手にも決定機がたくさんあった」
加藤がそう話す通り、前半だけで6〜7点取れるチャンスはあった。村越のミドルはクロスバーをたたき、澤崎のシュートはゴールポストに阻まれる。安永も小田も樋口も、ネットを揺らす絶好機を得ていた。

特に樋口。第5節・札幌戦でロングスローから今季初得点を決めたものの、第2節藤枝MYFC戦からゴール前の絶好機をモノにできていない。だからこそ、「自分(のパフォーマンス)には納得がいっていない。もっともっと結果にこだわってやっていけたら」と危機感を募らせる。

全ては日々の積み重ね――。
橙色の要塞で凱歌を轟かせ、確固たる自信を得た松本山雅。換羽期の雷鳥はその翼に上昇気流を捉え、さらなる“頂”を目指していく。



















