「なんでも屋」の真髄 AC長野OBの砂森和也さんが実践する“恩返し”

「コーポレートアドバイザー」。スポーツクラブでは聞き慣れない役職が、昨季限りでAC長野パルセイロのユニホームを脱いだ砂森和也さんの新たな仕事だ。アスリートの立場で培った経験や人脈を生かし、現役最後の3年間を過ごしたクラブに恩返しをしようと汗をかく。就任の経緯と具体的な取り組みを聞くと、ギブアンドテイクの精神を重んじる「なんでも屋」の真髄が見えてきた。

文:田中 紘夢


熱烈なオファーに就任決断
ビジネス展開しつつ知見を還元

昨季をもって選手生活にピリオドを打つことは、シーズンが始まる前から決めていた。

それをシーズン中にクラブ側にも告げたところ、引退を惜しまれつつ、強化担当者への就任を打診された――と明かす。

「外の世界を知りたい」との願望から、一度は断りを入れた。それでも澁谷泰宏代表取締役社長から手紙が届き、熱烈な誘いを受けて「さすがに考え直した」。澁谷社長の「クラブを変えたい」という思いに共鳴したからだ。

「自分のやりたいことが、結果としてクラブのためにもなれば良い。うまく融合させられると思った」

チームを強くする強化担当ではなく、クラブを成長させるスタッフとしてオファーを受け入れた。名付けられた役職名は「コーポレートアドバイザー」。スポンサーの開拓や獲得、クラブの価値向上を進める外部パートナーという位置付けだ。

砂森さん自身は、現役時代に築いた人脈を生かして普段は東京でビジネスを展開している。そこで培った知見やノウハウをクラブに還元し、スポンサー獲得や企業タイアップに寄与する――そんな役割をイメージしながら活動している。

クラブを外側に売り込むには、まずは内側に潜む課題を洗い出す必要がある。砂森さんは観戦体験者からSNSを通じて独自にアンケートを実施。寄せられた1,000件以上の声に耳を傾けながら、長野Uスタジアムへの交通アクセスの不便さなどを可視化した。

「企業に『ください』と甘えてばかりになるのではなくて、お互いの課題が解決できる関係になれるか。『うちはスポーツには関係ない』と言われたら入口は締まるけれど、交通の問題だったら協力してもらえるかもしれない。そうやって角度を変えたい」

個人で発信を始めたところ、実際に県外の企業から「何か力になれることがあれば」との声も届いたという。持ちつ持たれつの関係を築けるよう、周囲との接点を模索し続けている。

選手時代にも地元の課題を解決
「人のために」と変わった意識

現役時代から“ギブアンドテイク”の精神を持ち続けてきた。

「結局は人と人なので。自分は現役時代から一般の方との隔てをなくしてきたし、それは相手がスポンサーだったとしても一緒。選手が関わって解決できることがあれば、なんでもやりたかった」

2019年から4年間在籍した鹿児島ユナイテッドFCでは、スポンサーの課題解決に一役買ったこともある。コロナ禍で物流が滞り、クラブのスポンサーでもあった地元の水産会社が立ち行かなくなったと耳にした。そこで傍観するのではなく、水産会社に知人を紹介して流通網を確保。プロ選手として培った人脈が生きた。

JFL(日本サッカーリーグ)のHonda FCからキャリアが始まり、18年には当時J3のアスルクラロ沼津でリーグのアシスト王に。当時J2の鹿児島に移籍した1年目でリーグ戦の全42試合に出場した。プロ選手としてステップアップした20代を「結果を出したい」「個人昇格したい」という我欲が強かった――と振り返る。

30代に差し掛かると考え方が変わり始めた。AC長野に移籍した23年には娘が急性白血病の診断を受けたことを公表し、看病に専念するため選手活動を休止した。

そんな砂森さんを支えようとする活動は、クラブ内にとどまらず全国のサッカーファミリーに広がった。自分の目から見えていた外の世界は、自分自身にもつながっている――。そのことに気付き、「自分のために」から「人のために」働こうと意識が変わった。それは現役を退いた今も変わらない。

「このクラブには応援してくれる多くの人がいるので、ただただ与えてもらうばかりではいけない。試合の結果以外にも喜んでもらう方法はある。サポーターの貴重な意見をクラブに反映させたい」

与えられる立場から、与える立場へ――。砂森さんは今、クラブと地域、それにサポーターの架け橋になろうとしている。

“サポーターの代弁者”として
「見返りを求めずにやりたい」

肩書きは片仮名で構成されているが、本人からすれば「なんでも屋」。肩肘張らずにクラブを外側からサポートする立場だと自覚している。

SNSを通してサポーターから意見を吸い上げたり、在京企業にアプローチしたり。フットワークは軽い。クラブの広報担当者や営業担当者が動くよりもハードルが低く、スピード感もある。かゆいところに手が届く存在だ。

「サポーターがクラブに直接意見を言うことは、結構なパワーを使うと思う。クラブからしてもフィードバックには時間がかかるし、『もう二度と来ない』という意見をそのまま(公式サイトなどに)載せるわけにもいかない。個人だからできることもあるし、サポーターの代弁者としてやっているつもり」

週末にはホームゲームに足を運び、課題解決の糸口を探し回っている。同じクラブOBの三田尚希さんと共に長野Uスタジアム最寄りの篠ノ井駅から45分の道のりを歩いてみたこともあった。

「もっと商店街の方とも連携を取りたいし、歩いて行くことの楽しさも創造できるかもしれない。(Jリーグタイトルパートナーの)明治安田さんのウォーキングアプリもあるし、他のクラブでは給水スポットを設置してロードマップも作っていると聞いた」

アクセス問題を逆手にとって娯楽に変換し、地域貢献にもつなげる――。柔軟な視点で物事を捉え、新たな可能性やアイデアを見出している最中だ。

その活動がクラブへの恩返しにもつながる。

「なんでもかんでもやってもらうのは好きじゃないし、何かをやらないと気が済まない。自分の手で解決できることがあれば、見返りを求めることなくやりたい」

そんな思いを胸に抱き、これからも汗をかいていくつもりだ。


クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/

たくさんの方に
「いいね」されている記事です!
クリックでいいねを送れます

LINE友だち登録で
新着記事をいち早くチェック!

会員登録して
お気に入りチームをもっと見やすく

人気記事

RANKING

週間アクセス数

月間アクセス数