“オリンピアン”成田郁久美コーチの視線が紡ぐ 若きチームの未来図
かつてのオリンピアンが信州に降り立った。成田(旧姓・大懸)郁久美コーチ。日の丸を背負い、笑顔でコートを駆け回った姿を覚えている人も多いのではないだろうか。アトランタ、アテネと2度の五輪を選手として経験した指導者が、今季は信州ブリリアントアリーズのコーチに就任。その経験をフルに生かし、“初代王者”に導く一翼を担う。
取材:原田 寛子/編集:大枝 令
住み慣れた北の大地から信州へ
後押ししたのは長野との「縁」
――信州ブリリアントアリーズに加入された経緯と、加入前のアリーズの印象を教えてください。
アルテミス北海道を辞めた時に、当時ブリリアントアリーズのGMを務めていた方からお声がけいただきました。アルテミスを退団して割とすぐだったので、タイミング的にもよかったと思います。
チームとしてブリリアントアリーズのことは知っていましたが、所属リーグが違ったのでアルテミスとの対戦もなく、詳細は分かりませんでした。「横田実穂が所属しているチームだな」というくらいの認識ですね。
――キャプテンの横田選手をご存知だったのですか。
じつは、実穂のことは小さいころから知っているんですよ。実穂の父親とはコーチの関係でもともと知り合いでした。だから実穂が3歳くらいのころからよく知っていて、長野県にも来ていました。家族ぐるみの付き合いですね。それもあって、地元である北海道を出るという選択肢が出た時に「長野県なら行ってもいい」という気持ちもありました。
――実際にチームに合流して、どのようなチームだと感じましたか。
第一印象は、「個々の能力が高い選手が多い」ということです。ただそれが生かし切れていないのでもったいない。伸びしろがたくさんあると思いました。
若い選手が多いのも特徴だと思います。「ベテラン」と言われる選手でもまだ20代。経験という観点から言えばまだ足りない選手が多いかもしれませんが、その分のびのびプレーできる。怖いもの知らずということではないですが、若さをプラスに捉えて自分が持っている力を出せれば、指導者が想像する以上の力が出せると思っています。若さという部分が強みであり、弱みでもあるところですね。
PROFILE
成田郁久美(なりた・いくみ)1976年1月1日生まれ、北海道旭川市出身。旧姓は大懸(おおがけ)。1996年アトランタオリンピックでは最年少(20歳)メンバーとして出場。アウトサイドヒッター(当時レフト)として攻守ともに活躍。2001年に一度引退したが、結婚後の03年に現役復帰。04年アテネオリンピックではリベロとして出場した。11年に引退。20年に地元アルテミス北海道の監督に就任し、23-24シーズンまで指揮を執った。
重視するのは選手との「対等な会話」
技術や楽しさを伝え、主体性を引き出す
――成田コーチは現役生活が長かったですが、ご自身が感じるバレーボールの魅力やバレー哲学を教えてください。
私は35歳までプレーしていました。長く続ければ続けるほど気づきがあり、バレーボールが面白くなっていきました。競技自体がとにかく面白いし楽しい。そして、それを仕事としてできることが幸せだと感じています。
今は競技の本質というか、戦略や駆け引きなども解説などで出てきていると思います。その駆け引きという部分に楽しさや面白さがあるんですよね。
ただ一生懸命プレーするだけでなく、相手によってやり方が違う。一つのプレーをとっても、全く同じ攻撃にはならない。相手はどんなプレーをしてくるか、それに対して自分はどう対応するか、または仕掛けるか――。
そんな駆け引きを楽しめるのがいいと思います。選手たちにもそういった駆け引きを楽しめるようになってほしいです。
――ご自身がプレーしていた時と今とでは、指導の仕方は変わってきていますか。
過去には「有無を言わず監督の言うことを聞け」という時代や「自分で考えてやりなさい」という時代があったと思います。私も長くやってきたので両方経験しました。
そこから感じたのは、「選手が監督やコーチと対等にバレーの話ができなければ強いチームにならない」ということです。一方的ではなく、双方でバレーと向き合って高めていかなければ強くはなれない――という実感がありました。
今はまだ若い選手たちに「自分の意見を言いなさい」って言っても、まだ「自信がない」とか「言っていいのかな」という雰囲気があります。そこを変えていきたいですね。
――ご自身は現役の時、監督たちと対等に話せていらっしゃったのですか。
ベテランになってからは言っていました。言って嫌がる監督と受け入れてくれる監督と、タイプは分かれていましたね。ここは原(秀治)監督も選手の話を聞いてくれるので、違和感なくできています。本当はもっともっと選手から意見を言ってほしいと思っています。
経験した多くの引き出しを生かし
アリーズを「初代王者」へと導く
――練習の際は選手と同じくらい力のある声で指導されていますが、成田コーチから細かいところまで指示を出しているのですか。
全部を言うわけではありません。昔は「自分で気づけ」とか「見て学べ」というところがありましたが、知っていることは先に教えてあげたいという思いがあります。ちょっとしたアドバイスで、偏りがちになっている考えを広げてあげるイメージですね。
それで選手本人がバレーを面白いと感じるようになれば、自然とうまくなっていくと思います。自分が若いころもそうでしたが、できないことにばかり目がいって悩みがちになります。
うまくできた部分に目を向けたり、違う方法があるというアドバイスをするだけで開けてくると思います。
それから、良くないプレーをしている最中はあまり細かく言わず、終わってから言うようにしています。良くない時は落ち着いて考えられなかったり、パニックになって頭の中が整理できないことが多いんです。そういう時はメンタル的な話ではなく、狙う場所や手の使い方など具体的な指示を出すようにします。
――選手から「成田コーチはいいところを褒めてくれるので、それがプラスになる」という声がありました。ご自身の経験からのご指導ですか。
基本的にそうですね。指導者になってからは特にそのあたりは意識しています。というのも、私は監督やコーチから厳しく怒られたりしてやる気が出たことが一度もないんですよ。
なので、そういう指導はなるべくしないし、逆にネガティブな考えに陥りがちな選手はそこをどうやって引き上げるかを気にしながらやっています。
今は試合の期間なので、特に「選手をいかに乗せるか」を意識しています。一線を退いて指導者になり、選手たちがどんどん伸びていく姿を見るのは、すごく楽しいですね。
――今シーズンの信州ブリリアントアリーズの見どころと意気込みをお聞かせください。
「全員バレー」というのは誰が出ても同じプレーができることだけでなく、戦略的に出る選手を替えて違った戦い方をすることもできると思います。
今年からホームアンドアウェイの試合方式になり、同じチームとの2連戦がリーグ中に2回あります。それに対応するためにもさまざまな戦略を考えなければいけません。そういった部分も見てほしいですね。
チームとしては「初代王者」を掲げていますが、向上心を持ち続けて1試合ごとに積み重ねていけば優勝も難しいことではないと思っています。将来的にSVリーグを視野に入れるならばなおさら、常に上を見て、高い水準を目指して戦っていきたいと思います。
チーム公式サイト
https://www.briaristcamp.com/
Vリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/v_women/team/detail/484