【Farewell-column】地元で疾走した大黒柱 AC長野レディース・伊藤めぐみ

150cmの“小さな巨人”は、地元のために4年間走り続けた。諏訪市出身で、高卒からAC長野パルセイロ・レディースに加わったMF伊藤めぐみ。直近2シーズンはキャプテンを務め、大黒柱として振る舞った。今季限りで長野を離れ、来季はタイトルホルダーのサンフレッチェ広島レジーナへ。オレンジから紫に衣替えし、さらなる高みを目指す。

文:田中 紘夢

地元クラブでの4年間で下積み
周りに流されず、自分のリズムで

昨年8月、シーズン開幕直前。
伊藤はテレビ信州の控え室で、番組収録に先立って弊メディアのインタビューに応じた。

多忙な合間を縫って朝8時からスタート。眠い目をこする素振りもなく、小一時間にわたって自身のキャリアを振り返ってくれた。その内容は選手ストーリーに記してある。

ピッチ内では司令塔、ピッチ外では広告塔として振る舞う存在。昨年2月にはタイキャンプ中に行われたカンファレンスに登壇し、アジアを代表して女子サッカーの魅力を伝える役割も担った。

AC長野に加わって4年目で、キャプテンとして2年目。当時22歳の若さながら、すでにチームの顔となっていた。

それでも本人は先述したインタビューで、「まだまだ下積みしているような感覚はある」とも話していた。

今季は高卒4年目で、大学4年生と同じ年齢。一般的に言えば学生の立場で、社会に羽ばたいていくための“就活期”でもある。

「周りとは少し違う道になっているけど、自分の中では進んでいると思う」

“周り”というのは、日本代表で活躍するなでしこたちを指すのだろう。

藤野あおば(マンチェスター・シティ)は世代別代表のチームメイトで、石川璃音(三菱重工浦和レッズレディース)はJFAアカデミー福島の後輩。彼女らと比べれば、右肩上がりのカーブはいささか緩いのかもしれない。

ただ、そこに焦りはなかった。

高卒で地元クラブのAC長野に加わり、1年目からレギュラーを奪取。3年目にはキャプテンに就任し、チーム最多の7ゴールを挙げる。自分なりのリズムで階段を昇ってきたのだ。

そしてプロ5年目の来季は、サンフレッチェ広島レジーナに移籍。今季はWEリーグカップを連覇し、ホームゲームでWEリーグ最多入場者数記録も打ち立てたクラブだ。

この記録はのちにジェフユナイテッド市原・千葉レディースが塗り替えたが、本拠地ではない国立競技場が会場。J2のジェフユナイテッド千葉のゲームも同日開催だった。

日テレ・東京ヴェルディベレーザ、INAC神戸レオネッサ、三菱重工浦和レッズレディースの“3強”に次ぐ強豪クラブ。地元での下積みを経て、社会人1年目の年にステップアップを遂げた。

廣瀬龍監督のもとトップ下で開花
主将の責務を果たして強豪に移籍

主戦場はボランチ。確かな技術と広い視野を生かし、四方八方にボールを配球する。攻守におけるハードワークも特徴的で、150cmと小柄ながら簡単には競り負けない。

直近2シーズンは廣瀬龍監督のもと、トップ下として重宝された。2023-24シーズンはチーム最多の7ゴールと、攻撃の幅を広げた。

「ここぞ」というときに仕事をしてくれるのも、なんともキャプテンらしい。

例えば同シーズンの第21節、アウェイでの大宮アルディージャVENTUS戦。12試合未勝利と泥沼に陥るチームを救ったのは、伊藤のゴラッソだった。

GK伊藤有里彩のパントキックからFW安倍乃花が競り勝ち、こぼれ球を伊藤が回収。AC長野の元キャプテンであるDF五嶋京香を抜き去り、GKが前に出た隙を見逃さずループシュートを決めた。

今季は後半戦初戦で負傷交代となったが、第17節のジェフユナイテッド千葉・レディース戦で5試合ぶり復帰。84分にチーム2点目となるミドルシュートを叩き込み、7試合ぶりの勝利に導いた。

まさに“必殺・仕事人”。伊藤の盟友であるFW大内梨央は「自分の中でも信頼は大きい。チームとしても本当に欠かせない存在」と口にしていた。

そんな伊藤が4年間過ごした地元クラブを離れ、新天地に籍を移す。

「地元出身選手として今回の決断をするまでに色々な葛藤がありましたが、選手としてもっと成長したいという想いから移籍することを決断しました」

リリースのコメントにもあるように、さらなる階段を昇るための決断。S広島Rは上野真実、中嶋淑乃ら日本代表も輩出しており、もってこいの環境と言えるだろう。

同郷の仲間たちもいる。岡谷市出身の瀧澤千聖は、小学校時代からの幼馴染。松本市出身の渡邊真衣とも交友がある。渡邊の去就は6月17日時点で定かではないものの、共演がかなえば心強いチームメイトになるに違いない。

よりハイレベルな環境に身を置き、まずはスタメン定着が目標と言えるだろう。S広島Rは来季から赤井秀一新監督が就任。8月のリーグ開幕に向けて、熾烈なチーム内競争が繰り広げられる。

それを勝ち抜いた先で、どのような景色にたどり着くのか。再び日の丸を背負うこともそうだが、キャリアの晩年には長野に帰ってきてほしい思いもある。

小さな巨人の行く末を、その故郷から見守りたい。


クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/
長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

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