入場者数131%、FC会員数234%増 “飛躍への土台”築いた2024-25シーズン

SVリーグ定着の礎となるシーズンだった。2024-25のVC長野トライデンツ。ホームゲーム平均観客数こそリーグ最下位に甘んじたものの、収容率やシーズン中の推移などを掘り下げるとむしろプラスに転じている。年間売上高、ファンクラブ会員数なども含め、各種指標は軒並み前年を上回った。クラブ運営会社のVC長野クリエイトスポーツ・大矢芳弘社長のインタビューを通じ、コート内外の歩みを点検する。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
入場者数は右肩上がりの傾向に
来季は「平均2,500人を超える」
2025年4月5-6日、STINGS愛知を迎えた第22節。改修が終わって今季1回だけ使用できたエア・ウォーターアリーナ松本(松本市総合体育館)には、連日3,500人以上のファンが訪れた。
「アウェイのファンも多くて盛り上がったけれど、あの試合が一番すごかった」。大矢社長はそう振り返る。

それまでの今季はことぶきアリーナ千曲での東京GB戦を除き、ANCアリーナ(安曇野市、収容数約1,800人)とスワンドーム(岡谷市、同1,400人)が会場。松本会場でのGAME2は今季最多の3,679人に上り、そのポテンシャルを示した。
ホームゲームの平均入場者数は1,566人となっており、リーグ最下位。しかし前年の1,187人からは131%増となっており、収容率を算出すると平均は78.9%に上る。満員御礼も36.3%の8試合だった。

「集客の満員御礼が4割弱で、松本では3,500人集められた。次のシーズンへの可能性を示すことができたと思う」
大矢社長はそう総括する。チームだけでなく集客も右肩上がりの曲線を描き、ファン層の掘り起こしに成功したと言える。
例えば3回目のホームゲームは広島THが相手。ホーム初勝利を飾ったGAME1は今季最少の676人だった。翌日のGAME2も768人と苦戦した。

その後は大阪B、サントリーといった人気チームとの対戦が続いた側面もあるが、1,000人を割った試合はない。集客に力を入れた年末のことぶきアリーナ千曲での第10節東京GB戦も2,053人と2,254人だった。
来季は松本会場での開催試合数も増える見込み。来季の平均観客数について「どれだけ増やすことができるか。確実に2,000人は最低ラインで、2,500人を超えていきたい」と大矢社長は意気込みを語る。

KINGDOM パートナー
ファン感謝祭に過去最多400人来場
SVリーグ暫定基準の4億円もクリア
人数増に伴い、コアファンの分母も増えた。象徴的だったのは5月17日のファン感謝デーだ。山梨県北杜市での開催だったが、過去最多の約400人が来場。選手たちも、その数に目を丸くしていた。
ファン感謝デーは、ファンクラブ会員限定のイベント。会員数も1,700人超と、昨年比で243%の大幅増となった。

「増え方がとても良かった。試合が終わるごとに50〜100人が増えていくイメージ。ご家族・ご友人からのお誘いや招待などで、初めていらっしゃった方に魅力を感じてもらえた部分もあると思う」
「ファンの方々とコミュニケーションを取ると、招待で来てファンクラブに入って、最終的にファン感謝デーに来てくださった方もいた」
広い会場にびっしりテーブルを囲むファンと、それぞれの卓を回ってふれあう選手たち。その光景は、今季のVC長野を何よりも象徴していたと言えるだろう。

このほか今季は公式ウェブサイトをリニューアルしつつ、川村慎二監督や選手の試合後コメントを詳報。外部専門媒体などによる露出も増え、「(既存のファンに対する)グリップ力も強まったと思う」と分析する。
こうした取り組みに伴い、クラブ全体の収入も増加。SVリーグの暫定基準である年間売上高4億円というボーダーは突破する見込みだという。

ただ、年間売上高の基準は2027-28シーズンから6億円に引き上げられる。ライセンスに関わる条項のため維持が求められ、「6億円に向けた足掛かりを作らないといけない。25-26の実績によるけれど、26-27は6億円の計画を立てていく」と見通す。
コート周辺のサポート態勢を拡充
MB松本ら新戦力の活躍にも期待
価値の根源となるコート内にも目を向けていく。
22人中10人が退団となり、そのうち6人は主力クラス。一斉に退団が発表された際は大きな波紋を呼んだが、その後に5人の入団が発表された。

何よりも現役最年長44歳のミドルブロッカー(MB)松本慶彦の存在が大きい。長野市出身。岡谷工業高でプレーした経歴を持つ。故郷への凱旋に伴い、コート内外で精神的支柱としての役割が求められる。
このほかデンマーク代表のアウトサイドヒッター(OH)オスカー・マドセン、カナダのオポジット(OP)マシュー・ニーブス、そしてアジア枠でインドネシアのOHファルハン・ハリムが加わる。

セッター(S)はVリーグ東地区覇者の北海道YSから赤星伸城が加入。不運にも右アキレス腱断裂での長期離脱が発表されたものの、現在は対応を調整中だという。
さらに、現場のサポート体制も変化がある。トレーナーも含めたケアのスタッフは拡充となるほか、チーム運営に関わる要職も新たに引き入れる見込み。大矢社長は「次のシーズンは一つ上のレベルに改善していく」と力を込める。

2024-25シーズンは過去最多の10勝をマーク。新たな歴史を刻んだチームから顔ぶれも一新するものの、残ったOH工藤有史やS中島健斗らを軸に新たな形を再構築していく。