新天地で“決意の11”を背負う小栗瑛哉 秋田時代の先輩「クマコー」の背中を追って

学生時代から頂の景色を見てきた選手が信州にやってきた。小栗瑛哉。鋭いドライブと前線からのディフェンスを持ち味とするポイントガード(PG)だ。特別指定も含めて昨季まで3年間在籍したB1秋田ノーザンハピネッツでは、2021-23年に信州でプレーした熊谷航を間近で見てきた。今回の移籍にも、背番号「11」のチョイスにも熊谷の存在が影響していたという。24歳の意気込みに耳を傾ける。
文:芋川 史貴/編集:大枝 令
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同世代を中心に熱を帯びる練習
「良い相乗効果が生まれる」
「みんなすごく練習するので、必死に負けないように頑張ってついていっている」
2000年度世代の加入が注目を集めている信州。シーズンの開幕に向けて、エネルギー高く日々の練習に取り組んでいる。
小栗も00年代を代表する選手の一人だ。

岡山県出身。玉島北中では同時加入となった土家大輝とともに全国準優勝を経験し、開志国際高(新潟)ではインターハイ優勝。大阪産業大卒業後はB3の金沢武士団を経て、B1の秋田でディフェンス主体の激しいバスケットを学んできた。
「同年代がいることは気持ち的にもすごく楽になるし、『負けたくない』という気持ちもあって良い相乗効果が生まれると思う」
その言葉の通り、練習では充実した表情を浮かべる一方、どの練習にも一生懸命に取り組み、リバウンドやルーズボールでも存在感を発揮している。

PROFILE
小栗 瑛哉(おぐり・あきとし) 2001年3月1日生まれ、岡山県出身。小学校1年の時、高梁ミニバスケットボールスポーツ少年団リトルマックスで競技を始める。玉島北中2年時にはジュニアオールスターで岡山県の初優勝に貢献し、3年次には全国準優勝の成績を収める。開志国際高(新潟)3年時にはインターハイ優勝を経験。大阪産業大では2年次から共同主将を務め、4年生の時に17年ぶりの全日本大学選手権(インカレ)出場に貢献。鋭いドライブと前線からのディフェンスを得意とする。174cm、75kg。
バスケットボール選手としては決して体格が恵まれているわけではなく、飛び抜けた身体能力があるわけでもない。
しかし、それは本人が一番分かっていることだろう。だからこそ、さらなる成長を求めて信州の門を叩いた。

「やっぱり(勝久)マイケルさんのバスケットはポイントガード(PG)がすごく頭を使うバスケットなので、信州を選んだ理由も『ガードとして成長したい』『少しでも長く続けていけるようなキャリアを作っていきたい』と思う上で、学びたいバスケだということで選ばせていただいた」
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移籍の背中を押した熊谷航の存在
スマートさ磨いてPG定着へ意欲
背番号からも「意欲」と「覚悟」が色濃くにじむ。
小栗が選んだ背番号11番は、昨季まで在籍していた石川海斗(現熊本ヴォルターズ)や、その前では熊谷(現長崎ヴェルカ)が付けていた番号となる。

特に熊谷とは秋田で2023-25年の2シーズンともにプレーしていた間柄。水を向けてみると、「アドバイスを受けた」のだという。それも、極めて重要な助言だった。
「『お前はどういうポイントガードになりたいの?』と聞かれて、僕が『こうなりたいです』と言ったら『お前はしっかりマイケルさんのバスケを学んでもいいんじゃない?』という話をいただいた」
「航さんが信州で11番を付けていた。ただ単に『航さんが付けていたから』ではなく、『信州では航さんを超えるようなポイントガードになりたい』という思いや、(自分自身に)プレッシャーをかける意味での11番」

熊谷のプレーを初めて観た時の衝撃が残っているブースターも多いのではないだろうか。
熊谷も身長173cmとサイズはないが、ディフェンスの強度やドライブの鋭さ、外角のシュート、リバウンドへの嗅覚など、どれも飛び抜けていた。
小栗の目の前にはスッと腰を落としてどこまでもついてくる熊谷の像が浮かぶ。その背中には、成長に期待する数千のブースターによる視線を受け続けることになる。

そのプレッシャーを乗り越えて成長を重ねた先に、自身が理想とするPGの姿がある。
「この身長なので得点が取れないと生きていけないし、ディフェンスもそう。(自分には)突出した能力があるわけじゃないので、スマートさを磨かないといけない」

昨年のチームの課題となったターンオーバーの多さを克服することも、小栗の求めるスマートさに繋がる。ピック・アンド・ロールを組み込んだ攻撃の多彩さにも影響してくるだろう。
理想とするPG像への成長を求め
「チームを引っ張る気持ちで」
今季の信州の戦術やラインナップがどのようになるのかはまだ不透明。2ガードとして試合に出る可能性もゼロではない。
選手にはそれぞれの役割があるものの、試合に出るためには、まずはチーム内で同じポジションの生原秀将や土家との競争を勝ち抜く必要がある。

特に土家とはミニバス時代からの戦友でもあり、親友だ。そこについてはどのような思いでいるのだろうか。
「ポジションが一緒なので複雑な気持ちもあったけど、『2人で信州を優勝させたい』『何かを2人で成し遂げてやろう』という気持ちにすぐ切り替えられた」
その答えは前向きなものであり、とても頼もしいものだった。厳しいプロの世界ではあるものの、学生時代の仲間と同じチームで再びコートに立つ。願ってもなかなかかなえられる巡り合わせではない。

最後に今季の意気込みを尋ねた。
「『B2最終年優勝』という目標に向かって、僕のできることは全身全霊で表現したい。Bプレミアに向けた大事なシーズンとなるので、僕としても新加入だからといって控えめに行かずに積極性を出したい」
「『チームを引っ張るぞ』というぐらいの気持ちをオンコートでもオフコートでも出して、少しでも信州を盛り上げたいと思う。ブースターさんにはぜひ会場に来ていただいて、一緒に戦ってもらえるとうれしい」

自身のプレーについても言及した。
「3ポイントシュートはもちろん期待していただきたいし、秋田ではすごくディフェンスが鍛えられたので、そこはマイケルさんも買ってくれているところ。試合を重ねるごとに良いパフォーマンスが出せるように努力していきたい」

その思いはまさに、チームのテーマである「日々成長」にもリンクする。
新天地での1年目のシーズン。熊谷を超えて、理想のPGへ進化を果たし、B2リーグ最後となる頂の景色を見届ける。