AC長野U-18が“三度目の正直” 受験真っ只中のプレーオフで北信越リーグ昇格

多難な道のりを越えてきた。AC長野パルセイロU-18は2015年11月24日、プリンスリーグ北信越プレーオフ参入決定戦を制し、初昇格が決定。3年連続3回目の挑戦で、“三度目の正直”となった。今季から就任した勝又慶典監督のもと、個々の強みを生かしたスタイルを熟成。若獅子たちの積み上げの軌跡をたどる。

文:田中 紘夢

受験シーズンに迎えるプレーオフ
心身ともにコンディションを調整

「ここ2年はプレーオフで昇格できなくて、自分もコーチとしてこの舞台の難しさは分かっていた。スケジュール管理を徹底して、できるだけコンディションが整うようにマネジメントしてきた」

長野県リーグ1部を3連覇し、3度目の挑戦となったプリンスリーグ北信越プレーオフ参入決定戦。勝又慶典監督は過去2大会にコーチとして携わり、敗北を味わってきた。

2回勝てば昇格というシンプルな構図だが、簡単な話ではない。

リーグ戦が終わり、約2カ月のブランクを経て挑戦。3年生にとっては大学受験の真っ只中でもある。練習参加の機会も限られ、心身ともにコンディション調整は必須だ。

「本当はもっと練習したかったけど、受験も人生なので…。なるべく試合当日に合わせられるように、内容も含めて調整してきた」

自分たちとの戦いだけでなく、相手との戦いも容易ではない。3年生の林麟太郎は言う。

「去年まではピッチの外から見ていたけど、『なんでうまくいかないんだろう』と思うところはあった。いつもだったらドリブルで行けるところが行けなかったり…。特に相手が2ndチームだったりすると、難しさも感じる」

1年目は帝京長岡3rdを相手に1回戦で敗れた。3年目の今年も、上越2ndとの1回戦はPK戦の末に勝利。 「3rd」や「2nd」の名を冠する相手に対し、下に見ているわけではなくとも、「勝てるだろう」という慢心が生まれがちだった。

そんな苦境下でも、持てる力を振り絞った。

上越2ndとの1回戦。圧倒的に攻めながらも決め手を欠き、終盤にかけて足をつる選手も続出した。0-0のまま迎えたPK戦でも、3年生たちが相次いで失敗。崖っぷちに追い込まれたが、GK茅野玄穂の連続セーブに救われ、なんとか翌日の参入決定戦に駒を進めた。

10番が帰還して鮮やかな連係
3年分の思いも込めて走り抜く

参入決定戦の相手は富山第一2nd。2014年に全国選手権優勝を遂げた強豪で、セカンドチームとはいえ侮れない。

決戦を前に、頼もしい10番も帰ってきた。前日に受験を終えたMF菅紀人が、当日朝にチームへ合流。先発復帰で堂々たるパフォーマンスを見せる。

8分。左ウイングバックの小林脩悟のフリックから、1トップの吾妻俐玖がボールを収める。シャドーの菅がサポートに入り、右ウイングバックの林麟太郎へ。クロスを吾妻がダイレクトボレーで沈めた。

3-4-2-1の布陣において、1トップ2シャドーを軸としたコンビネーションは最大の武器だ。「しっかり収めて、味方に繋いで、ゴール前に入っていくのは意識していた」とエースの吾妻。2シャドーの菅と赤川修吾との連係は、ブランクがあっても衰え知らずだ。

彼らを下支えする3バックも、キャプテンの塩入尚悟を軸に集中を切らさない。

31分にセットプレーから同点とされたが、流れの中では富山第一2ndのロングボールを封殺。168cmとひときわ小柄な塩入が中央で跳ね返し、2年生の宮澤柑太と竹松然も脇を固める。ダブルボランチの唐沢利哉と飛田隼人はセカンドボールの回収に奔走した。

後半は相手がハイプレスの圧を高め、前半のように崩せる場面は少なくなった。「ちょっと蹴る回数が多かったけど、自分たちの力は出せた」と塩入。相手の矢印を折りながら、71分に勝ち越しに成功する。

塩入のロングボールから、途中出場のFW鎌﨑蔵が収めて敵陣へ。2次攻撃、3次攻撃と厚みをもたらし、最後は林が右足でネットを揺らす。林の1ゴール1アシストもあって、2-1と勝利を収めた。

「リーグ戦でなかなか点を決められなくて、いろんな人から『頑張れ』と言われてきたので、大一番で結果を残したかった。後半の最初にシュートをふかしてしまったけど、そこで逆に落ち着きを取り戻せたと思う」

林に限らず、若獅子たちは3年分の思いを込めて走り抜いた。

日本一の鹿島を追い詰めた強さ
クラブOBでたすき繋いで成長

「鹿島まではいかないけど、勝負強さはものすごくついた。サッカーのスタイルもそうだけど、サッカーに向き合うマインドを突き詰める中で、こういう結果になったと思う」

就任1年目の勝又監督は、選手の成長に目を見張る。

夏の全日本クラブユース選手権では、のちに優勝する鹿島を1-2と追い詰めた。全国舞台でもスタイルを貫き、それが通用することを実感。選手たちの自信も増幅し、「立ち返る場所ができた」。

一方でエースの吾妻は、「あの日は鹿島相手に壁も感じた。そこをどうにか埋めたかった」。プリンスリーグ昇格はそのための通過点で、後輩への置き土産。「自分たちの代で上げるという責任と覚悟はあった。それを達成できてよかった」と笑みをこぼす。

キャプテンの塩入はトップチームに2種登録されながらも、昇格は叶わなかった。「自分の中では満足していない」と吐露しつつ、「もっと上のレベルに行けると思う。大学からプロになれるように準備していきたい」。

3年生だけでなく、勝又監督も覚悟をもって臨んだ1年だった。

宇野沢祐次前監督(現アカデミーヘッドオブコーチング)から指揮を引き継ぎ、スタイルをブラッシュアップ。サイドバックタイプの塩入を3バック中央に据え、ボランチの林をウイングバックにコンバートするなど、配置転換も図ってきた。

「個々の特徴を最大限に生かせるように考えてきた。結果を求められるのも分かっていたけど、選手が成長したことで結果もついてきた。プレーオフでは足が重い中でも、積み上げの成果が現れたと思う」

宇野沢から勝又へ。クラブOBの2人で襷を繋ぎ、選手の成長を促してきた。苦節3年でつかんだ北信越への切符を片手に、若獅子たちはさらなる階段を駆け上がる。


クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/
長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

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