女子・長野東が「都大路」で圧巻の連覇 真柴愛里は驚異の“留学生超え”区間新

雨の都大路を独走した。女子第37回全国高校駅伝(たけびしスタジアム京都発着、5区間21.0975km)が2025年12月21日に行われ、19年連続19度目出場の長野東が1時間6分30秒で2年連続3度目の優勝を果たした。前回大会を知るメンバーが4人入る中、区間配置を大きく変えての連覇。就任6年目の横打史雄監督も「『驚き』の一言」と目を丸くする、圧巻のレースを振り返る。
文:大枝 令
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第1中継所から5区までトップ維持
1区は川上がデッドヒートを制す
雨降る一人旅の果てに、歓喜のフィニッシュテープを切った。

長野東は大会記録にあと4秒と迫る1時間6分30秒とし、2位大阪薫英女学院に33秒差をつけて連覇を果たした。優勝校インタビュー。5区(5km)アンカーの2年生・今井玲那は西陣織のフィニッシュテープを手に、高揚した様子で言葉を紡いだ。
「ずっと1位で繋いできてくれた。自分がそのまま優勝して、笑顔でフィニッシュテープを切ろうと思っていた」

その言葉通り、濃紺のユニフォームに身を包んだ5人は先頭を快走。巻き戻すと、序盤からレースを主導できたのが大きかった。
まず1区(6km)に抜擢されたのは川上南海。エース区間を託されるほど成長した2年生は「集団の中で冷静にリズムを取りながらレースを進めていくことができた」と、冷静沈着にレースを進めた。

見せ場は最終盤だった。「後半が勝負どころになってくると思っていたので、しっかりと対応しようと思っていた」。残り500mで3人並んで先頭に立つと、一時は抜かれたがギアを上げて抜き返す。
「だんだん2区の(田畑)陽菜先輩の姿が見えていた。もうここまで来たら絶対に1位で渡す――という気持ちで、競り勝つことができてよかった」
19分6秒。区間賞の会心レースでリレーした。

そしてここから独壇場となった。2区(4.0975km)は主将を務める3年生・田畑。昨季は5区でフィニッシュテープを切った頼れる主将が、2年ぶりの2区を務める。
「5区を希望するところは少しあったけれど、キャプテンとして与えられた役割を全うしようと思った。そこからは前半区間に対応できる練習を自分の中で意識して取り組んだ」
「(3区の真柴)愛里にたすきを渡せることがすごくうれしかった。2区は流れを決める大事な区間。3年生としてキャプテンとして、自分が優勝に導くような走りをするという気持ちでずっと走った」

前半は得意の上り。強気で押す。「前半の上りでしっかりと攻めの走りをして、後半に粘れる走りを意識した」。流れを作るのに必要なのは「気合」と言い切る3年生が、後続との差を11秒に広げる区間2位(12分54秒)の走りで真柴に繋いだ。
「優勝するよ」
「わかった、ありがとう」
たすきを繋ぐ際、そんなやり取りがあったという。
2人だけの3年生のリレー。ともに伊那市春富中出身で、小学生時代の駒ケ根中沢RCも含めると7年間同じチームで切磋琢磨してきた間柄だ。卒業後の進路は別。この日が集大成のレースだった。

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3区真柴は“留学生区間”で区間新
世界見据える3年生が会心レース
そしてたすきを受けた3区・真柴の走りが鮮烈だった。
優勝した昨季は最長6kmの1区で区間賞だったが、今回は最短3kmの3区に配置された3年生だ。ただし、ここは仙台育英(宮城)のミリアム・ジェリなど留学生がひしめく区間。横打監督が説明する。

「留学生がいる上りの3区を僕は重要視している――という話を選手にはしている。ただの3km区間ではない。だから4番手、5番手を据えるような感じにはしたくない」
「(真柴は)世界クロカン勝負というのも年間のスケジュールの中で思っていた。そういう意味では留学生と合わせるのはより実戦練習というか、彼女の目的にばっちり沿った」
国際的な競争力を見据えてきた実力者。7月には高校生で2人だけ日本選手権の女子5000mに出場。11月末の世界クロスカントリー選手権U20日本代表代表選考会は5位に入り、代表に名を連ねた。一抹の不安を、発する強い言葉で自信に変換した。
「少し不安はあった。でも親とのLINEに『絶対優勝する』『絶対区間賞を取る』と送ってからこっち(京都)に来た。『絶対に勝つ』という気持ちで、自信はあった」

すでに単独走だったが、短い3kmでさらに大きく後続との差を広げる。前回大会の1区に比べて、半分の3kmは真柴にとってあまりにも短い。スピードに乗って走る間に早くも4区・本田結彩の姿を視界に捉えた。
「半分だったので短く感じた。結彩が見えるのもすごく早くて、『3km走ってきたのかな?』とちょっとびっくりした。結彩を見たらもう一回元気が出た」
9分6秒。区間2位のミリアム・ジェリに10秒差をつけただけでなく、前回大会でルーシー・ドゥータ(青森山田)が記録した区間記録を8秒塗り替えた。

実績十分の3人が想定を上回る圧倒的なレースを展開し、2位・大阪薫英女学院とは42秒の差。この時点で大勢は決した。指揮官が振り返る。
「真柴の3区が終わった時点で、この差はひっくり返らないだろうと思った」
優勝した前回から4人が区間変更
チャレンジして伸びて圧巻の出来
期待通り、4区(3km)の1年生・本田と5区の今井はともに区間3位の力走を見せた。

1996年に埼玉栄がマークした大会記録1時間6分26秒にはわずか4秒届かなかったものの、盤石の展開でゴール。もともと力はあって優勝候補の一角に数えられていたなか、「攻めの采配」も光った。

というのも、優勝した前回大会で真柴は1区、川上は2区、田畑は5区。今井も4区だった。ただ、「(同じ区間で)甘んじるのではなく、チャレンジすることで(選手は)すごく伸びる」と指揮官。前回大会を知る4人はそれぞれ別区間を走り、新境地を切り開いた。
そもそも今季は、“前回女王”の呪縛や重圧に負けなかった。国際大会を目標に据えた真柴を筆頭に、高い目線で日々を積み重ねてきたという。その証拠に、今大会の目標タイムは1時間6分14秒。日本高校記録を12秒上回るタイムだ。田畑主将が笑いながら明かす。
「一人一人が出した自分の目標設定を合計したら、とんでもない数字になっちゃった。でもそれだけ一人一人が攻めの走りというか、攻めの姿勢でこのレースに臨もうとしていたということだと思う」

指揮官もこの目標には目を丸くしたというが、「1年間の取り組みの素晴らしさ。私自身が逆に、生徒たちについていかなければいけない――と思う」。選手の姿勢と共鳴するかのように、攻めの区間配置で栄冠を引き寄せた。
公立校の長野東が日々の練習を重ねるのは、長野市・犀川の河川敷にあるクロスカントリーコース。アップダウンのある不整地で、舗装路より体への負担が少ない。
「前任の玉城(良二)先生が築かれたクロスカントリーコース。その玉城先生がやっておられた練習とか意味を私なりに解釈した結果、高校生にはこの練習が一番伸びる可能性があるんじゃないかと捉えた」

同校を全国区に押し上げた玉城前監督(現・日体大男子監督)の地盤を引き継ぎ、3度目の全国制覇を成し遂げた長野東。彼女たちの日々には地域住民も熱いエールを送っており、有形無形の支えも力とした。
「支えてくださっている方々であったり、12人の大好きな仲間たちのおかげで達成することができた優勝だと思う。『ありがとう』という気持ちが大きい」
そう振り返る田畑主将。感謝の思いをたすきに込めた、恩返しの2連覇でもあった。

(※男子の佐久長聖、長野日大も含めた長野県勢の記事は、Nsports書籍「長野の陸上競技2025総集編」に収録予定です)
















