“必勝”の気焔あげる「ゴリ」こと加藤拓己 声とプレーで“鍛造”の戦いを牽引

装い新たに船出する松本山雅FCに、とりわけ目立つ新戦力がいる。「ゴリ」の愛称で親しまれる、FW加藤拓己だ。180cm84kgの屈強な体格だけでなく、トレーニング中は盛んに鼓舞や指示の声を出してチームを盛り上げる。ピッチ外でも気さくなキャラクターで、新天地にたちまち溶け込んだ。2026年2月7日のJ2・J3百年構想リーグ開幕を前に、「声」と「プレー」で牽引する26歳の覚悟を届ける。

文:大枝 史/編集:大枝 令

おどけた仮面の奥にあるプロ意識
練習から意図的に多彩な声を張る

ウォーミングアップでは、笑いを誘うような大声でチームメイトを盛り上げる。その調子のまま、他の選手にも声出しを要求する。加藤拓己。明るいキャラクターで目立っており、新加入選手が15人と多い松本山雅の新たな熱源となっている。

実戦的な練習になれば、その声は一転して真剣味を帯びる。よく通る声で指示したり、檄を飛ばしたり。「ゴリ」という愛称さながらの体格も相まって、その存在感はひときわ強い。

しかし盛り上げ役の仮面を脱いだ奥には、シビアな「プロの顔」があった。

2月4日、鹿児島キャンプでのトレーニング。紅白戦の失点後に黙って肩を落とす選手たちの姿に、加藤はもどかしい思いを募らせていた。

「失点したりとかうまくいかない時に声が出ないのは、僕としては論外。うまくいっている時にしゃべるのは誰でもできる。うまくいっていない時に最低限必要なことはしゃべらないといけないと僕は思うし、それがこのチームはまだまだ足りない」

そう語る口調は、怒気を色濃くはらんでいた。

どんな試合であれ、劣勢の時間帯は必ずと言っていいほど訪れる。その時にピッチ内での声掛けで認識を共有できれば、難局の打開にも繋がる。実体験を基にそれを知っているからこそ、まず自らが行動で示す。

そもそも「攻守の切り替え」などと同様、「声出し」も習慣ひとつで変えやすい要素。日常的に声を出す習慣があって活気にあふれていれば、それが公式戦のピッチにもダイレクトに関わってくる――と加藤はみる。

「例えば若い選手や新人の選手がウォーミングアップの時に声が出ているかと言ったら、僕は出ていないと思う。そういう選手が試合中にしゃべっているかと言ったら、僕はしゃべっていないと思う」

「性格だから仕方ないとか、新人だから、若いから、上の選手がやってくれるからとか。僕はそうじゃないと思う。ピッチの中で矢印が、テンションが下に向いてしまうような選手が一人でもいるようなチームは僕は良くないと思う」

たたみ掛けるように、口調が自然と熱を帯びる。

自身は3度の前十字靭帯断裂に苦しみ抜き、プロ5年目で初の完全移籍を決断した。「遊びじゃない。仕事だし」。その言葉に、矜持がにじむ。

若手を支えながら泥くさく戦う
「ひるまずプレーできる環境を」

厳しい言葉を並べる半面、温かな眼差しも送る。そもそも今季は大卒5人を筆頭に若手〜中堅クラスを多く引き入れたため、平均年齢が24.59歳(1月13日現在)と大きく若返った。だからこそ加藤は、声で先導し続ける必要性をより強く感じているという。

「若い選手が多いし、例えば新卒の選手がスタメンになる可能性だってあるかもしれない。その選手たちが大声援の中で初めてプレーして、緊張しないわけがない。ミスをしないわけがない」

「そういう若い選手たちがミスにひるまずにプレーできる環境を作ることが、僕たちがしてあげられること。だからミスをしても声をかけ続けるし、そこのカバーに行く意識をより一層持っていかなければいけない」

自身は山梨学院高から早稲田大を経てプロ入りし、今年で27歳となる。チーム内では年上の部類に入り、「中堅」と呼ばれるポジション。チーム全体を考えて行動し、その労を惜しまない。

範を示すのは声だけではない。

2トップの一角を担い、前線からハードプレスに奔走。石﨑信弘監督が要求するのは「制限をかける」プレッシングではなく、「奪いに行く」本気の圧力だ。従来の価値観を脇に置いて適応を急ぎ、トレーニングを通じて体現できるようになってきた。

「僕はもうプライドも何もない。だから開幕戦で大宮の選手にボールを取られても食らい付いていく。そうやってサッカーをやってきたから、そういう戦いをしたい」

泥にまみれても戦うのが加藤の信条。それは海千山千の石﨑監督が描き出す新生・松本山雅のスタイルとも、ピタリと符合する。臆することなく挑戦する背中を、最前線から若い選手たちに示していく。

「負けていい試合は一つもない」
小さな街の未来を背負う覚悟で

気迫に満ちたスタンスで臨む、新天地での船出。難しいシーズンになるだろう――という見方を受け入れながらも、加藤は目の前の一戦に全身全霊を注ぎ込む決意だ。

「最初から厳しい戦いだとはわかっているけれど、少しでも諦めの心を持っていくのは違う。この松本山雅に来ると選んだ時から、松本山雅が負けることに対する嫌悪感は強い。シンプルに、負けていい試合なんて一つもない」

昇降格がないハーフシーズンのJ2・J3百年構想リーグ。J3松本山雅はJ2勢が10チーム中6チームを占めるEAST B組に入った。その中でも昨季のJ2最上位だったRB大宮アルディージャに、2月7日の開幕戦でいきなり挑む。

一方の松本山雅は石﨑新監督のスタイル浸透に着手したばかりで、新戦力が大半を占める陣容。例年より短い準備期間で、トレーニングマッチは2試合しか組んでいない。インテンシティでもクオリティでも組織の完成度でも、おそらく先方に一日の長があるだろう。

それでも――と、加藤は語気を強める。

「まずはメンタリティ。それがなければ今まで練習してきた『寄せ』だとか『球際』だとかも出ない。そこは考え方ひとつで変えられると思う」

たとえ跳ね返されても、挑戦を続ける。昨季はJ3のSC相模原で松本山雅との対戦経験もある加藤。相手として見ていたからこそ、感じる物足りなさもあるという。それを今度は新たな緑のユニフォームで体現し、導く。

「仲間が落ち込んだ時にもしかしたら去年は声をかける選手がいなかったかもしれないけれど、今年は僕がかけられるようになりたい」

「チームがうまくいかなかった時、つらくなってプレッシャーに行けなくなったかもしれないけれど、今年は僕が真っ先にプレッシャーを掛けに行きたい」

声と背中で松本山雅を牽引する覚悟。その原動力には、さまざまな要素が横たわっている。

「僕たちがプレーする結果によって、パートナー企業の方や応援してくれるファン・サポーターの方々、そして松本山雅というクラブの未来が変わってくる。それに対する責任感を持たなければいけない」

「僕もJ1清水(エスパルス)から完全移籍で来ているから、上のカテゴリーの相手と戦っても示さなければいけない。僕がここでできなければ、清水の名前にも泥を塗ってしまうことになる」

不要なプライドは捨てて身を投じた新天地。だが、おのずと背負うものは増えた。それら全てを屈強な体躯で引き受けながら、“必勝”の気焔をあげる。




たくさんの方に
「いいね」されている記事です!
クリックでいいねを送れます

LINE友だち登録で
新着記事をいち早くチェック!

会員登録して
お気に入りチームをもっと見やすく

人気記事

RANKING

週間アクセス数

月間アクセス数