古希を迎えた廣瀬龍監督 教え子たちの祝福と、残り4試合で見たい景色

中国・唐の詩人、杜甫は「人生七十古来稀なり(古来より70歳まで生きる人は稀である)」と詠んだ。70歳の長寿を祝う「古希」の由来だ。現代の70歳は現役として活躍する人も珍しくないが、プロスポーツ界の監督業を続ける例は稀だ。その境地に達したAC長野パルセイロ・レディースの廣瀬龍監督には、残り4試合となったWEリーグで見たい景色がある。
文:田中 紘夢
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70歳の指揮官に寄せられた祝福
想像していなかった未来の中で
「70歳のオヤジが、こんなに若い女子たちに囲まれるなんて…」

2026年4月19日。練習試合のロッカールームで誕生日を迎えた廣瀬監督は、選手とスタッフから古希祝いのちゃんちゃんこを着せられた。Tシャツとワインのプレゼントも受け取ったことを照れくさそうに明かす。
東京・帝京高の教え子であるサッカー男子元日本代表の稲垣祥(J1名古屋グランパス)やタレントのローランドらからビデオレターも寄せられた。抱えきれないほどの祝福を受け、「幸せだな」と喜びを噛み締めた。

山梨・帝京第三高と帝京大で指導に当たった後、03年に母校の帝京高監督に就任。高校サッカー界の名将・古沼貞雄氏の後を継いだ。11年をもって退任したが、「帝京で骨を埋める覚悟でいた」という。
その後は韓国の大学生やタイのプロチームを指導し、当時の本田圭佑ゼネラルマネージャーに誘われてカンボジア代表監督も務めた。AC長野パルセイロ・レディース監督就任は23年。経歴は多岐にわたる。
「海外に行くのも狙っていたわけではないし、まさか女子サッカーの世界に飛び込むとも思わなかった」と目を見開く指揮官。そもそも70歳まで現場で指揮を執ることも想像していなかった。

現在は帝京高の教え子である諸町光彦コーチに主導権を委ねながら、ピッチを広く見渡してアドバイスを送っている。それもまた思いがけない組み合わせだ。
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リーグ最下位で残り4試合へ
「躍動している姿が見たい」
就任3年目の今季は、暗中模索の日々が続いている。
リーグ戦は第5節の日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦から14試合未勝利で最下位。カップ戦も皇后杯は3回戦でアマチュアチームに敗れ、クラシエカップもグループステージで6戦全敗に終わった。
昨オフには前キャプテンのMF伊藤めぐみをはじめ、主力が相次いで退団。戦力ダウンは避けられず、「厳しい戦いになることは分かっていた」

シーズン中にも精神的支柱のDF橋谷優里が海外に移籍したり、キャプテンの稲村雪乃の負傷が長引いたり――。苦しい台所事情が続く中、残り4試合になっても打開策は見つかっていない。
それでも廣瀬監督は長年の経験を踏まえ、「サッカーはやってみないと分からない」と語気を強める。
「従心」とも称される70歳は、心のままに行動しても、道徳的な規範から外れることがなくなる境地だ。その心には監督としての矜持ではなく、「選手たちが躍動している姿が見たい」という純粋な願いがある。

「若いコーチたちも一生懸命にやってくれている中で、いま預かっている選手たちがどれだけ必死に戦ってくれるか。その上で勝ち点が取れれば一番いい」
小林伸二監督から得た気付き
選手の「一生懸命」を引き出す
「一生懸命」
ありきたりな言葉かもしれないが、名伯楽の口から発せられると説得力が増す。
3月末にJ3で戦うトップチームの指揮官に就いた65歳の小林伸二監督も、初陣で勝利した後には「一生懸命やったから勝てた」と、その言葉を使った。
マツダSC(現サンフレッチェ広島)出身の小林監督と、フジタ工業(現湘南ベルマーレ)出身の廣瀬監督。2人はJリーグの前身にあたる日本サッカーリーグでしのぎを削り、引退後も指導者として交友を深めてきた。
同世代の指揮官と長野で再会した廣瀬監督。小林監督が昨季から13連敗と低迷するチームを率い、初陣で勝利に導く姿を見て、改めて気付きを得たという。

「(小林)伸二がここに来て何を手がけたかと言えば、まずは基本に立ち返って、走りで厳しい思いもさせて…。今のサッカーでも基本をなくすことはできないし、戦術だけでは勝てない。『そういうことをやって飯を食ってきたんだ』と思えた」
旧友との思いがけない再会から刺激を受け、目の前の選手たちと向き合う毎日。その次は“一番弟子”との対戦も控えている。
4月25日にサンフレッチェ広島レジーナを迎えるホームゲーム。相手には昨季まで2年間、キャプテンマークを委ねた伊藤めぐみがいる。諏訪市出身の伊藤は身長150cmの小柄な体で躍動し、誰よりも走り、懸命に戦う選手だった。
伊藤は広島への移籍1年目で皇后杯優勝に貢献。リーグ戦でもAC長野との古巣戦で決勝点を決めた。廣瀬監督は教え子の活躍ぶりに目を細めつつ、前回対戦のリベンジも込めて「メグ(伊藤)が出ている中で勝ちたい」と意気込む。

「とにかくボールを奪って、前に向かって、きつい時も裏に走って…。惜しまずハードワークするしかない」
年輪を重ね、鋭かった眼光には温かみが加わっているかもしれない。それでも、勝負にこだわり、選手たちにハードワークを求める指導者としての厳しさは何も変わらない。
背中を押された選手たちが、古希を迎えた指揮官にどんな景色を見せてくれるか――。
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