「雨降って地固まる」 白井達也とサポーターがチャントで強めた“緑の絆”

失意に打ちひしがれた戦士の魂を、一曲のチャント(応援歌)が奮い立たせた。2026年4月29日、J2・J3百年構想リーグ第13節。松本山雅FCはジュビロ磐田をサンプロ アルウィンに迎え、PK戦にもつれこんで惜敗した。しかし、試合後。7人目でPKを外したDF白井達也はチャントを耳にした瞬間、たちまち全身に闘志がよみがえったという。選手とサポーターをつないだ、とあるチャントの物語をひも解く。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
今季3度目のPK失敗に落胆
失意の中で聞いた「リボルバー」
それは異質な選曲だった。
ほとんど手中に収めていた勝利を取りこぼした一戦。90+8分のPK失点で勝ち点3が消え失せただけでなく、PK戦でも先行しながら5-6と敗れた。ビルドアップにこだわる磐田を獰猛なプレスで制圧していただけに、後味は悪かった。
PK戦7人目の白井達也は、今季過去2回とも失敗していた。「ここで悪い流れを払拭したい――という気持ちだった」「ビビることだけは絶対にしたくなかった」。弱気をなぎ払うように放った強烈なシュートはしかし、無情にもクロスバーに嫌われた。

後攻の磐田がしっかり決め、勝負あり。“三度目の正直”はならず、“二度あることは三度ある”がまさった。
試合後。選手たちは重い足取りでピッチを一周し、最後に南側ゴール裏へ向かう。そこで白井は、耳を疑うようなチャントを聞いた。
「松本山雅 FORZA!」
「弾けろ山雅 俺たちの誇り」
普段ならこのシチュエーションで歌われるチャントではない。
自身が6日前のトークイベントで、お気に入りだと公言したチャント「リボルバー」。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「リボルバー・ジャンキーズ」を原曲とするアップテンポなメッセージが、打ちひしがれていた白井の全身に染みわたった。

「リボルバーだとすぐわかって、『あっ』と思った。本当に温かいな…と感じたし、山雅の一員として受け入れてもらえていることもすごく感じた。本当にありがたかった」
「こみ上げてくるものはあったけれど、もう次のプレーで示すしかないと――いうのを、その時に感じた。すぐにでも試合をしたい気持ちになった」
ただでさえ中2日の連戦で、フル出場。輪をかけて、自身のPK失敗が最終的に勝敗を分けてしまった。しかし疲労感と徒労感が重くのしかかっていたはずの心身に、たちまち力がみなぎった。

KINGDOM パートナー
トークイベントで示した山雅愛
コールリーダーの判断で返礼
「リボルバー」は、地域リーグ時代から歌い継がれてきたチャント。白井がその存在を知ったのは、松本山雅と対戦した際のことだったという。
「対戦相手として山雅と試合をすると、相手に流れが行った時にあのチャントが流れている印象だった。だからすごく嫌だったし…嫌だったけれど、心のどこかではちょっと『カッコいいな』という思いもあった。それで印象に残っていた」
その後に松本山雅のチャント集をYouTubeで視聴し、タイトルを知る。たしかに耳なじみのある曲だが、選手の口から「リボルバー」という名前が出てきたこと自体、極めて異例のことと言える。

白井はまず、松本山雅を愛した。J2でプレーする資格を有しながら、石﨑信弘監督のもとでJ3松本山雅に在籍する道を選択。決断に至る要素がいくつも絡み合った中で、サポーターの存在もウエートを占めていた。
「温かいサポーターの皆さんと一緒に戦えていることが、ここに来た意味でもある。そこに関しては本当に充実している」
だからこそすんなりと曲名が口をついて出たし、サポーターもその意気に共鳴したのだろう。判断を下したコールリーダー・新関孝典さんに経緯を聞いた。
選手があいさつに来る。アクションが必要だ。白井の名前をコールするべきか――?しかし、PKを外した選手はほかにもいる。「だから、コールをすることには自分の中で違和感があった。ほかの歌でも良かったけれど、彼に寄り添いたかった」

そのタイミングで新関さんは、オンライン視聴したトークイベントの一幕を思い出した。
「たまたま『リボルバーが好きだ』という発言を聞いていたのと、選手あいさつで白井選手の表情を見ていた時に、それがふっと降りてきた」
「実質3連敗という状況だけれど善戦したゲーム内容だし、連戦でもある。一つの壁に当たっている状況も含め、チームに対しても何か届ける必要があるな――と思った」
それは新関さんにとって、白井が表現した「山雅愛」への返礼でもあるだろう。こうして敗戦後の空気を一掃する勇壮なチャントが響きわたり、緑の友はその絆を強めた。
失地回復のチャンスは目の前に
首位・甲府との次節で恩返しへ
だからこそ白井は、次節への高鳴りをかき立てられている。
ただでさえ、ゴールデンウイークに伴うタフな5連戦。中2日の磐田戦はスタメン8人を入れ替えるターンオーバーに踏み切った中でも、白井は2試合連続でフル出場した。
それでも、疲れなどどこ吹く風。磐田戦翌日の4月30日午前。回復を主眼としたリカバリートレーニング後に声をかけると、その表情はすでに覇気がみなぎっていた。

「連戦でなければきょうは(午前と午後の)2部練習のタイミングだけれど、きょうはリカバリーで明日と明後日は1部練習。そう考えると、むしろ連戦のほうが楽だと思う」
石﨑信弘監督が指揮を執る松本山雅は、毎日のトレーニングが極めて高強度。もちろんトレーニングと試合は緊張感も異なるだろうが、日々極限まで追い込まれている身としては好都合なのかもしれない。

「気持ち的に落ちた次の試合が、本当に大事。リボルバーを聞いてこみ上げてきたものを、次の試合にぶつけるしかない」
リボルバーはそもそも、回転式の弾倉を持つ銃の名称。つまりターゲットを外しても、間髪入れず次の一撃を放つことができる。5連戦、名誉挽回の機会はすぐそこ。このチャントに救われた白井が次節、「俺たちの誇り」にふさわしい仕事を果たす。

5月3日(日) 松本山雅FC vs ヴァンフォーレ甲府 ホームゲーム情報
https://www.yamaga-fc.com/archives/539177














