リスタート元年の松本山雅 都丸善隆SDが描く“選択と集中”の強化戦略

文字通り、5カ月間を駆け抜けた。石﨑信弘監督を招聘したうえ、半数以上の15人を新戦力として迎えた松本山雅FC。J2・J3百年構想リーグの20試合をタフに戦いながら、チームの土台を構築してきた。都丸善隆スポーツダイレクター(SD)が改革を断行してからの「リスタート元年」。ここまでの進捗を点検しつつ、2026-27シーズンに向けた強化戦略などを都丸SDに取材した。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
大改革でもスムーズに戦術が浸透
J2クラブとの熾烈な戦いでも成果
終盤戦は尻すぼみとなったが、総じて振り返れば「上々」のリスタートと言えるのではないだろうか。
J2・J3百年構想リーグで、松本山雅のEAST-BグループはJ2が半数以上の6チーム。このうちジュビロ磐田、北海道コンサドーレ札幌、RB大宮アルディージャには90分勝利を挙げ、いわきFCにはPK勝ち。さらにプレーオフラウンド第1戦でもJ2のモンテディオ山形を延長戦の末に破った。

とりわけ、戦術の浸透がスムーズだった。前線からの強烈なプレスを、MF村越凱光やFW加藤拓己が体現。先陣を切る前線2人と連動し、中盤やサイドもアプローチを掛けてピッチを制圧する。
前半戦は5勝4敗の5位で折り返し、後半戦スタートの第10節大宮戦。プレスがおもしろいようにハマり、4-1と快勝した。

「僕自身もそうだけれど、能力の高い相手に大勝できたのは、チームみんなの自信になった。ここから後半戦、すごくおもしろい戦いになってくると思う」
中盤の一角で攻守に躍動したMF安永玲央は、納得の表情で振り返った。2023年夏に当時J2の水戸ホーリーホックから移籍してきた25歳。今季は石﨑監督のもとで輝きを取り戻し、誰もが認める中心的な選手となっていた。

安永を筆頭に、村越やDF樋口大輝など、新体制となって着実に成長した既存組の選手は少なくない。さらに、途中出場が大半でもチーム最多タイの6ゴールを挙げたFW藤枝康佑、3バック中央に定着したDF金子光汰など、大卒ルーキーも存在感を示した。

こうしたシーズンを、都丸SDは前向きに評価する。
「チームが大幅に変わったシーズンだったので、最初から噛み合うことはあまり想像しておらず、『もっと苦戦するかもしれない』『もっと時間がかかるかもしれない』と思っていた」
「けれど(初白星を挙げた第3節)磐田戦は粘り強い戦いができた。そこから粘り強く戦うベースが高まっている感覚を持てて、思っていたより早く噛み合って戦術が表現できるシーンが出るようになった」
KINGDOM パートナー
対策された後半戦は失速気味に
主力抜けると「選手層」の難題も
ただ、都丸SDは付け加えることを忘れない。
「その後、自分たちの狙いを外されたときに力が出せないシチュエーションが出てきた。そうなった時には実際、勝てずに失速した。まだまだ(自分たちのスタイルを)表現し切れないシチュエーションも起こり得てしまう」

実際、対戦が2巡目となる第10〜18節は3勝6敗(PK勝ち1、PK負け3を含む)。ロングボールを蹴られたり立ち位置を取られたり、いずれも看板としたいプレスを出させてもらえない試合が目立つようになった。
それと並行して浮き彫りになった課題が、「選手層」だった。4月5日、前半戦ラストゲームとなる第9節の試合後会見。指揮官は「先発の11人はある程度戦えるメドがついたと思うが、どうしてもメンバーチェンジが2人しかできない。今は12-3人で戦っている」と発言した。

もちろん指揮官の間接的な“ゲキ”に発奮し、意地を示した選手は少なからず存在する。しかし実際に安永の負傷離脱や村越の出場停止などで目に見えて全体のパフォーマンスが精彩を欠くことが多かったのも確かだ。
そして石﨑監督の発言は選手のみならず、都丸SDを筆頭とするトップチーム強化本部の喉元にも刃を突きつけるもの。都丸SDに、その受け止めをたずねた。

「まず僕らは『この選手たちで戦える』という期待を持って編成しているので、全員が戦力だと思っている。ただもちろん、イシさん(石﨑監督)が求める水準まで至っていない選手がいて、厚みを持たせ切れていない部分もあると思っている」
「ただ、一番は既存の選手たちがイシさんを見返すくらいの気持ちで、求めている水準をクリアしていくように奮起して成長してほしいと思っているし、今いる選手たちをベースにチームを作っていきたい」
ピンポイントの集中投資で補強し
石﨑監督の“眼鏡”にかなう陣容へ
ただ、今回の短いオフで動きがないわけではない。むしろ、「この1カ月は勝負」と都丸SDは表情を引き締める。
「もちろん課題に感じるシーンやシチュエーションはある。それを改善していくために、こういう選手が必要かな――とか、そういう選手を数ポジションは加えていきたい」
ここで難題が立ち現れる。

特別シーズンで浮き彫りになったように、石﨑監督はまず、守備時にコントロール外の事象が発生することを極力排除する。守備に関する原理原則の徹底的な遂行を求め、それを信頼の土台とする。
それに加え、今回のオフは契約の切れ目でフリートランスファーとなる選手の母数が少ないという。つまり、移籍金を上積みして獲得する必要性に迫られてくる。

「移籍金を払ってでも取らなければいけないウインドーになると思っている。当然、移籍金は安くないので、一人の選手を獲得するのに費やすお金が必要。そうなると、本当にピンポイントで必要なところの質を上げていく――という補強になる」
なおかつ、石﨑監督の求める水準をクリアする人材であることが大前提。必然的に「集中と選択」が求められることになり、さらに難度も高まりそうだ。

「例えば『速い選手』や『(身長が)高い選手』が必要かなと思いはするけれど、一芸はあってもベースがない選手は、石﨑監督の水準を満たせず起用されない可能性も十分あり得る」
「しっかりしたベースがあって、その上に鋭いストロングポイントがある選手をイメージしていても、3拍子そろった選手がゴロゴロいるわけではない。ずっと模索し続けている」

その一方、他クラブから興味を持たれている選手も存在する。短い選手生命の中でどんな判断を下すかは選手たち次第だし、低迷続きの松本山雅がステップアップを止められるだけの立場にないのは確かだ。
「選手を売却して、またいい選手を獲得して――というサイクルで選手の質を高めていくことも、中期的には考えなければいけない」
「ただ来シーズンに(J2)昇格を達成するために、やはりチームの屋台骨になってもらっている選手に対しては、全力で慰留をしていく。『一緒に戦っていこう』という姿勢で話をしている」
そう話す都丸SD。水面下で交渉を重ねながら、バージョンアップを具現化しようとしている。











