地域課題をスポーツの力で解決 信州SOIP始動、クラブが“共創のハブ”に

サッカー、バスケットボール、バレーボール、野球、フットサル。長野県内の8つのプロスポーツチームが、一つのプラットフォームに集った。長野県観光スポーツ部と一般社団法人nicollapが本格始動させた「信州SOIPコンソーシアム」だ。スポーツを核に地域課題を解決し、それをビジネスとして成立させる官民共創の枠組み。競技の枠を超えて、スポーツは地域に何ができるのか――。事務局を担うnicollapの西村祐介さんを取材すると、「社会貢献と興行の切り分けはもったいない」という、スポーツ界の常識への静かな問題提起が見えてきた。 

文:大枝 令

観る・支えるの先へ踏み出す
県内6クラブが同じテーブルに

SOIPは「スポーツオープンイノベーションプラットフォーム」の略称。スポーツ庁が市場の裾野拡大と地域活性化を目的に進める「全国版SOIP」の流れを受けて各地で地域版の取り組みが立ち上がっており、信州SOIPはその長野県バージョンと言える。

参画するプロスポーツチームは8つ。松本山雅FC、AC長野パルセイロ、信州ブレイブウォリアーズ、信州松本トライデンツ、信濃グランセローズ、ボアルース長野、信州ブリリアントアリーズ、長野GaRons。普段はそれぞれのリーグ、それぞれのカテゴリーで戦うクラブが、「地域課題解決」という同じテーブルについた。

設定された共創テーマは、健康事業、地産地消、観光、移住定住・持続可能性の4領域。人口減少、観光・モビリティ、健康増進といった「長野県が抱えるリアルな地域課題」に対し、クラブの持つ資産と、企業・スタートアップの技術やサービスを掛け合わせて解決策を生み出す。

そしてその解決策を、公費やボランティアではなく「持続可能なビジネス」として成立させることを目指す。

協賛規模は成績次第という限界
「社会貢献をお金に換えていい」

構想の起点は、派手な打ち上げ花火ではなかった。

「もともとは昨年、スポーツチームの持続性をテーマにした経営力強化セミナーを4回実施したのがきっかけだった。ガバナンスやマネジメントの領域もあるけれど、最終的には収益をどうするか。どれだけ人を巻き込み、関係人口を増やせるか…に行き着く」

nicollapで事務局を務める西村祐介さんはそう話す。セミナーを重ねる中で感じたのは、「広告としての協賛」という考え方から一歩踏み込む必要性だ。

「チームの成績やポジションが変わらない限り、スポンサーフィーは簡単に上げられない。物価が上がったからといって、『協賛額を1.5倍にしてください』という通りにはならない。既存の協賛を増やそうと思えば、多少リスクを取ってでも事業化し、プラスアルファを作っていくしかない」

そして、この事業に横たわる思想の核心を、西村氏はこう言い切った。

「多くのスポーツチームで、社会貢献事業と興行が切り分けられている。社会貢献はお金を出費するものという考え方になっている。『それではもったいない』というのがSOIPの発想だと思う」

社会課題の解決に資する活動を協賛の新しい理由とし、クラブの収益源に育てる。県内では松本山雅FCが中学校の部活動地域移行をビジネススキームとして成立させるなど、先行例がすでにある。こうした動きを個々のクラブの自助努力で終わらせず、仕組みとして県全体に広げる器が信州SOIPだ。

西村さん自身、アスリートのマネジメント会社に約20年身を置いた経歴を持つ。引退した瞬間から露出が減り、いくつかの段階を経て難しいシチュエーションになっていくのを見続けてきた立場。スポーツの価値を、競技の外でマネタイズする回路を――。この事業には、スポーツビジネスの現場を知る者の実感が通底している。

入会金無料の2つの参加形態
最大100万円の実証支援も

参加の入り口は2つ用意されている。いずれも入会金・参加費は無料だ。

1つは「コンソーシアムメンバー」。スポーツを起点とした地域課題解決や新ビジネスに関心のある企業・団体・自治体・大学などが対象で、定期的な情報共有やプロスポーツチーム・行政・学術機関との横断的なネットワーク形成に参加できる。すでに約30の企業・団体が名を連ねており、初年度は50〜70程度への拡大を見込む。

もう1つが「共創提案者」。クラブや地域のフィールドと連携し、具体的な事業創出や実証実験(PoC)を行いたい企業・スタートアップを対象とする。採択されたプロジェクトには1件あたり最大100万円の実証支援金が支給され、事務局によるメンタリングやクラブとのリレーション構築といった伴走支援、広範なステークホルダーとメディアが集う成果発表会「DEMO DAY」(2027年2月予定)での発表機会が提供される。

共創提案の応募締切は2026年7月31日。一次審査で最大8件が採択され、実証を経て中間審査で最大2件程度に絞り込まれる。

では、どんな共創がありうるのか。西村さんは、長野ならではの視点を挙げる。

「例えば長野県は広いし、それぞれのクラブを見てもスタジアムやアリーナが駅の近くにない。観戦に来た人の動線を、モビリティも含めてにぎわいに変える事業者が出てくるといい。また、観戦チケットを購入する層は年齢が高い。この世代をターゲットにした健康事業なども、事業化しやすいかもしれない」

いずれにしても大切なのは、「地域課題」に対して、個々が持つ能力や特性をどうアプローチできるか。それを組み合わせ、ソリューションを生み出すプラットフォームとして機能する。

勝敗の外に価値の鉱脈がある
共創の入り口はすでに開いた

クラブが持つ資産は、勝敗や順位だけではない。数千人が集まるホームゲームという実証フィールド、地域で最も注目される選手という発信者。行政から企業までを横断するステークホルダーの網の目。信州SOIPは、これらを「共創のハブ」として開放する試みだ。

「こんなことを考えている事業者がいるのか、うちのサービスはスポーツに使えるのではないか。そう気づいてもらえる場にしたい」

看板を出す、ユニフォームにロゴを載せる。そうした従来型の協賛の先にある「新しい関係性」を、クラブと企業が一緒に設計する時代が始まろうとしている。

タグラインには、こうある。

「スポーツが、長野の未来をつくる。」

スポーツの構造としてもちろん、スタジアムやアリーナに価値の根源がある。ただ、そこから派生する価値を最大化できているかどうか――は、また別の話。勝敗の外側に眠る価値を、新たに探し求める営み。仕組み化して開かれた「共創」の入り口から、スポーツの意義を耕していく。


信州SOIP公式サイト
https://shinshu-soip.jp/

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