熊本産のカスミソウ・山田航旗が体現する “名脇役の流儀”とは
ミドルブロッカー(MB)山田航旗は陰日向に咲く。決して目立った存在ではないかもしれないが、2024年12月以降は連続して出場機会を得ている。VC長野トライデンツの一員となって4シーズン目。持ち前の機動力を生かして攻守に貢献しており、クラブ初の6勝目に至る道のりを下支えしてきた。2月1-2日のホームゲーム・東京GB戦を前に、その魅力をときほぐしていく。
文:松元 麻希/編集:大枝 令
主役を引き立たせる堅実なプレー
歴史的な白星にも大きく貢献
飄々とそこにいて、淡々と仕事をこなす。
喜びの感情表現も、コート内では控えめだ。
ウルリック・ダールや工藤有史がバラやダリアなら、山田はさしずめカスミソウだろうか。決して目立たずとも、その存在なくして花束は成り立たない。
ウルリックが右から、工藤が左から強打を放つ。ローテーションによってはパイプも選択肢。それがチームの得点源であることは間違いないだろう。だがそれは、山田が中央で静かな脅威を常にちらつかせているからでもある。
機動力を生かした、素早いクイックを武器とする。今季は18試合37セットで44得点(アタック決定率56.4%)。自ら決めるだけでなく、デコイとしても機能する。
「早いスパイクを打つのもそうだけど、早い分だけ相手のMBが少しでも引っかかったら、サイドのスパイカーに行けなくなる。そういう囮の役割も大事だと思う」
彩り鮮やかな主役級の花々を、引き立てる。
勝利に至り、チームが大輪の笑顔を咲かせればいい。
もちろんその中で、自身が主役に躍り出る瞬間も少なからず存在する。例えば金星を挙げた第13節WD名古屋とのGAME1、第1セット。山田のクイックがブロックアウトとなり、25-21で先取に成功した。
それ以外にもこの試合ではクイックやブロックを要所で決め、歴史的な一勝の立役者となった。サーブを打つ際には、観客席からのコールも自然と湧いて出る。たとえ派手さはなくても重要なピースであることを、ファンは知っているのだろう。
「強いチームが自分たちに負けて、どんよりしていた」と不敵に笑う山田。落ち着いた語り口で取材に応じる中でも、その瞬間は負けん気の強さが垣間見えた。
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反骨精神が切り拓いたキャリア
生まれ育った熊本では震災を経験
熊本県八代市出身で、バレーボールを始めたのは小学1年生。ママさんバレーのコーチをしていた母親の影響で、地元のクラブチームに入った。
PROFILE
山田 航旗(やまだ こうき)1999年10月7日生まれ、熊本県出身。鎮西高3年時にインターハイと春高バレーで2冠を経験。21年の福岡大4年時にVC長野トライデンツの内定選手となり、2022-23シーズンに正式加入。スピードを生かしたアタックやとブロックに加え、相手を翻弄するフローターサーブでチームの躍進に貢献している。190cm、80kg。最高到達点335cm。
進学した中学校は強豪校ではなかったものの、自身はJOC都道府県対抗大会の県選抜に選出。県下の名門・鎮西高の宮迫竜二コーチから声がかかった。
入学当初、2学年上に西田寛基(サントリー)、1学年上に宮浦健人(STINGS愛知)。そして同学年に鍬田憲伸(ヴォレアス)。県内では負けなしだった。
しかし2016年4月、苦難が訪れる。
熊本地震。学校も大きな被害を受け、体育館が半壊となったのだ。
練習拠点を失ったチームは、バスで片道1時間以上かけて他校の体育館を借りることに。限られた時間と環境での練習を余儀なくされた。時には校庭にコートを作り、屋外の土の上でバレーをしたこともあった。
「体育館が使えない分、トレーニングをしたり、外で練習できたことがよかったのかもしれない。(屋外は)体育館と違ってしっかり踏み込まないとジャンプできない」
そんな逆境にも関わらず、3年時はインターハイと春高で2冠を達成。水町泰杜(WD名古屋)と荒尾怜央(ヴォレアス)の二枚看板を擁していたことも大きかったが、自身の負けん気も原動力になっていた。
「色々と悔しい思いをしたけれど、反骨精神で頑張れた」
淡々としているようでいて、やはり胸に期するものはある。それは反骨心だけでなく、他人の情熱に共感する熱い心もそうだ。
福岡大1年時。当時4年生だった元VC長野の池田幸太(ヴォレアス)がいた。普段は感情を見せないタイプだと思っていた池田が、最後のインカレで敗戦した後に整列をしながら涙を流していたのだ。
「池田さんの姿を見て、自分ももっと頑張らないといけないと思った」
心新たにバレーボールと向き合う決意を新たに。インカレなどでは結果をつかめなかったものの2021年、池田の縁から声がかかってVC長野の内定選手となった。
リベンジマッチを制するために
故郷の花として陰日向に咲く
そして現在は、波佐間泰平に次ぐ在籍年数。寡黙な仕事人として定着し、川村慎二監督も「山田は計算できる」と信頼を寄せる。
「(VC長野に)拾ってもらった恩もあるし、強いチームを倒す下克上のほうが自分はいいと思う」。一貫したメンタリティでプレーを続け、格上に挑み続ける。そして今季は早くも過去最多の6勝目を挙げた。
「組織的なバレーができれば上位にも引けを取らないプレーができることを今回実感できた。この部分をやっていけたら、今年の目標の10勝を達成…もしくは越えられるんじゃないかと思う」
次節はリベンジマッチ。反骨精神をむき出しにするにはうってつけの、東京GB戦だ。今季は4戦4敗となっており、ホームのスワンドームで“五度目の正直”を実現できるか。歴史的な激戦を制したWD名古屋戦のように。
「(東京GBは)速さがあるのと、ただ強い球を打つだけではなくブロックの間を狙ってくるなどうまさがある。組織的なバレーができているチームなので、自分たちも負けないぐらい、組織的なバレーを磨いて臨みたい」
飄々と、淡々と――。
秘めたる情熱を抱えながら、格上を食らうための舞台に向かう。
長野県での生活も慣れてきた。春にはドライブにふらりと出かけ、国営アルプスあづみの公園の花々を眺めて英気を養った。「ただボーッと眺めているのがいい感じ」なのだと明かす。
色とりどりの花を愛で、自分も生きながらチームの力を最大化し、勝利を下支えするのが流儀なのだろう。花束を引き立たせるのに欠かせないカスミソウ。それは熊本県が日本一の出荷量を誇る花でもある。
山田航旗、25歳。
故郷での苦楽を糧に、遠く信州の地で陰日向に咲く。
SVリーグ第14節 東京GB戦(2月1-2日)試合情報
https://vcnagano.jp/information/16935
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461