“不屈の声”でアリーナを変える古藤宏規 弱音と薬を飲み込んで

コートサイドから響く、ひときわ大きなサーブ時のコール。その熱源となっているのは、VC長野トライデンツに正式加入して2年目のリベロ古藤宏規だ。中学1年時に難病のネフローゼ症候群を発症し、「バレー人生の終わり」を覚悟した経験も。さまざまな試練と忍耐を超えた先に発する、その“声”に耳を傾ける。
文:大枝 史/編集:大枝 令
躍進を支えるムードメーカー
会場を巻き込むサーブコール
古藤宏規は笑う。
全てをのみ込んで、笑って、声を張る。
加入2年目のリベロ。今季、SVリーグでの出場は一度もない。
それでもタイムアウトが終わる時には、選手一人一人とタッチしてコートへ送り出す。チームが勝てば、全力でコートへ飛び出していく。

「負けず嫌いなんで、自分が出ていようが出ていまいが負けるのは嫌い」
たとえコートに立てずとも、できることはある。「声」だ。ホームはもちろん、アウェイの地でも響き渡るサーブ時のコール。その中心を担うのが、ほかならぬ古藤だ。
リザーブメンバーとファンが一体となった熱が伝播し、節を追うごとに相手チームのファンをも巻き込んで大きくなっていく。アリーナ全体が臙脂色の熱気に包まれる。

上位のチームに対して、個の力ではかなわない側面もある。それでも全員の力で、勝利を積み上げてきた。
格上に囲まれたリーグで戦っていくために不可欠な一体感――。No.7のムードメーカーは、その熱源となる。アリーナにとどろくその声が果たす役割は、決して小さくない。

PROFILE
古藤宏規(ことう・ひろき) 2000年4月14生まれ、大阪府出身。清風高校3年時にはキャプテンとして出場した春高バレーで準優勝、ベストリベロに輝いた。中京大4年時の2022年、VC長野トラデンツの内定選手となる。2023-24シーズンに正式入団。170cm、71kg。ポジションはリベロ(L)。
中学1年でネフローゼ症候群に
小児科の友人から勇気をもらう
日の当たる道を歩いてきた。
――少なくとも、表面上は。
小中学生時には全国大会に出場。清風高3年時はキャプテンとして春高バレーで準優勝し、ベストリベロにも輝いた。

その輝かしい経歴とは裏腹に、古藤が歩んできた道は平坦とはほど遠いものだった。
バレーボールを始めたのは小学校3年生の時。それまではソフトボールと並行していたが、「全国大会で通用する方にしよう」とバレーに一本化した。
ところが中学1年生の時、難病のネフローゼ症候群を発症。タンパク質が尿から漏れ出す腎臓疾患だ。身体のむくみや運動制限を伴い、日常生活にも大きな影響を与えた。

「頑張りたいと思っていたときになった。バレー人生が終わった…と思った」
それでも古藤をバレーに繋ぎ止めていたのは、縁であり、人だった。
小児科病棟には、自分より強い薬を服用している人がいた。点滴を打っている人もいた。もうサッカーができない人もいた――。そんな友人ができた。
「周りが頑張っているのに、負けている自分が情けなくなった。僕は運動制限がかかるけど、それを乗り越えれば復活できる。我慢できたし、頑張れた」

高校、大学でも症状が再発した時期はあった。試合に出たいがために「薬を飲んで治った」と平然を装い、「めっちゃキツい中でプレーしていた」という経験もある。
VC長野に加入して以降は、幸いにして再発はしていない。ただ、今でも毎日10錠前後の薬を服用しているという。
難病を抱えながらバレーを続けてきて「しんどいことの方が多かった」と率直に明かす。病気を理由にしたくなったこともあるだろう。それでも、自分に嘘はつけない。

「一つのボールに対して、6人全員で床に落とさないように繋いでいく。他の競技とは全く違ってすごくおもしろい」
人との繋がりを大切にしながら難病と闘い、ボールも繋ぐ。そのスタイルは、コートに立っても変わらない。
百折不撓の魂で役割を果たし
“声”を武器に勝たせるリベロに
リベロとして自負する持ち味も、コートサイドと同じ「声」だ。
チームとしての約束事はありつつ、その中でブロックをコントロールする役回りがリベロ。トータルディフェンスの要となる。
「自分のプレーを100%出すのではなく、チームを勝たせられるリベロをずっと目指している」

今はコートサイドで声を張り上げながら、目指す姿への手がかりをかき集める。例えば山本智大(大阪B)や小川智大(STINGS愛知)。「数字に表れない部分が本当にすごい」とつぶさに観察して着想を得た。
「試合に出られていない僕からしたら、見られるチャンスがたくさんある。どう指示しているのか、どう声掛けをしているのか。ポジショニングも含めて毎回勉強になっている」

とはいえアスリートである以上もちろん、試合には出たい。しかしリベロは備一真が安定したパフォーマンスを発揮しており、難波宏治も含めた競争で上回る必要がある。現実は、そう簡単にはいかない。
「実はメンタルが崩れまくっている時も全然あるし、ボコボコにやられている時もある」
そう明かす古藤。直近でも仲の良かった親戚が亡くなり、「僕の魂が半分くらい消えてしまったような感覚だった」と悲嘆の底に沈んだ。
それでも――。

「でも、めげないこと。技術も指示力も、全てがみんなより上に行かないといけない。僕が出て、絶対に勝つのが目標」
アリーナの熱源にもなる大きな声は、コートの中でも違わず仲間に届く。目標を達成するまで、耐え、忍ぶ。

こぼれそうになる弱音も、ネフローゼ症候群の薬も。全てを飲み込んで、笑って声を張り上げる。時にはサーカスのクラウンのように、ひょうきんに振る舞いながら。
次節は極寒のアウェイ・ヴォレアス北海道。その声が、叫びが、仲間を動かし、VC長野を勝利に導いていく。

クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461