貪欲さ際立つ樋口裕希 「踊り場」のチームに吹き込みたい“力への意志”

すでに8勝。 VC長野トライデンツはリーグ後半戦に入って以降も、WD名古屋や東京GBなど上位陣からも勝利をもぎ取ってきた。日本代表アウトサイドヒッター(OH)髙橋藍を擁するサントリーとも激戦を演じた。一定の手応えを得てきた半面、OH樋口裕希は「ふわふわしているというか、勝ちにも負けにも慣れてきた感じがある」と指摘。2025年3月15-16日のヴォレアス戦を前に、その言葉に耳を傾ける。
取材:松元 麻希/編集:大枝 令
全体練習後にブロックの自主練
28歳を衝き動かす成長への意欲
3月5日、南箕輪村民体育館。
チームの全体練習が終わってゆるやかに解散しつつある中、一人の選手が倉庫から胸の高さほどある大きなボックスを運び出してきた。
樋口裕希だ。
そのボックスをネットの反対側へ置き、上に乗った相手が投げ込む高いボールをブロック。居残りの自主練習に、黙々と取り組んでいた。

「自分のブロックポイントの数が増えたら、特に勝負どころのラリーでポイントが取れたら、もっと楽に取れるセットも出てくると思う。ブロックに重点を置いてやっていきたい」
もともとブロックは自身の武器。「効果的なタッチであったり、後ろがレシーブしやすい形はある程度できている」と言いつつも、物足りなさを口にする。

「キルブロックの回数が少ない」。それを磨くため、全体練習が終わった後で自主トレーニングに打ち込んでいた。
チームに5人在籍するプロ契約のうちの一人。貪欲で、常に成長を渇望しているアウトサイドヒッター(OH)――。言動からは、そんなパーソナリティがにじむ。

チームに対しても、物足りなさを率直に口にする。
「ふわふわしているというか、勝ちにも負けにも慣れてきた感じがある。もちろん一戦一戦、戦おうという意識は最初から強くあると思うけど、『貪欲さ』という意味では、ここ数週間の練習や試合の中で欠けているというか…」
同様の危惧は、8連敗していた当時も訴えていた。
慣れを避けて刺激的な新天地へ
チームの“3本柱”の一角を担う
そもそもVC長野に移籍したのも、「貪欲さ」が大きな原動力となっていた。
筑波大時代に日鉄堺BZの内定選手となり、昨シーズンまで6年間在籍。しかし、「長く在籍することで少し慣れてしまった。もう一回、自分を厳しい環境に置いてどれだけ頑張れるかを試したかった」と振り返る。

新天地では同時期に日鉄堺BZから移籍した同い年のOH迫田郭志とともに、経験ある日本人選手としてチームの核を担う。頻繁に周囲に声をかけて鼓舞したりアドバイスしたり。ブロックディフェンスで果たすべき役割は大きく、直近は課題のレシーブも安定してきた。

PROFILE
樋口 裕希(ひぐち・ゆうき)1996年4月27日生まれ、群馬県出身。高崎高から筑波大を経て2018年、V1堺ブレイザーズに入団内定。18-19シーズンから内定選手として試合に出場した。2019、20、22年には日本代表登録メンバーに選ばれ、22年はアジアカップ準優勝に貢献した。ブロックに定評があるアウトサイドヒッター(OH)。192cm、85kg。最高到達点344cm。
川村慎二監督も、その存在価値を口にする。
「まだ8勝しかしていないけれど、落ち込むことなく前を向いて頑張っていると思う。今年から入った樋口、迫田がすごくチームを引っ張ってくれていて、プラスになっている」
この2人に1学年下のリベロ(L)備一真も加えた日本人のプロ3選手が、コート内外でそれぞれのリーダーシップを取っているのが今季のVC長野だという。樋口が明かす。

「三者三様のリーダーシップの取り方をしている。僕は言葉や態度、雰囲気でみんなを巻き込んでいくタイプ。迫田は寡黙だけどプレーで引っ張る」
「備は一見リーダーシップを取っているように見えないけど、彼がいないと成り立たないサーブレシーブがあるので、そういう意味で核になっている。三者三様の柱が3本立っているイメージ」

若い選手から刺激得て自らの力に
「負けたくない」という思いも
それ以外の若手からも、樋口は貪欲に刺激を受けて自らの力に変える。例えばOH工藤有史。同じポジションで、大卒1年目に当たる成長株だ。
「いいものを持っているがゆえに逆に僕も『負けたくない』という思いもある。彼から学ぶこともあって目標することもあるし、僕が経験として持っているものは彼にも教えられる」

セッター(S)の早坂心之介と糸山大賀、ミドルブロッカー(MB)山田航旗、安部翔大、安原大。オポジット(OP)飯田孝雅もそう。この面々は週末に国内最高峰SVリーグのコートに立ちながら、平日午前はそれぞれの勤務先で仕事に従事もしている。

「若くてバレーボールが本当に大好きな選手が多いと思う。仕事に就きながらプレーしている選手もいたり、難しい環境ではあるけれど、やっぱりバレーボールが好きでみんなやっている」
「そういうバレーボールが大好きな選手たちに、プロの僕たちも負けちゃいけないと思う。本当に良い環境というか、良い関係性でやれている」

2試合とも完敗だった前節バネに
“力への意志”をチームの熱源に
広島THとの前節は2試合ともストレート負けを喫した。内容もふるわず、2試合6セットは全て10点台。「20点台からの勝負」にフォーカスしたい局面だったものの、そこに持ち込む以前の問題だった。
ここでもう一度、全員が「1勝」に飢えていた頃に立ち返り、バレーボールへの情熱をたぎらせて目の前の一戦に挑めるか。28歳のプロバレーボーラー樋口裕希が持つ渇望を伝播させながら、リバウンドメンタリティを発揮したい。

「もっと勝ちに貪欲に一生懸命頑張る姿を、ファンの方、スポンサーの方に見せないといけない」。樋口の根本にあるのは、プロとしての姿勢だろう。見られて初めて成り立つ存在であることを、その言葉は雄弁に物語る。
「VC長野に来て改めて思うことは、地域の方との繋がりを感じること。試合でもファンの方々の声援が聞こえてくるし、ものすごく力になっている。それは本当に良いところだと思う」

群馬県出身。中学時代にドッヂボールを続ける環境がなかったため、バレーボールを始めたのがきっかけだという。そこから徐々に頭角を表した原動力もやはり、能動的な動機付けだった。
「続ける過程でやらされたことは一回もなく、指導者の方に『自分で考えてやれ』と言われてきた。そのおかげで、バレーだけではなく自分で考える力がついたと思う」

内なる渇望を満たすべく、新天地に身を投じた。
周囲からの刺激をすべて、自らの力に変える。
そしてチームに勝利への意志を植え付ける。

2025年3月15-16日の次節は、ホームのヴォレアス戦。樋口はコートの中でも外でもそのエネルギーを発揮し、若きチームを勝利へ先導していくのだろう。
SVリーグ第19節 ヴォレアス戦(3月15-16日)試合情報
https://vcnagano.jp/information/17345
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461