獰猛プレスと後方のアラートさを両立 成功体験を得た“210分間無失点”の守備

したたかさが芽生えてきた。AC長野パルセイロはJ3リーグ開幕から5試合を戦い、1試合未消化ながら7位。3勝2敗と上々のスタートを切った。プレシーズンでは練習試合で大量失点も続いたが、現在は公式戦2試合連続のクリーンシート(無失点)と改善の兆しが見られる。その理由はどこにあるのか、選手や藤本主税監督らの言葉から探っていく。

文:田中 紘夢

知識→意識→無意識と段階を踏み
守備戦術がチームに浸透

210分間にわたって無失点が続いている。

ルヴァンカップ1stステージ1回戦ではJ1の東京ヴェルディを相手に、延長戦も含めて120分間スコアレスドロー。最後はPK戦の末に敗れたが、GK松原颯汰を中心に21本ものシュートを打たれながら耐え抜いた。

©2008 PARCEIRO

そこから中2日で迎えたリーグ第6節の福島ユナイテッドFC戦も、2-0と完封勝利。GK松原の見せ場も少なく抑え、210分間無失点となった。

東京V戦で3バックの大野佑哉と砂森和也が負傷交代。福島戦は2人を欠く中での戦いとなったが、冨田康平と石井光輝が奮闘した。

「誰が出てもチームの規律があって、やるべきことを把握できている」と冨田が言えば、今季初先発となった石井も「常に準備してきたところはあった。(失点)ゼロで抑えて勝てたことは評価できると思う」と手応えを口にする。

©2008 PARCEIRO

昨季はリーグ4番目に多い失点数(57失点/1試合平均1.5)。今季は藤本主税新監督のもと、守備の改善が求められていた。

しかしプレシーズンの練習試合では東海リーグ1部の岳南Fモスペリオに5失点し、同カテゴリーの栃木シティにも8失点。開幕前から苦難が続いていたものの、乗り越えて成果が表れつつある。

「馴染んできた感じはある。それこそ知識・意識・無意識ではないけど、最初は知識が入って意識してやっていた段階だったと思う。それが少しずつ無意識になって、『ボールがこうなったときはこう戻るんだ』とか、自然とできるようになってきた」

何かが変わったというよりは、指揮官が言うように戦術の浸透が要因だ。

「前線守備」と「後方守備」
ともに機能して成功体験を得る

今季は藤本監督のもと、3-1-5-1のシステムを継続(従来は3-3-1-3と記述していたが、3-1-5-1のほうが理解しやすい)。「前線守備」「後方守備」と2つに区分けし、前線はハイプレスを身上としている。

3バックの一角やアンカーも押し出し、相手をマンツーマン気味に捕まえるスタイル。縦ズレやスライドの距離が求められる中で、マーカーに対して行ききれなかったり、その背中を味方がカバーできなかったり――。トライ&エラーを繰り返してきた。

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そのタイミングが徐々に合ってきた中で、第3節のザスパ群馬とのホーム開幕戦で成功体験を得る。GKも交えて丁寧にボールを繋ぐ群馬に対し、高い位置でボールを奪ってショートカウンターから得点。プレシーズンからの積み上げが実った。

前線守備が噛み合う一方、後方守備では苦戦も強いられる。第2節のギラヴァンツ北九州戦から3試合連続で2失点。カウンターの緊急対応を誤ったり、簡単にクロスを上げられたり――。守備のアラートさを欠いた。

©2008 PARCEIRO

そこから現在は2試合連続無失点と改善。ルヴァンカップ1stステージ1回戦の東京V戦ではGK松原に再三救われたが、直近のリーグ第5節・福島戦ではチームとして守り切ることができた。

ビルドアップで中央に人数を割いてくる福島に対し、チームとして中締めを徹底。4-3-3の福島に対し、3-1-5-1の長野はウイングバックが内側に絞り、3-3-3-1のような形を取る。最も危険な中央に縦パスを入れさせないのが狙いだ。

©2008 PARCEIRO

福島のサイドバックが外側に開いてくる際には、左シャドーの藤森亮志がスライド。しかし、間に合わずに2列目のラインを越えられてしまうこともあった。

そこで指揮官は相手選手の治療中、藤森と左ウイングバックの近藤を呼んでディスカッション。プレッシングの出方を2人に提案し、選手の感覚とすり合わせて変更に至った。

藤森はスライドせずにそのまま中を締め、その後方に構える近藤がスライドする形。これによって相手にラインを越えさせなくなった。

選手が繋がって“価値”を証明
芽生えてきた「したたかさ」

「自分たちが用意していたものと、選手たちが中で見つけたものがあって、選手が見つけたものを優先した。彼らが基本形の中から生み出してくれたというか、ピッチ中で感じたものを優先させて、それがよかった。彼らの力だと思う」

藤本監督が選手たちの感性を称えれば、近藤も「『こういうのもいいんだな』というのがまた一つ増えた」と好感触を得る。

「ある程度立ち位置とかの決まりはあるけど、『そうじゃない』となったときの自分の価値というか…」

近藤の口にした「価値」というのは、髙木理己・前監督の言葉を引用したもの。チームとしての型がある中でも、相手に応じてどうアレンジしていくか――そこに選手の価値が問われている。

その手段として、「リレーション」というワードもあった。選手間の“繋がり”を意味しており、福島戦の事象に当てはめるとすれば、藤森と近藤が繋がって問題を解決。藤本監督のもとで積み上げてきた新たな型の中でも、昨季から培ってきた土台が生かされている。

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個々に目を向けても、アラートさが高まっている。例えば3バック中央の冨田は、177cmとセンターバックにしては小柄ながら、長身FWを相手に奮闘。東京V戦では185cmの木村勇大、福島戦では187cmの矢島輝一に自由を与えず、2試合連続の無失点に貢献した。

「取り切るのがベストだと思うけど、まずは前を向かせないとか、決定的なプレーをさせないところが大事。そこはどちらの試合でもできていた部分だと思う」

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次節のツエーゲン金沢戦でも、187cmのパトリックとの対峙が予想される。J1通算101ゴールを誇るブラジル人FW。ここでも無失点に抑えることができれば、チームとしても個人としても自信が増幅されるはずだ。

指揮官は就任会見の際、「勝者のメンタリティを植え付けたい」と話していた。そのためには守備のしたたかさが必要で、今はそれが芽生えてきている。自信を確信に変えるべく、結果を出して成功体験を積み重ねていきたい。


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