【Farewell-column】“マイケルバスケ”をこよなく愛した司令塔 信州BW・石川海斗

バスケットボールの2024-25シーズンが全て終了し、信州ブレイブウォリアーズからも退団者が発表され始めた。本企画はチームを去る選手・スタッフに敬意を表し、その働きぶりやチームに遺した財産などを改めて記録するもの。第6回は、2年間キャプテンの一人としてチームを引っ張ったベテラン司令塔・石川海斗にフォーカスする。
文:芋川 史貴/編集:大枝 令
KINGDOM パートナー
“マイケルバスケ”体現した司令塔
重要なミッションに挑んだ2年間
このリリースもまた、衝撃的だった。
キャプテンの一人・石川海斗が退団――。
勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)のバスケットを愛し、その体現者だった。

「コーチもバスケばかだけど、僕もバスケばかだと思っている」
「根本にあるのはやっぱり勝ちたいから。それは僕も一緒。勝ちたいから妥協したくないし、コーチが言ったことに対して疑問に思ったことは聞く。だからすごく信頼してくれていると思っている」
いずれも今季の開幕前、石川が発した言葉だ。バスケを純粋に愛し、勝負にこだわる選手であることがにじむ。

PROFILE
石川 海斗(いしかわ・かいと)1990年11月30日生まれ、東京都出身。明成高(宮城・現仙台大付明成高)から日大に進み、卒業後は4チームを経て信州に加入。初年度の2018-19シーズンにB2優勝の立役者となり、プレーオフのMVPに輝いた。翌年に移籍し、熊本ヴォルターズ時代の20-21シーズンは1試合19アシストのB2記録を樹立。23-24シーズンから信州に復帰し、2シーズンにわたってキャプテンの一人を務めた。170cm、72kg。
2018-19シーズンに信州に移籍してB2優勝に貢献。スピード感あふれるプレーやアンソニー・マクヘンリー、ウェイン・マーシャルらとの連係も抜群だった。
群馬クレインサンダーズ(当時B2)とのプレーオフ(PO)決勝戦で見せたブザービーターは、いつまでも色褪せないシーンの一つだ。
その後は熊本ヴォルターズで2年、ファイティングイーグルス名古屋で2年過ごした後、2023-24シーズンから再び信州でのプレーを選択した。

自身のさらなる成長と、強い覚悟を持って――。
難しいシーズンだったのは間違いない。ちょうどその時期はジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)や「三銃士」と呼ばれていた前田怜緒ら主力選手が相次いで退団。クラブを取り巻く環境にフラストレーションが溜まっていた時期でもあった。
そんなブースターに対して、2023年7月29日に行われた「上田わっしょい」に参加した際に石川は率先して力強いコメントを残していた。

「確かに人気のある選手がいなくなったのは大きいと思うけど、僕らは全然諦めているわけではない。長野のために戦おうと思って来てくれる選手はたくさんいるので、一緒に最後まで戦ってくれるとうれしい」
それはブースターを勇気づける言葉であり、他の選手を守る言葉でもあった。
しかし、期待とは裏腹にシーズンの成績は10勝50敗とふるわず、B2降格の憂き目に遭った。マイケルバスケの体現はおろか、ウェイン・マーシャルが復帰したシーズン終盤まで石川の持ち味を最大限に発揮することはできなかった。

そして今季はB1への復帰を目指して再び立ち上がったものの、結果としては達成することもできなかった。退団のコメントに、その悔悟が色濃くにじむ。
「この2シーズンを振り返った時に自分が帰って来てウォリアーズの一員として何ができたのか、何を残せたのか、色々考えた時に、1年目の降格、2年目の昇格未達成と一選手、キャプテン、ポイントガードとして勝たせられなかった事がすごく後悔として残っています」(原文ママ)

KINGDOM パートナー
マクヘンリーの精神を受け継ぐ者
ベテランとして責任とプライドも
確かにプロの舞台は結果が全てであり、それによって残酷な評価に繋がることも往々にしてある。
しかし、だ。
この2年間、本当に何も残さなかったわけではない。コート内外で、その功績は大きかった。

落ち込んでいたブースターに力強いメッセージを発信し、情熱を再点火した。取材に対してもマイケルバスケの一番のファンとして、緻密なスタイルの難しさや素晴らしさを、丁寧に噛み砕きながら教えてくれた。
その言葉によって多くのブースターがホームだけでなくアウェイにも足を運び、黄色と紺に魂を染め抜いた。

コート内でも同様だ。
今季は新加入のペリン・ビュフォードとの連係に頭を悩ませていた時期。歩み寄りながら、相互理解に時間を惜しみなく注ぎ込んだ。
その甲斐があり、シーズン終盤ではビュフォードとコンボガードとしてコートに共存。信州の2大エースとして「味方を生かして己も輝く」スタイルで、マイケルバスケに新しい風を吹き込んだ。

そして特に、先日終えたばかりのPOは記憶は新しい。
POの独特な雰囲気の中で、ベテランの一人として着実に役割を遂行。鹿児島レブナイズとのクォーターファイナルを突破。GAME1では「らしさ」全開のミラクルプレーも光った。
目標が断たれた状態で戦ったライジングゼファー福岡との3位決定戦でも、「応援してくれるお客さんのために」と、ケガを抱えながらも最後までチームの中心としてハードに戦った。

それはまさにかつての戦友アンソニー・マクヘンリーが示した「ケガと痛みは違う」という不撓不屈の精神。明成高(宮城)で磨かれ、信州でシンクロした。
再びの共闘はかなわなかったが、かつて目の当たりにした「55番の精神」とそのカルチャーは石川にも受け継がれ、4年間の熟成期間を経て、しっかりとチームに還元した。

結果的に2年間の集大成となったGAME3では怒涛の連続3ポイントシュートを沈めて勝利に大きく貢献。結果以上に「バスケットの面白さ」と、昨季は果たせなかった「勝利でのシーズン締めくくり」をもたらした。
良い時も悪い時も。常に矢面に立ってきた。その言葉にはベテランとしての責任やプライドが滲んでいた。在籍した3年間で信州のカルチャーを育み、成長させてくれた選手の一人であることに疑問を差し挟む余地はない。

「ウォリアーズとは別々の道へ進む事になりましたが、まだまだ選手として成長したいと思っています。ウォリアーズも石川海斗という選手も応援していただけると嬉しいです」

最後に、そんな別れのコメントを残した。
現時点では移籍先は発表されていない。
それでも石川はこれからも「日々成長」を続け、再び対戦する時がくれば「石川海斗被害者の会」をまた増やして、手強い相手となって立ちはだかるに違いない。
