プロ選手も人生の目標を叶える“一つのツール” 元信州BW・山本楓己が貫く信念

2023-24シーズンに信州ブレイブウォリアーズでプレーした山本楓己。177cmという決して大きくない体格ながら、持病を抱えながらもプロの舞台に立ち続ける彼には、もう一つの顔がある。「Fukiproject」という独自のプロジェクトを通じて、ハンデを抱える人々に夢と希望を届ける活動だ。プロ選手として、そして一人の人間としての山本の信念に迫った。
文:芋川 史貴/編集:大枝 令
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持病を抱えてもバスケへの情熱絶えず
大学時代から始まった「Fuki project」
「プロ選手も1つのツールでしかない。やっぱり人生の目標は『夢や希望を与えられる存在になること』や『憧れてもらえる存在になること』」
山本楓己がそう語る背景には、自身の体験がある。

177cmという体格はバスケットボール選手としては決して恵まれているとは言えない。さらに、生まれつきのアレルギー体質に加え、小学5年生で「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」を発症。中学3年生の時には朝練中に救急車で運ばれた経験もある。
愛知県出身。中学時代にジュニアオールスター県選抜に選ばれ、全国大会の舞台も経験した。しかし持病により、合計10校以上に断られ続けた。半ば諦めかけていた時期もあったという。
それでも親や学校の先生の支えもあり、愛知県の安城学園高に進学した。
その後、2年間の無所属期間、琉球ゴールデンキングスでの1年間の練習生期間を経て、念願のプロ契約を信州ブレイブウォリアーズと締結。昨季はB2神戸ストークスに在籍し、新シーズンはB3八王子ビートレインズでプレーする。

「『ハンディキャップを抱える人に夢や希望を与える』というコンセプトで(名古屋学院)大学3年生の時にインスタグラムで始めたのがスタートだった」
山本が立ち上げた「Fuki project」は、自身と同じようにハンデを抱える人々に向けた活動。「山本楓己応援Tシャツ」の発信から始まり、海外挑戦前のケガや、プロ契約に至るまでの過程を克明に発信し続けてきた。

「(プロジェクトを立ち上げた当初から)ずっとコンセプトは変わっていない。プロにもなれて、そこで出会えたお客さんや仲間や、同じようにハンディキャップを抱える人たちに夢や希望を与えたい。それだけでなく、元気とか生きる活力とか何か受け取ってもらえる人になりたい」
報恩謝徳の思いを込めて力強く語る山本。プロ生活を送る中で、この思いはより一層強くなったという。
バスケットボール以外の活動や発信を行うプロ選手は年々増加傾向にあるが、それに対する批判も少なくない。「バスケに集中すべき」といった声に対して、山本はどう向き合っているのか。

「もちろん発信する上で難しい部分は結構あるし、多くのプロ選手がそれを抱えているからこそ制御していることも多分あると思うし、それはそれで良いかなと思う」
「ただ僕はバスケットだけの人生だとは思っていない。『周りの方の目で自分がやりたいことをやれないのはなしにしよう』という思いもあるので、そこは勇気を振り絞って覚悟を決めてやっている」
さらに山本は続ける。

「結果を出さないといけないことはプロ選手みんな一緒だし、じゃあ僕が遊んでいるかって言われたら全くそうじゃなくて、誰よりもハードワークしている」
「それを踏まえた上で、各々が家庭に費やす時間や遊びに行っている時間を自分はこういう活動に費やしているだけ」
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プロキャリアの“故郷”でファンと再会
今後もコート内外での活動に意欲
そんな山本の思いに賛同する人々は確実に増えている。2025年5月25日、長野大で行った「第2回Fuki project大運動会」。約80人のファンが集まった。
昨季まで在籍していた信州ブレイブウォリアーズの本拠地・長野での開催。山本は語る。

「僕のプロキャリアをスタートできた場所は今後も色褪せない特別なものが絶対あると思っていて、それは離れた2年目で特に感じていた」
「信州でのファンの方もそうだし、昨季のチームも自分にとって本当に良い思い出として残っている。だからこそ、特にファンの方との関わりは途絶えさせたくないという思いはすごく強かった」

小玉大智も参加して行ったイベント。「○×クイズ」や「じゃんけん列車」、「5対5のミニゲーム」など、バスケットから離れた競技も含めた5種目を楽しむ。参加者全員が年齢関係なく競技に没頭し、体育館中に笑顔が咲いた。
「最初はバスケットボール系のイベントをやりたいと思っていたけど、そこから離れてみんなが参加できるイベントを作りたかった。『子どもと大人が一緒になってはっちゃけられるものにしたい』という思いから運動会をやることにした」

決してエリート街道を歩んできたわけではない。
しかし、そんな山本だからこそ示せる道がある。
それは困難な道のりでもあったし、どこか素朴でもある。現実味がある。だからこそ勇気をもらい、背中を押される人たちも多いのではないだろうか。

「プレーヤーとしてコート上で活躍することでそういうものを受け取ってもらえる可能性はもちろんあると思う。ただそれだけじゃなくて、いろんな方法を使ってそれらを成し遂げたい。自分の年齢とかは関係なく活動は続けていきたいし、今後スケールも大きくしていきたい」
山本楓己という一人のバスケットボール選手が貫く信念。それは、プロスポーツの世界に新たな価値観をもたらし、多くの人々に希望を与え続ける。コートの内外で輝く山本。主戦場を八王子に移し、これからも挑戦を続けていく。

Fuki project
https://fukiproject.com/
Bリーグ 選手個人成績 山本楓己
https://www.bleague.jp/roster_detail/?PlayerID=51000322