日本人選手の練習が開始 高みを目指して久山智士TACが意識した“地ならし”

ボールが弾む音、バッシュの擦れる音、選手たちの声――。信州ブレイブウォリアーズの熱気がホワイトリングに戻ってきた。2025年7月22日から久山智士トップアシスタントコーチ(TAC)のもと、日本人選手のみでの練習が開始。8月11日からは勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)も合流した。全体練習前のこの期間、久山TACは何を意識して練習を組み立てていたのか、話を聞いた。
文:芋川 史貴/編集:大枝 令
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ホワイトリングに熱気が戻る
「楽しみなグループになりそう」
昨季の3位決定戦GAME3の戦いから約2カ月が経過した7月22日、2025-26シーズンのチーム活動が開始した。
今季のオフシーズンを振り返ると、信州に9年間在籍した三ツ井利也の移籍や、スタメンポイントガードとしてチームを引っ張った石川海斗の移籍など、衝撃的なリリースが多く飛び込んできた。
その一方で、青野和人チーム本部長の就任や、土家大輝、小栗瑛哉、東海林奨といった2000年度世代の加入が注目を集めている。

各種イベントも次々と始まり、ブースターもオフシーズンならではの近さで選手との交流を楽しみ、「応援しています」「会場まで観に行きます」などと言葉を交わしていた。
そのようなブースターの思いを一心に背負い練習に取り組んでいる選手たち。まだまだハーフコートでの練習が中心ではあるものの、高いエネルギーで次々とメニューをこなしていた。

その姿に久山TACも目を細める。
「今年は例年よりも少し遅めのスタートではあったけれど、各々にしっかりと準備をしてきてくれている印象がある。まだ練習を始めて少ししか経ってないけれど、『楽しみなグループになりそうだ』という印象」
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指揮官の“右腕”として日々成長
勝久HCが求めるバスケの伝道者
8月11日に勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)が合流するまで、チーム練習は指揮官の右腕とも呼べる久山TACが練習を仕切ってきた。
「第一のゴールとして掲げているのは、マイケルコーチが合流したタイミングで5対5を多くやると思うけれど、まずはそこでしっかりとパフォーマンスができることと、ケガをしない身体作りが一番の全体的なゴールになる」

このほかにも大切にしている部分がある。
「特に新規の選手たちがマイケルコーチが合流した時に自分たちが使っている専門的な言葉だったり、どういうところをマイケルコーチが大事にしているのか、どういう考えでバスケットボールをやっていくのか。その考えの部分をなるべく早めに知っておいてもらいたい」

勝久HCが合流後は、日々のインプット量は格段に増えていく。ハーフコートでの分解練習がどのようにオールコートでのプレーに繋がるのか。一歩一歩のズレ、0.1秒のズレが試合にどのような影響を及ぼすのか。
勝久HCが求めるバスケを必死に覚えて体現できなければ、プロとして細部までこだわれなければ、コートに立つことは困難となる。

「マイケルコーチが合流した時に一から学ぶのでは時間的には足りないと思う。なのである程度基本的な部分や、一番大事にしている部分を先に伝えておくことは練習メニューを考える上でも大事にしている」
おおまかな練習のスケジュールに関しては勝久HCから共有があるものの、具体的な練習メニューについては勝久HCから指示があるわけではない。久山TACはそう明かす。

「今年ラスベガスに行って、その時にマイケルコーチとも一緒にいろんな選手を見たり、NBAの練習を見学させていただいたりする機会があった」
「その中で練習の話とかはしたけれど、『こういうことをやってくれ、こういうふうにしておいてくれ』ということは今まで言われたことはない」

横浜ビー・コルセアーズ時代に出会ってから早14年。最初は選手とコーチの関係だったこともあり、現役時代には身をもって勝久HCの厳しさやバスケットの奥深さを体験してきた。
だからこそ、説得力を持って勝久HCが求めるレベルの厳しさを伝えるのも、それに対して選手が乗り越えられるように後押しするのも、久山TACの重要な役割の一つだと言える。
今季は「集大成のような気持ちで」
コーチ陣にとっても勝負の一年へ
練習後も新加入選手とともにワークアウトを行っていた久山TAC。選手の動きを確認しながら、実際にボールを扱って、そのプレーの意図やポイントを細かく伝える姿が見られた。
その説明に対して深く頷きながら、すぐに自分の動きへ落とし込む新加入の選手たち。同世代ということもあるのだろうか。一つ一つのプレーを取って見ても、どれもが激しく競争をし合った中でのプレーとなっていた。

「新しく入った3人は『貪欲に成長したい』というのがすごく伝わる。本当にたくさんいろんなことを吸収してほしいと思わせてくれるような3人です」
指導する久山TACも時に笑顔を見せながら選手たちの姿を見つめていた。その目の奥にはどのような展望を描いているのだろうか。

「今季Bリーグ(の現レギュレーションが)最終年度で、来年からまた新たな年になるということで一つの区切りになる。『集大成』という気持ちで『大きなことを成し遂げたい』と本気で思っている」
「目指している場所は一つしかないのでここでは言わないけれど、昨季成し遂げられなかった部分を今季達成できるように、日々成長さえし続ければ絶対にその場所に辿り着けると考えている」

信州で勝久HCの右腕となって今季で6年目を迎える久山TAC。目指すのは昨季届かなかった「あの場所」ただ一つだけ。
来季からはBプレミアでの戦いが決まっている信州。選手たちの挑戦が始まるとともに、久山TACにとっても勝負の一年が今季も始まった。
