機動力ある3×3を“バスケの伝道師”に 信州×武井弘明で見据える「ALL信州」

3×3の機動力をフル活用し、信州の地にあまねくバスケを広める。株式会社NAGANO SPIRITは2025年9月11日に長野県庁で記者会見を行い、「信州ブレイブウォリアーズ 3×3」の運営を始めることを発表した。かつて信州ブレイブウォリアーズに在籍した武井弘明が代表を務めるFROM SHINSHU合同会社から事業を譲り受けた形。「ALL信州」に向けた新たな取り組みとして、その可能性や思いを聞いた。

文:芋川 史貴/編集:大枝 令

KINGDOM パートナー

4年ぶりにウォリアーズに“帰郷”
バスケ普及のミッションに挑む

「3×3を全県で盛り上げていきたいし、『信州ブレイブウォリアーズ』として恥じぬ活動をしていこうと思っている。選手としては世界を目指せるように、自分も切磋琢磨して若手の子たちと日々精進していこうと思っている」

若干の緊張感をにじませつつ、堂々と意気込みを述べた武井弘明。その左胸には、信州ブレイブウォリアーズのロゴが輝いていた。

信州では2016-21シーズンにわたって活躍。5人制から離れた後は、故郷・松本市を中心に3×3に取り組みながらバスケットボールの普及活動を続けていた。

なぜこのタイミングで信州と武井の道は再びクロスすることになったのだろうか。

2026-27シーズンからBプレミアへの参入が決定している信州。バスケ界全体の事業規模拡大に伴って全県からの支援が必要となる中で、トップリーグ参戦を継続させるためには、5,000席以上を確保できるアリーナでの開催が必要不可欠となっている。

そのため県内では公式戦の開催地が長野市のホワイトリングと松本市のエア・ウォーターアリーナに限定され、長野県全域への伝播が物理的に難しい。

その中で白羽の矢が立ったのが3X3の特性だ。

3X3はハーフコートで行えるコンパクトな競技。商業・文化施設や観光名所、商店街の一角など、場所を選ばずに興行が行える。

その機動力を最大の武器とし、長野県全域で試合やスクール活動を行う。それを通じて、今までチームやプロそのものに触れる機会がなかった層にリーチ。チームの存在を身近に感じてもらい、応援してもらう環境を醸成していく。

木戸康行・代表取締役社長の言葉にも熱がこもる。

「バスケットボールの普及促進にとにかく努めていく。もっともっとバスケットをみなさんに知ってもらって、愛してもらいたい。もっとバスケットに参加する機会、触れる機会を作っていきたい」

ボールに触れる回数が多い3×3
トップとU18とのパイプ役にも

Bリーグのチームで3×3を傘下に置くチームはこれまでB1の宇都宮ブレックスに加え、ともにB3のしながわシティとトライフープ岡山の3チームのみだった。

そこに信州ブレイブウォリアーズが4チーム目として名を連ねる。

名称は「信州ブレイブウォリアーズ 3×3(スリー・エックス・スリー)」。3XS(トライクロス)リーグの全12チームからなるDIVISION1を舞台に戦う。

シーズンは既に始まっており、9月13日にイオンモール笠間(茨城県)で開催されるROUND5から名称を変更して臨むという。

クラブ内のピラミッド構造の中では、トップチームとU18の間のカテゴリーに組み込まれた。その意図を青野和人チーム本部長は説明する。

「Bプレミアが始まると、U18とトップチームの差がものすごく生まれてしまう。その中で3×3で経験値を積んでトップチームに上がれるような、育成部分も関わるチームを作れればと思う」

「指導方法を一貫することで、ユースとして育って、身体作りや競技性を理解した上でトップチームの選手を輩出することも夢見ている」

3人制は5人制と比べるとボールに触れる回数が格段に多い。1対1の仕掛け方や、その守り方は5人制にも生かされる部分も少なくない。

また、ストリート発祥という特性からも、勝負にこだわるメンタルや、時には個人で相手を倒し、時にはチームで守るといったメンタルの成長にも大いに役立つ競技だと考えられる。

もちろん「育成の受け皿」だけでは終わらない。3×3競技としても、ゆくゆくは上位を狙って世界を見据える。それはトップチームが目指す未来像とも重なる。

「ただ単に『育成だけ』『受け皿』というだけでなく、しっかりチームとしても世界に挑めるようなチームを作っていければと思っている。我々のチームからオリンピック選手を輩出するようなチームでありたい」

青野本部長も可能性を口にする。

観光促進や新たな体験への一手
“ウォリアーズ熱”を全県に伝播

3×3チームを抱える意義は、「クラブの認知度を高める」といった表面的な効果だけにはとどまらない。

例えばBプレミアになると現行の水曜日+土日開催だけではなく、平日開催も含めて中1日が空くなど変則的な開催となる。従来までのカレンダーに慣れていたら、「観戦がしづらくなった」「楽しみが減る」といった意見も出てくるだろう。

一方で3×3の自主興行を増加させることができればどうか。今までは週に2回だけの楽しみだったのが、さらに増加する可能性もある。

木戸社長が展望を口にする。

「将来的にはそこに3×3の自主興行をどんどん入れて、日本選手権をホワイトリングでやるような流れを作っていきたい。そうなるとより一層観光促進にも繋がっていく」

「長野県は良いところがたくさんある。ゲームを観て日帰りするのではなく、できれば前後1週間ぐらい泊まってもらって、長野県の良いところを観たり、美味しいものを食べたりしてもらえたら」

このほかにも3×3は武井のように、5人制を引退した選手のセカンドキャリアとして機能する。一度プロを諦めたアスリートに対しても、プロの舞台を再び目指せるシンボルにもなり得る。

つまり「ウォリアーズ」の名のもとに、観戦するだけでなく、実際に競技者としてプロを目指せる門戸が広がる。その側面も、地域に眠るエネルギーの底上げに寄与するはずだ。

バスケットを「する」側にも「観る」側にも、その伴走者として信州がある。

「みなさんの生活圏内で3×3ができる。なかなかスポーツに興味がない方もいる中で、そういった方たちの生活圏内で、私たちの『興奮』『感動』の物語を見せれば新しいコミュニティができてくる」

「そういったところで街全体を、長野県全体を盛り上げていきたい」

武井はそう力を込める。近年は右肩上がりのカーブを描いている信州。それでもまだまだ県内には、熱量と感動を届けられる余地が眠る。可能性をくまなく開拓していくために、3×3の機動力で切り込んでいく。


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