8試合ぶり白星に導いた忽那喬司 自身初のドッペルパックは “オレンジの結晶”

東北の地でようやく晴れ間が差した。AC長野パルセイロは2025年9月28日、アウェイで福島ユナイテッドFCに4-1と大勝。今季最多の4得点で、8試合ぶりの勝利となった。渾身の2ゴールで窮地を救ったのは、ゲーム副キャプテンのMF忽那喬司だ。チームと自身を包む霧を振り払い、存在価値を証明した。

文:田中 紘夢

影を潜めていたクオリティ
自問自答の日々を乗り越えて

「自分が復帰してから勝てないな…とすごく悩んでいた。毎日苦しんでいたぶん、この勝ちは大きい。自分を信じてよかった」

5月31日、第14節の奈良クラブ戦で負傷交代。右膝内側側副靱帯損傷と診断され、2カ月半にわたって戦列を離れた。

復帰後も右膝に痛みを抱える中で、パフォーマンスは低調だった。右足のシュートやクロスの質が上がらず、プレースキックもフィーリングが合わない。持ち前のクオリティが影を潜め、自問自答の日々が続いた。

「あれだけ休んだ中でもすぐに復帰させてくれるスタッフもいるし、それを理解してくれるチームメイトもいるし…。もっと自分の存在意義を価値あるものにしないといけないし、ありがたみを持ってプレーしないといけない」

「ケガを言い訳にしていたつもりはないけど、自分の中でそういう意識もあったのかもしれない。『再発しないで』と言ってくれるサポーターもいるけど、シーズンが終わるまでは全力でやり切るしかない」

忽那はクオリティで勝負するタイプ。「数を打って入れるというよりは、1本を仕留めるつもりでやらないといけない」と本人は自覚する。藤本主税監督も、そのクオリティを信じて復帰早々から起用し続けてきた。

その期待に存分に応えたのが、前節の福島戦だ。

MF古賀俊太郎のスルーパスに抜け出して先制点。ファーストタッチで相手の前に入り、GKが出てきたところを冷静にループで沈めた。

2点目は自身のプレースキックから。鋭いFKをDF大野佑哉の頭に合わせ、こぼれ球をDF冨田康平が押し込んだ。

3点目は古賀のシュートのこぼれ球を仕留めた形。相手がスライディングしてきたところをキックフェイントでかわし、利き足とは逆の左足で流し込んだ。

味方のアシスト、指揮官の言葉…
2ゴールは“オレンジの結晶”

プロキャリア初の2ゴールで、チームにとっても今季初のドッペルパッカー(1試合2得点を挙げた選手)となった。

自らのクオリティで違いを生んだが、それを引き出したのは頼れるボランチ。古賀俊太郎だ。

まずは1点目。ボールホルダーの古賀に対し、左ウイングバックの忽那は、相手右サイドバックの外側でパスを受けようとしていた。しかし、古賀が選んだのは右サイドバックの内側だ。相手のセンターバックがシャドーに食いついた隙を見逃さなかった。

「足元で受けようとしていたので、『裏か!』と思ったけど、間に合うスピードで出してくれた。本当に(古賀)俊太郎のセンスだなと…」

2点目も古賀が攻撃を組み立て、そのままゴール前に入ってシュートを打ったこぼれ球から。セットプレーの流れで右サイドにいた忽那の足元にこぼれてきた。

1点目は足元で受けようとしたら裏に来て、2点目は左サイドにいるはずが右サイドにいた。“偶然”も重なっての2ゴールだったが、それを“必然”に変えたのは忽那のクオリティだ。いずれもペナルティエリア内で一切慌てることなく、相手を冷静に見てゴールに沈めた。

藤本監督はリーグ最少得点に陥る中で、アタッキングサードでの大胆さとともに、フィニッシュの冷静さも求めてきた。「リラックス!」という言葉は、練習から耳にタコができるくらい聞かされていた。

「主税さんの言葉が聞こえるくらい、リラックスしないといけないなと思った。それもあって力は入らなかった」

チームメイトや指揮官の力も借りての2発は、“オレンジの結晶”。忽那はゴールの余韻に浸る前に、周囲への感謝を示した。

会心の勝利で降格圏を脱出
申し分ない結果を経て“祭り”へ

復帰後初ゴールの忽那に限らず、チームとしても霧が晴れた。

今季最多の4ゴール、17試合ぶりの複数得点、8試合ぶりの勝利――。順位も19位から17位に上がり、J3・JFL入れ替え戦圏内を脱出した。

申し分ない結果に終わり、藤本監督は「ホッとしている」と本音を漏らす。とはいえ、その表情に慢心する様子はない。

「この試合の4点にどんな意味があるかは、次の試合で決まると思う。過去で未来は決まらないし、次の試合が未来だけど、過去がよかったと言えるようなものをまた示したい」

次節はホームにツエーゲン金沢を迎え、年に一度の「パルセイロフェス」が開催される。かつて全国高校サッカー選手権の応援歌を歌った大原櫻子さんを筆頭に、多彩なパフォーマーが場を盛り上げる。

大物アーティストの力を借りはするが、祭りの主役は獅子たちだ。紅葉の季節の始まりを告げるように、オレンジに染まった長野Uスタジアムを沸かせられるか。愛媛FC時代からオレンジ一筋の忽那も、その一役を担う。


J3第30節 ツエーゲン金沢戦 ホームゲーム情報
https://parceiro.co.jp/info/detail/2025j3_30
クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/
長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

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